★取材を終えて、何を感じていますか。


●各支援団体の方々のご協力もあり、「はじめに」で述べた本冊子作成企画の第一の目的――民間支援の現状を俯瞰できる情報地図をつくること――は、なんとか達成できたのではないかと思っています。ただし、地域的な支援体制の構築という点からすれば、それはほんの第一歩に過ぎないと思っています。 現状ではまだ、各支援団体の取り組みは、それぞれの地域における孤立した「点」でしかありません。「点」では、多様化する「不登校・ひきこもり」のニーズにとても応えきれない。それを「線」や「面」にしていくためには、あちこちで言われる通り「支援団体・機関の間の横の連携・協働」や「ネットワークづくり」が必要です。それにはまず、各団体・機関が互いに互いを知らなければなりません。本企画は、この相互理解のための素材提供でもあるわけですが、当然ながら、それだけでは「協働」や「連携」には不十分です
 では、さらに何が必要か。それは、支援団体どうしの「対話」の機会ではないかと考えます。「対話」の目的は相互理解です。相互理解とは、互いの価値観の差異を解消して同じになることではなく、互いの考えかたや前提の違いがどこにあるのかを探り当て、それを共有することです。これができれば、相互に棲み分けができ、必要に応じて「協働」や「連携」も可能となるでしょう。その辺りを目標として、民間サイドからの地域的な支援体制づくりを進めていくつもりです。


★「対話」の機会づくりとは具体的には何ですか。


●複数の支援団体どうしが同じ土俵で話す機会をつくるということです。現在のところ、具体的には、パネル・ディスカッションという形式や、各支援団体が集まっての合同研修会という形式を考えていますが、そうした機会をつくることで、「点」どうしを相互につなぎ「線」にしていきたいと思っているんです。他者との「対話」は、それとは異なる自分たちの独自性を探る格好の機会になります。自分たちの固有性について知っているということは、「自分たちにできること/できないこと」の区別をちゃんとつけることができるということでもあるし、それができれば、もし「できないこと」が出てきたとしても、それを「できる」誰かにつなげることができる。それはつまり、自分たちが属する地域全体で、苦しんでいる人たちを支援しているということを意味する。いずれにしても、「対話」は、地域的な支援体制づくりにとってとても重要な作業になるわけです。
 本企画で、私たち「ぷらっとほーむ」は各地の支援NPOに聞き取りを行ったわけですが、見かたを変えればそれは、「ぷらっとほーむ」とその他の各支援NPOとの間での「対話」でもあったわけです。今回、企画を進める過程で私たちはたくさんの果実を手にしましたが、同じ過程は、他の支援団体にとってもたくさんの果実をもたらしてくれるものと思います。


★最後になりますが、読者の方々に何かどうぞ。


●最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。あなたの住む地域で活動している支援団体はありましたか。あるいは、興味を惹かれた支援団体はありましたか。いずれにしても、本冊子はあくまで単なる「ガイドブック」です。実際にそこに足を踏み入れるための「手引き」にすぎません。あなたにとって、その活動なり場所なりがどういう現れかたをし、どういう意味をもつものになるのかは、実際にそこに足を運び、その場に身を投じてみなければ、決して見えてくることはないだろうと思います。かといって、未知の世界に身を投じるのは、とてもとても勇気や覚悟がいることです。あなたがその貴重な一歩を踏み出すにあたって、少しでもこの冊子がお役に立てますように。
 本冊子を作成するにあたって、ご理解とご協力をいただいた全ての方々に心から感謝したいと思います。インタビュー取材に快く応じてくださった、齊藤啓司さん、花木剛士さん、みやびさん、大村健二さん、大竹佳代子さん、白幡康則さん、鈴木若菜さん、八鍬美津子さん、菖蒲順子さん、高原敏明さん、黒沼恵子さん、橋信子さん、松井愛さん、岩川耕治さん、新藤明美さん、白石祥和さん、森健太郎さん、伊藤正俊さん、武義和さん、貴重なお話をどうもありがとうございました。
 取材にいたる準備段階での情報収集においても、たくさんの方々にご協力をいただきました。特に、村山保健所「ひきこもり地域ケアネットワーク」事業や庄内地域若者サポートステーション「若者支援ガイドブック」事業、教育やまがた振興課「プロジェクトYY」事業からはたくさんのことを学ぶことができ、それらを本冊子にも反映させることができました。この場を借りてお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
 最後にもう一つだけ。とうとう再会を果たせなかったHさん。二年前のあなたの「他の支援団体のことももっとよく知りたい」との言葉も、本企画を動かした力の一つです。おかげで本冊子ができました。あなたとの出会いに感謝するとともに、ご冥福をお祈りいたします。  本冊子『居場所の歩きかた』は、独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」助成事業(平成二〇年度)の助成を受けて作成され、発行されます。




二〇〇九年 三月
ぷらっとほーむ  滝口克典