第40回「肝寿会」肝臓教室

講演:肝がん診察の進歩と残された課題

202.12.4

講師:田尻 和人

要旨

 慢性肝疾患では肝臓で炎症が慢性的に生じた結果、肝硬変・肝がんへと至ります。肝がんは肝疾患の最終終着駅であり、本邦では第4位(男性)から第6位(女性)の死亡率を有する怖い病気です。近年、治療法や診断法の進歩などによりその死亡率はやや低下傾向にあるますが、まだまだ注意が必要です。

これまで肝がんの原因の肝臓病としてはウイルス肝炎が最多で、C型肝炎が最も多くみられましたが、最近では画期的な治療薬の出現により、C型肝炎は根治可能な疾患となりました。

一方、ウイルス肝炎以外の原因は年々増加傾向となっており、脂肪肝、アルコールなどによる肝障害に注意が必要となっております。生活習慣に気を付けていただき、バランスの良い食事をとり適度な運動を心がけましょう。

 肝がんの治療は日々進歩しています。外科治療も開腹手術から腹腔鏡下手術と低侵襲化が進み、ラジオ波焼灼療法などの局所療法も小さな癌であれば外科切除と変わらない成績が得られており、日々治療器具の開発がすすめられています。肝動脈化学塞栓療法においても治療器具の開発は進んでおり、適切に診断し、それぞれの治療法のメリットを生かした治療戦略が必要となります

。最近特に進歩が進んでいる領域としては肝がんに対する化学療法(薬物療法)です。10年ほど前にはエビデンスのある有効な薬剤はありませんでしたが、2009年のソラフェニブ(分子標的薬)に始まり、ここ数年で5種類の分子標的薬が使用可能となりました。

さらに昨年からは免疫チェックポイント阻害剤と分子標的の併用による複合免疫療法が登場し、進行肝がんに対する治療戦略は大きく変わりつつあります。
免疫チェックポイント阻害剤は、本来我々の持つ免疫力を最大限に活用しがん治療を行うもので、これまでの抗癌剤と比べ、抗腫瘍効果が持続することや副作用の軽減などが期待されています。
肝がん自体は抗癌剤に抵抗性の強い腫瘍で、また免疫療法単独でも効果が十分でありませんしたが、複合免疫療法ではこれまでの分子標的薬治療成績を大きく超える効果が期待されており、また今後様々な組み合わせの複合免疫療法が登場してくる予定です。肝がんの予後(余命)は改善してきており、これからさらなる改善が期待されます。

 本邦の肝疾患の大部分を占めていたC型肝炎も根治可能となり、肝臓病教室を支えていただいた患者さんもご高齢となり、メンバー数も随分減少したこともあり、今回の肝臓病教室の第40回という節目をもって終了するということです。これまで肝寿会肝臓病教室では、患者さんと一緒に我々も勉強させていただき、白衣以外で患者さんとお会いできる大変貴重な機会でした。これまで会の運営にご尽力いただいた会長さんをはじめ、肝寿会の患者様皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。またなにかご相談やこうした勉強会の開催の要望などありましたら、担当医や看護相談室の方にお知らせください。 これまで本当にありがとうございました。

スライド

目次

ページ 1 肝がん診療の進歩と 残された課題

ページ 2 本日の内容

ページ 3 肝細胞がんは多くは慢性肝疾患を背景として生じる

ページ 4 部位別がん死亡率の推移

ページ 5 わが国の肝細胞がんの割合

ページ 6 肝疾患の大きなパラダイムシフト

ページ 7 肝がん治療の進歩

ページ 8 肝がん手術死亡率

ページ 9 腹腔鏡下肝切除術

ページ 10 SURF試験

ページ 11 ペースメーカー装着中3.5p大HCC患者のRFA治療

ページ 12 肝動脈化学塞栓療法

ページ 13 進行肝細胞がんに対して⇒全身化学療法

ページ 14 進行肝細胞がんに対する治療開発 2018年時点

ページ 15 進行肝細胞がん治療の進歩 二次治療

ページ 16 進行肝細胞がん治療の進歩 1次治療

ページ 17 進行肝細胞がん治療の進歩 2次治療

ページ 18 進行肝細胞がんに対する治療の新たな展開

ページ 19 免疫チェックポイント阻害剤

ページ 20 分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤併用による生存延長効果

ページ 21 わが国で進行中の肝細胞癌に対する第三相試験

ページ 22 肝細胞がんの予後は改善しつづけている

ページ 23 肝硬変症の原因の変化

ページ 24 HCV排除のインパクト (IFNによる)

ページ 25 非代償性C型肝硬変に対するDAA治療

ページ 26 糖尿病があるとがんの発症の危険増加

ページ 27 肥満だけでもがんの発症の危険増加

ページ 28 いま脂肪肝が増えています

ページ 292016年から2030年のNAFLD患者の発症予測

ページ 30 NAFLD/NASHはどんな病気?

ページ 31 これからの肝臓病について

ページ 32 肝寿会勉強会テーマ

要旨(PDF)

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