第38回「肝寿会」肝臓教室

講演:肝臓ことはじめ 〜肝臓病の理解のために〜

2019.12.7

講師:二日市 有花

要旨

 今回、『肝臓ことはじめ〜肝臓病の理解のために〜』というテーマで、肝臓の解剖や生理、肝機能を保つことの大切さについてお話させていただきました。

 肝臓は右上腹部にある人体最大の臓器で、成人では約1.2kgの重さがあります。普段は肋骨に覆われているため、体表から肝臓自体を直接触れることはできません。

 肝臓の機能としては、消化管と強いつながりを持つことで、さまざまな物質の代謝や合成などにかかわっています。消化管からでていく門脈血はすべて肝臓に運ばれ、そこで物質の代謝、合成、解毒などが行われます。また、肝臓では脂肪の消化を助ける胆汁が作られますが、胆汁は胆管を通って十二指腸に排出されています。肝臓は消化液を作る機能も持ち、食物の消化・吸収にも重要な役割を果たしています。

 肝臓の働きは具体的には主に3つあり、@タンパク質の合成、A有害物の解毒、B胆汁の生成が挙げられます。その他にも、糖の貯蔵や分解、脂肪酸の分解など多岐にわたります。
まず、1つ目のタンパク質の合成についてですが、食事中のタンパク質は消化管でアミノ酸に分解・吸収され、門脈から肝臓に運ばれて再度タンパク質が合成されます。肝臓で合成される唯一のタンパク質がアルブミンであり、肝臓の合成能をみる指標にもなっています。
次に2つ目の有害物の解毒についてですが、肝臓では薬物やアルコールなどの解毒を行っています。アルコールの代謝産物として生じたアセトアルデヒドが毒性を持つため、生成されたアセトアルデヒドの量が増えると肝障害の原因となります。なお、アルコール代謝酵素の誘導には個人差があり、代謝活性が低い人は少量の飲酒でも血中のアセトアルデヒドの濃後が高くなり、肝障害が起きやすくなるので、注意が必要です。
3つ目の胆汁生成についてですが、肝臓では胆汁の主要成分である胆汁酸がつくられます。胆汁は一日に約600ml-1200ml生成され、胆嚢で濃縮された後に十二指腸に分泌されて脂肪の消化・吸収に関わっています。

 肝臓の働きについてみてきましたが、では普段の日常診療でどのように肝臓の状態や機能を評価しているのでしょうか。基本的には血液検査や腹部エコーやCTなどの画像検査を行い、場合によっては肝生検といって肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で炎症細胞や線維化の程度をみることもあります。
血液検査について、肝臓の障害の程度を評価する項目としてAST(GOT)とALT(GPT)があります。ASTとALTはともに肝逸脱酵素と呼ばれており、肝細胞に含まれるため、肝細胞が障害されると上昇してきます。ASTとALTは肝内での分布に差があることから、アルコール性肝障害ではAST優位、慢性肝障害ではALT優位になるなどの特徴がみられます。肝予備能を評価する項目としては、Alb(アルブミン)、PT(ピーティ)、Bil(ビリルビン)があります。Albは血液中の総タンパク質の約6割を占める重要なタンパク質であり、肝臓のみで合成されるため、アルブミンの値をみることで肝予備能を評価できます。PTは肝臓で作られる血液凝固因子を反映しており、これも肝臓の予備能評価の項目の1つとなっています。Bilは古くなった赤血球が破壊されるときに放出される黄色い色素であり、肝臓に運ばれて処理された後に胆汁中に排出されるため、肝細胞が障害されるとビリルビンが上昇します。これらのAlb、PT、Bilの3つはChild-Pugh分類の評価項目の中に入っており、肝機能を評価する上で重要な指標となります。
 次に画像検査ですが、ここでは腹部エコーの所見について述べます。正常な肝臓は辺縁がなめらかですが、慢性肝疾患では肝臓の辺縁が丸みを帯びてきます。さらに肝硬変に進行すると、肝臓の表面の凹凸が目立ち、右葉が萎縮してきます。また腹水がある場合は描出できることもあります。また、エコーでは肝臓形態を観察できるだけでなく、肝硬度といって肝臓の硬さをフィブロスキャンで定量的に測ることもできます。

 ここまで肝機能の評価方法をみてきましたが、それでは、肝臓の機能が低下すると身体にどのようなことが起こるでしょうか。冒頭にでてきた肝臓の3つの機能がありましたが、まず1つ目のタンパク質、特にアルブミンの合成が阻害されると、浮腫や腹水などの間質に水がたまる症状がでていきます。お腹に水が溜まって張ってきたり、両足がむくんだりすると、アルブミンが低下しているための症状と考えられます。2つ目の解毒機能が低下すると、体にとっての有害物であるアンモニアの解毒がうまくできなくなり、肝性脳症という軽度の意識障害がでてきます。身体所見で羽ばたき振戦がみられると、肝性脳症があると判断できます。3つ目の胆汁の分泌が障害されると、肝細胞が障害されてビリルビンが血中にでるため、黄疸が出現してきます。眼球結膜や皮膚が黄染し、尿もビリルビン尿といって赤褐色の尿になることがあります。

 肝機能を保つことは生命予後に重要であり、肝臓がんの治療選択肢も肝機能で決まることが多いです。現在は新薬の開発などによって肝臓病の管理がよくなってきていますが、何らかの原因で慢性炎症が起こった肝臓は肝硬変や発癌の母地となるため、定期的な画像検査が必要になります。定期的に自分の肝臓の状態をチェックし、専門医と相談しながら良好な肝機能の維持に努めていきましょう。

スライド

目次

ページ 1 肝臓ことはじめ 〜肝臓病の理解のために〜

ページ 2 簡単な自己紹介

ページ 3 今日の内容

ページ 4 本日の内容

ページ 5 肝臓とは

ページ 6 肝臓の位置

ページ 7 肝臓は消化管と強いつながりを持つ臓器

ページ 8 肝臓は消化管と強いつながりを持つ臓器

ページ 9 肝臓は消化管と強いつながりを持つ臓器

ページ 10 本日の内容

ページ 11 肝臓の働き

ページ 12 肝臓の働き

ページ 13 肝臓の働き

ページ 14 肝臓の働き

ページ 15 肝臓の働き

ページ 16 1. たんぱく質の合成

ページ 17 2. 有害物の解毒

ページ 18 アルコールの代謝メカニズム

ページ 19 3. 胆汁の生成

ページ 20 本日の内容

ページ 21 ふだんの診療で 肝臓の状態をどうやって判断するのか?

ページ 22 ふだんの診療で 肝臓の状態をどうやって判断するのか?

ページ 23 血液検査

ページ 24 AST(GOT), ALT(GPT)

ページ 25 Alb(アルブミン)・PT(ピーティ)・Bil(ビリルビン)

ページ 26 肝硬変での肝機能評価

ページ 27 肝硬変での肝機能評価

ページ 28 画像検査

ページ 29 画像検査

ページ 30 画像検査

ページ 31 本日の内容

ページ 32 肝機能が低下すると・・・

ページ 33 肝機能が低下すると・・・

ページ 34 アルブミン合成能の低下

ページ 35 肝機能が低下すると・・・

ページ 36 解毒能の低下

ページ 37 肝機能が低下すると・・・

ページ 38 黄疸の症状

ページ 39 肝機能と実臨床との関係

ページ 40 最後に

ページ 41 Take home message

要旨(PDF)

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