第37回「肝寿会」肝臓教室

講演肝臓病の食事について

2019.5.11

講師:甲村亮二

要旨

 内臓の中で一番大きい肝臓は、食事からとった栄養素を、体が必要としている物質に作り替えるという大きな働きを担っています。

 三大栄養素である糖質は、腸管でグルコースに分解・吸収され、肝臓に運ばれてグリコーゲンに作り替えられます。大部分はエネルギー源として利用されますが一部は肝臓内に蓄えられ、体の機能が円滑に働くために重要な働きをします。また蛋白質は、消化酵素によってアミノ酸に分解され、人間の体に合った蛋白質に作り替えます。脂質は肝臓内で中性脂肪に替えられ、体内の脂肪組織に貯蔵されます。それ以外にも肝臓で作られる胆汁は、脂肪の消化吸収に欠かせないものですし、アルコールや薬剤の解毒作用など体の中の不要なものを排泄する役割も果たしています。そのため肝臓の働きが悪くなると様々な代謝異常が起こります。

 肝障害の種類を大きく分けると、アルコールによる脂肪肝、ウイルス・自己免疫・先天的なものによる肝炎や肝硬変、肝細胞癌などがあります。中でも食生活の乱れ・内臓肥満などから肝臓に中性脂肪がたまる非アルコール性脂肪肝が増加しています。放っておくと、徐々に肝臓の中の環境が悪くなり、肝炎や肝硬変に進行してしまいます。食事療法の基本は、1日3食、規則正しく均等に栄養バランスの良い食事をとること、アルコールを控えることです。このことは肝炎や肝硬変でも大切です。

 ではバランスのよい食事とはどのようなものでしょうか?バランスの良い食事とは毎食、主食・蛋白質・野菜類をまんべんなくとることです。 分かりやすいように色で示したのがこの表です。

食事バランス

    このように赤と黄色と緑の色が毎食に並ぶような食事をとるよう心掛けましょう。 また、栄養バランスも考慮した一日で摂る食事量の目安(1600キロカロリー)は以下のようになります。

一日にとる食事のめやす

      肝硬変症では症状のない代償期と症状のある非代償期に区分されます。この非代償期で肝性脳症がある場合には、良質なアミノ酸(たんぱく質の構成成分)の分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取することが必要となります。分岐鎖アミノ酸を多く含む食品は豆腐、牛肉、豚肉、鶏肉、さんま、まぐろなどですが、これらのものはBCAAも多いですが、摂取を控えたい芳香族アミノ酸(AAA)も多いです。そこでたんぱく質を減らした食事に必要に応じて薬剤でBCAAを補充することもあります。非代償期で腹水などを併発した場合には塩分制限が大切になります。しかし日本人の塩分摂取量は実際に推奨されるより多いので、。調理法や調味料の摂取、外食の摂り方などに注意をして減塩に慣れていくことを勧めます。また肝硬変症では肝臓に負担を掛けないように、空腹時の飢餓状態を防ぐために夜食 (LES食)、分割食が勧められます。こうした場合では先ほどのBCAA剤や炭水化物を主とした食品で対応します。肝臓に鉄は良いといわれていた時代もありましたが、C型肝炎やNASH(脂肪肝炎)では特に含有の多いレバーや牛肉をはじめ小魚や貝類などの鉄制限が必要になります。

 今回の講演では肝臓がんの食事療法についてもお話しました。肝臓がんの食事療法は特別なことでなく、アルコールや過度な塩分摂取を控え、「バランスの良い規則正しい食事」が基本です。これは一般的に言われる健康食の考えに通じるものです。治療で化学療法・放射線治療を行う際、食欲不振、嘔気(吐き気)・嘔吐、味覚の変化、口内炎・口内乾燥、嚥下困難などの症状が現れる場合があります。そのような場合には症状に応じた食事の対応も必要になってきます。食欲不振の場合には食欲が湧くような盛り付け方や食器などの活用、少量で満足感を得られる工夫、効率よく栄養を補給する対応などがあります。嘔気・嘔吐では消化のいいものの摂取、分割食、においの少ない食品の選択、また味覚の変化への対応では旨味や“こく”、酸味を利かせたり、場合によっては冷まして提供するなどの味にアクセントをつけたりします。口内炎・口腔乾燥では固いものを控え、のど越しがいいものを選び、嚥下困難ではソフト食やとろみなどの活用をお勧めします。

 食事は分解すると「人」に「良」い「事」になります。食事摂取が良い事になるよう、今回は肝臓病で気を付けたい食事対応についてお話させて頂きました。

スライド

目次

ページ 1 肝臓病の食事について

ページ 2 かんじんかなめの肝臓

ページ 3 肝機能障害の種類

ページ 4 病態ステージ別の栄養療法の考え方

ページ 5 脂肪肝

ページ 6 アルコール摂取に注意

ページ 7 脂肪肝の食事療法

ページ 8 @ 肝臓病の食療療法の考え方

ページ 9  食事バランス

ページ 10 1日の適切なエネルギー量の求め方

ページ 11 一日で摂る食事の目安

ページ 12 肝硬変の食事療法@

ページ 13 低蛋白食を行う工夫

ページ 14 肝硬変の食事療法A

ページ 15 日本人の平均食塩摂取量

ページ 16 塩分2gってどれくらい

ページ 17 減塩クイズ1

ページ 18 栄養成分表示の見方

ページ 19 調理の工夫−調理法

ページ 20 調理の工夫−調味料

ページ 21 使い過ぎ防止の工夫

ページ 22 外食にも要注意

ページ 23 減塩クイズ3

ページ 24 減塩クイズ3

ページ 25 汁の飲み方による違い

ページ 26 まとめ

ページ 27 肝硬変の食事療法B

ページ 28 肝機能が低下すると糖分の代謝も低下

ページ 29 C型肝炎やNASH(脂肪肝炎)では鉄制限も

ページ 30 鉄分の摂取状況

ページ 31 鉄制限食のポイント

ページ 32 肝臓がんの食事療法

ページ 33 化学療法(抗がん剤)・放射線療法中に起こる副作用

ページ 34 B 症状に応じた食事対応の工夫題

ページ 35 食欲不振

ページ 36 対策

ページ 37 嘔気(吐き気)・嘔吐

ページ 38 味覚の変化への対応

ページ 39 口内炎、口内乾燥、嚥下困難

ページ 40 人 に 良 い 事

要旨(PDF)

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