第37回「肝寿会」肝臓教室
2019.5.11
講師:高原照美
最近のC型肝炎の治療は進歩が目覚ましく、ほとんどの方が経口内服薬で治癒が可能となった。今回は、唯一治療ができず残されていた非代償性肝硬変に対する新しい薬剤と今後の課題について話す。
C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の方は慢性肝炎となり、約20年で肝硬変に進行する。肝硬変でも黄疸や腹水、脳症などがみられない症状の軽い肝硬変は、代償性肝硬変といい、これまでも直接作用型抗ウイルス薬(DAA)内服でウイルス排除率は95%以上である。一方、肝硬変がさらに進行すると、黄疸や腹水、脳症などが見られるようになり非代償性肝硬変となる。今回新たに、非代償性肝硬変に対してベルパタスビル・ソホスブビル合剤(商品名エプクルーサR)が承認された。この薬剤は1日1回12週間内服すると、約92%の患者でウイルスが排除されると報告された。また肝炎の治療歴がある方でも、96.7% でウイルスが消失し、非常に有効な治療法である。このように肝硬変が進んだ状況でもウイルスが排除すると、肝機能は徐々に改善することがわかっており、C型肝炎に感染している方は治療を受けることが推奨されている。ただし、肝臓がんがある方は保険適応にならないため、先に肝臓がんの治療が優先される。
さて、ウイルスが排除されたあとは肝機能はゆっくりと改善していくが、すでに非代償性肝硬変の方は様々な症状があるため肝機能を保護する薬剤は継続して投与していくこととなる。定期的な通院が必要であるが、特にフォローアップとして重要なことは肝臓がんの発症がないか、また過去に肝臓がんがあった方はがんの再発がないか注意してみていくことである。そのためには定期的な画像検査、腫瘍マーカーの検査を行っていくが、どんな方がウイルス排除後に肝臓がんになりやすいか、ある程度予測ができるとフォローアップの目安として助けとなる。最近報告されたものでは、肝がん腫瘍マーカー・アルファフェトプロテイン(AFP)と線維化マーカー・M2BPGiの値で肝がんの発生頻度や、肝がんの再発頻度が良好に予測できるという。その報告によると、DAA投与後のAFPが5.4以下、M2BPGiが1.8以下であれば発がん率は非常に少なく、同様に5.5 以下2.2以下であれば再発率も著明に低値であった。
以上まとめると、C型肝炎は今回非代償性肝硬変にまで範囲を広げてDAA薬が認可され、より安全で高い治癒率が期待される。肝炎が治癒しても引き続きフォロ−アップが必要であり主治医の先生と2人三脚で治療を継続して下さい。
目次ページ 1 ウイルス肝炎 新しい治療とフォローについて ページ 2 本日の内容 ページ 3 慢性肝臓病は 肝硬変へと進展する ページ 4 肝硬変の成因別頻度 ページ 5 肝細胞癌による死亡と原因の年次推移 ページ 6 肝硬変患者の死亡原因 ページ 7 B型肝炎とC型肝炎の肝発癌率の比較 ページ 8 1.C型肝炎の最新治療 ページ 9 C型肝炎ウイルス ページ 10 C型肝炎の自然経過と治療 ページ 11 C型肝炎ウイルスの遺伝子構造 ページ 12 C型慢性肝炎の治療とその変遷 ページ 13 Direct Acting Antivirals (直接作用型薬) ページ 14 C型肝炎に対する抗ウイルス療法(ジェノタイプ1型) ページ 15 C型肝炎に対する抗ウイルス療法(ジェノタイプ2型) ページ 16 C型肝炎に対する抗ウイルス療法(ジェノタイプ3〜6型) ページ 17 肝硬変の分類 ページ 18 非代償性肝硬変の症状 ページ 19 肝硬変の進展度は症状の有無、重症度によって評価 ページ 20 Child-Pugh(CP)分類 ページ 21 日本人高齢者の平均余命 ページ 22 非代償性肝硬変の肝炎治療の推奨 ページ 23 エプクルーサR ページ 24 既治療でも新しい薬エプクルーサR配合錠 ページ 25 2.ウイルス排除後のフォロー ページ 26 非代償性肝硬変患者さんでもウイルスを排除すると、状態がよくなります ページ 27 WHO 癌のリスクファクター ページ 28 治療後の注意 ページ 29 ウイルス排除により得られる発癌抑制効果 ページ 30 肝炎治療後のマーカー値は発癌リスクを予想できる ページ 31 M2BPGiとは ページ 32 肝がんのサーベイランス ページ 33 C型肝炎のまとめ ページ 34 これからの肝臓病の課題 |