第35回「肝寿会」肝臓教室

講演:最近の消化器外科手術

2018.4.28

講師:渋谷 和人

要旨

 「がん」とは、生体内にできる悪性腫瘍・肉腫の総称であり、環境因子などでいろんな臓器の正常な細胞が無制限に増殖するようになったものです。どの部位で起きるがんも「制御不能な細胞の増殖」が、体の正常な機能を奪っていきます。

 肝臓がんとは肝臓の中にできるがんのことで、全癌死の約10%を占めています。肝臓がんには、肝細胞からがんが発生する肝細胞がん、肝臓の中の胆管から発生する胆管細胞がんがあります。肝細胞がんが最も多く(約95%)、胆管細胞がんは肝臓がん全体の約4% です。肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変の肝臓に発生しやすく、特に日本ではC 型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが原因の約8割を占めており、その他ではアルコール性肝炎などが原因となることが知られています。肝炎ウイルスが原因の場合は、数年?10数年の経過を経て肝硬変へ至りその過程で肝臓がんとなることがわかっています。近年、肝細胞がんは減少傾向にあると言われています。これは肝細胞がんの原因の大多数を占めるC型肝炎ウイルスに対する特効薬が開発され、C型肝炎ウイルスは飲み薬で95%以上が駆逐できる時代となったからです。しかし、最近では、糖尿病や肥満、脂肪肝のあるメタボリックシンドロームの患者さんでの肝細胞がんの発生が増えており、問題視されています。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、一昔前なら見つかった時点で進行していることが多く、肝臓がんは不治の病と言われてきました。しかし現在ではウイルス性肝炎や脂肪肝であることがわかっていれば、定期的な通院による検査(超音波検査)を受けることがすすめられており、これにより肝臓がんの早期発見が可能になっています。近年はメタボリックシンドロームの患者さんも増えており、知らないうちに脂肪肝になっている患者さんもいます。住民健診や会社の健診で肝機能が悪いと指摘されたら、まずは専門医療機関を受診することが大切です。

 肝臓がんは、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査にくわえて血液腫瘍マーカー検査などで診断されます。診断された後は、治療しなければいけません。肝臓がんの治療方針は、現在は「肝癌診療ガイドライン」を参考にして決定することが推奨されています(図1)。治療前の肝障害度と呼ばれる肝臓の機能、腫瘍の個数、大きさに応じて治療方針が決定されます。その方法は、肝切除術、ラジオ波焼灼術、動脈塞栓療法(カテーテル治療)、化学療法(抗癌剤投与)、肝移植術など多岐にわたります。

 いくつかの治療の中でも、肝切除術はいちばん確実な治療法の一つと言われています。しかし肝臓は血液のタンクとも呼ばれており、肝臓の中には無数の血管が複雑に走行しています。手術する際には出血の危険性があります。また、肝臓がんを患う患者さんは肝硬変もしくはそれに近い慢性肝炎の方が多く、切除に耐えるための肝臓の機能が低下していることがしばしばあります。そのような症例の方では、手術後に肝不全に至る可能性があります。肝切除で大事なことは、@がんの根治性(きちんと切除できること)、A安全性、です。当院では、CT検査のデータをもとに肝臓の3Dシミュレーション画像を手術前に作成しています(図2)。これによって、肝臓内の血管を含めた脈管の複雑な走行と腫瘍との位置関係や、残せる肝臓の容積などを事前に把握することが可能であり、より安全な肝切除術を提供できるよう心がけています。今年は、このシミュレーションソフトを最新のものに改め、手術前により詳細で安全なシミュレーションが可能となりました。

 さらに2010年からは、腹腔鏡による肝切除術が保険適応となりました。当院でも同年から積極的に導入しています。最大の特徴は、従来の開腹での肝切除と比べて傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早く、患者さんへの負担が少ないことです(図3)。一方で、前述の@がんの根治性、A安全性、を担保するため、腹腔鏡手術が可能な肝臓がんとそうではない肝臓がんがあります。常に最適な治療法を提供できるよう、患者さん毎にシミュレーションを繰り返しています。  消化器外科の分野では、2018年からは話題のロボット手術が保険適用となりました。当院でもまずは直腸がんで導入をはじめています。  患者さんに最適かつ安全で、確実な治療法を用意しております。肝臓がんと診断された折には、いつでも当院の第3内科、第2外科にご相談ください

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