第34回「肝寿会」肝臓教室

講演:生活習慣と肝臓病

2017.12.9

講師:安村 敏

要旨

  日本の肝臓病の原因はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスによるものが大半を占めますが、核酸アナログや直接作用型抗ウイルス薬が開発され、かなり制御されるようになりました。とりわけ、最近開発されたC型肝炎治療薬であるグレカプレビルとピブレンラスビルの合剤(マヴィレットR)は肝炎で8週、肝硬変12週の内服で98%の治療効果がえられ、すべての遺伝子型に使用できる、副作用も少ない有望な薬剤です。

  一方、脂肪肝やアルコール性肝障害に関連する患者様も多くおられます。脂肪肝は肝臓に中性脂肪が蓄積した状態で、食材としては世界3大珍味の1つであるフォアグラやアンコウの胆などいずれも大変美味なものが挙げられます。近年、日本人の摂取エネルギーに脂肪が占める割合が増加し、検診で脂肪肝と診断される割合は約30%となりました。 脂肪肝の主な原因には、アルコール、肥満や糖尿病がありますが、BMIの上昇とともにその比率は増加していきます。  診断は、飲酒歴、合併症(肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症など)の有無、血液生化学検査、免疫学的検査、画像検査より行います。脂肪は超音波を通しにくいので、腹部超音波検査では、脂肪肝は白く描出されます。高度の脂肪肝では、腹部CT検査で肝実質の濃度の低下がみられ、肝臓の組織の検査では30%以上の脂肪が存在します。

 脂肪肝に炎症を伴った病態を脂肪肝炎と言いますが、飲酒しない患者でみられる脂肪肝炎の患者様が増加しています。成人の10%がアルコールを飲まない脂肪肝で、そのうちの10%が脂肪肝炎(NASH :non-alcoholic steatohepatitis) と報告されています。NASHの患者様は30-50%で進行し、肝硬変や肝細胞癌となることがわかってきました。  脂肪肝の治療には、1,600カロリー程度の栄養バランスのよい食事(食事療法)や歩行や水泳などの有酸素運動に加えて、高血圧、糖尿病、高脂血症の治療も行います。

  次にアルコールの話に移ります。1日の飲酒量がアルコール換算で60g以上(日本酒なら3合、ビールなら350mL缶3本)は「多量飲酒者」とされていますが、日本では男性13.9%、女性8.1%と報告されています。適度なアルコールの摂取量の目安はアルコール量にして約20g程度で、ビール中びん1本(500mL)、日本酒1合(180mL)、焼酎0.6合(約110mL) ウイスキーダブル1杯(60mL)、ワイン1/4本(約180mL)、缶チューハイ1.5缶(約520mL)に相当します。アルコールは飲酒後1〜2時間で胃と小腸から吸収され、血中濃度が数μM になると楽しい気分やリラックス感がえられ、ストレス解消につながります。しかしそれ以上になると顔面紅潮、頭痛、悪心・嘔吐、錯乱が生じ、40μMを超えると昏睡や死に至ります。

お酒の強さ・弱さは生まれつき持っている肝臓のアルコールを分解するアルデヒド脱水素酵素のタイプで決まります。つまり、1型(活性型)を持つ人は強く、2型(非活性型)しかない人は全く飲めません。また、飲酒習慣のある人は肝臓にある別のアルコール分解経路であるミクロゾーム・エタノール酸化系がよく働くようになるため、酔いにくくなりなすが、癌や肝障害のリスクは増加します。   アルコール性肝障害は、検診のガンマGTPやAST(GOT)の上昇で見つかることが多いのですが、飲酒を続けると肝炎、脂肪肝から肝硬変となり、肝癌が発生します。アルコール性肝障害の治療 は禁酒が原則ですが、適度な運動、バランスの良い食事、定期的な検査を受けるなど、普段からの肝臓をいたわる生活が重要です。検診などで異常が指摘されたら肝臓専門医に相談してください。

スライド

目次

ページ 1 生活習慣と肝臓病 脂肪肝とアルコール性肝障害を中心に

ページ 2 日本の肝臓病の原因

ページ 3 グレカプレビールとピブレンラスビールの合剤

ページ 4 生活習慣病

ページ 5 メタボリックシンドロームの診断基準

ページ 6 摂取エネルギーに脂肪が占める割合

ページ 7 脂肪肝とは

ページ 8 食材としての脂肪肝

ページ 9  日本人に増加する脂肪肝

ページ 10 脂肪肝の発症機序(概念図)

ページ 11 脂肪肝の組織像

ページ 12 日本人は脂肪肝になりやすい

ページ 13 脂肪肝のおもな原因

ページ 14 脂肪肝の診断

ページ 15 腹部超音波検査

ページ 16 腹部CT検査

ページ 17 肝生検

ページ 18 脂肪肝の分類

ページ 19 日本の非アルコール性脂肪肝炎の頻度

ページ 20 非アルコール性脂肪肝炎の予後

ページ 21 脂肪肝の治療

ページ 22 お酒と肝臓

ページ 23 数字で見る日本のお酒

ページ 24 アルコールの吸収

ページ 25 アルコールの作用

ページ 26 アルコールの分解

ページ 27 生まれつき持っているアルデヒド脱水素酵素で お酒の強さ・弱さが決まる

ページ 28 飲酒の習慣で酔いにくくなる(鍛える)が 体へのリスクは増加する

ページ 29 アルコール性肝疾患

ページ 30 アルコールと他の疾患のかかりやすさ

ページ 31 日本における糖尿病患者の死因

ページ 32 症例71歳、男性

ページ 33 肝がん症例

ページ 34 肝臓をいたわる生活

要旨(PDF)

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