第32回「肝寿会」肝臓教室
2016.12.3
講師:高原 照美
C型肝炎は、近年治療法が目覚ましく進歩し、ほぼ完治する時代となりました。一方で以前から知られているB型肝炎は、余り話題に上らず、忘れられた感があります。しかし大学病院に通院されているB型肝炎の患者様は実際は大変多くおられますので、今回はB型肝炎の基本をお話ししたいと思います。
1.B型肝炎とC型肝炎の大きな違いは、C型肝炎は治療によってウイルスが完全に排除されますが、B型肝炎は治療してもウイルスが消えることは非常に難しい点です。つまり一生、肝炎とおつきあいいただく必要があります。
2.C型肝炎のかたは輸血や予防接種で感染した人が多いとされています。しかし、B型肝炎の多くの方は、出生時に母親から感染(母子感染)しています。C型肝炎の方は基本的にすべての方が治療の対象です。しかし、B型肝炎の場合は活動性がある人は約10%でこの活動性のある人のみ治療が必要です。残りの90%は非活動性キャリアで、特に治療は必要ありません。ただしキャリアの方も、年に1回、エコーや採血で肝臓をチェックして異常がないか見る必要があります。ですから、B型肝炎のかたは自分か非活動性キャリアか肝炎を起こしているか知る必要があります。
3.C型肝炎に比べB型肝炎は感染力は強いとされています。感染しないように、感染させないように予防が必要です。歯ブラシ、カミソリの共用はしない、出血した場合は自分で始末する、等の配慮が必要です。又、密接な接触をされる御家族には事前にワクチン接種をしていただくことが必要です。
4.B型肝炎はC型肝炎と同じように、肝炎が続けば肝臓は少しずつ硬くなり肝硬変へと進行し、肝がんも発症します。しかしC型肝炎と違い、ウイルス量が多い人が肝炎の活動性が高く、肝癌も発症しやすくなります。つまり、ウイルス量を減らして病状を安定させることが治療の基本です。
ここまでが基本ですが、以下にB型肝炎のウイルスの増殖、治療法について述べます。
B 型肝炎ウイルスは複雑な増殖をする不完全DNAウイルスです。肝細胞にウイルスが感染すると、不完全DNAが完全な2重らせん(鋳型)になります。この鋳型から4種類のRNAが作られて、それを基に逆転写酵素が働いてDNA を複製します。ウイルスの量は、通常DNA量 (HBV-DNA)の値で判断します。一方で、ウイルスの周りにある蛋白の構造は複雑ですが、中でもウイルス表面の蛋白(HBs抗原)はウイルスに感染していることを意味します。
B型肝炎の内服治療薬は、すべて逆転写酵素阻害薬です。つまりウイルスの増殖を抑える薬です。発売順にゼフィックス、ヘプセラ、バラクルード、テノゼットに加えて2017年2月に5番目のベムリディが発売されました。どの薬剤が良いかはウイルスの遺伝子変異があるか、腎機能が悪くないか、などで判断されます。内服薬は一生飲まなければならないか、とよく質問されます。HBV-DNAが陰性化してウイルス表面の蛋白も減ってくると、条件さえ合えば薬を止めてもウイルスが増えませんので、担当医師に相談してください。又若い人ではインターフェロンの注射を1年間行うことが推奨されています。インターフェロンは発熱、だるさ、血球減少などの副作用がありますが、ウイルスの増殖を阻害し、ウイルス鋳型を壊し、長い年月のあとにウイルスを減らすことが知られています。ですから若い方には長い目で見てインターフェロンが勧められています。 飲み薬もインターフェロンも、市町村の肝炎治療助成の対象になっています。担当の先生とぜひ相談してください。
目次ページ 1 B型肝炎の基礎知識 ページ 2 肝炎の原因別分類 ページ 3 今日の内容 ページ 4 B型肝炎とは? ページ 5 B型肝炎ウイルス ページ 6 B型肝炎ウイルス(HBV)の形態 ページ 7 B型肝炎ウイルスの遺伝子構造 ページ 8 B 型肝炎ウイルスの感染・増殖 ページ 9 B型肝炎の疫学 ページ 10 HBVキャリア数(世界) ページ 11 世界におけるB型肝炎の感染頻度(2006年) ページ 12 HBVキャリア数(日本) ページ 13 B型肝炎陽性率 ページ 14 B型肝炎ウイルスの遺伝子型の世界分布 ページ 15 B型急性肝炎におけるHBV ジェノタイプの年代別推移 ページ 16 HBV ジェノタイプ別の臨床像 ページ 17 肝硬変・肝細胞癌への進展リスク ページ 18 肝細胞癌による死亡と原因の年次推移 ページ 19 B型肝炎の疫学 ページ 20 B型肝炎の自然経過 ページ 21 B型肝炎ウイルスの感染経路 ページ 22 肝炎発症機序 ページ 23 B型肝炎の自然経過(病態別) ページ 24 ウイルスマーカーから見たHBVキャリア ページ 25 慢性肝炎が持続すると肝硬変へ進む ページ 26 慢性肝炎の症状と検査データ ページ 27 肝硬変症の症状・身体所見 ページ 28 肝硬変症の検査 ページ 29 肝硬変の合併症 ページ 30 食道静脈瘤について ページ 31 肝硬変症の予後 ページ 32 B型肝炎肝疾患からの累積10年発癌率 ページ 33 HBV DNA量の単位が変わります。 ページ 34 B型肝炎の治療法 ページ 35 B型肝炎の治療の目標 ページ 36 日本におけるB型慢性肝炎治療の歴史 ページ 37 B型肝炎ウイルスの感染・増殖 ページ 38 臨床経過(B型慢性肝炎) ページ 39 HBV-DNA量で層別した肝硬変の累積発症率 ページ 40 HBV DNA量と肝がん発症率 ページ 41 エンテカビルによる肝癌の発現率の低下 ページ 42 Knodell 線維化スコアの推移(3年) ページ 43 インターフェロンと核酸アナログ製剤 ページ 44 抗ウイルス療法の基本方針(2015版) ページ 45 抗ウイルス薬を止めるタイミング ページ 46 肝炎対策基本法成立の背景 ページ 47 B型肝炎訴訟の対象者 ページ 48 B型肝炎の人は適切なフォローを! |