第30回「肝寿会」肝臓教室

講演:最新の肝炎・肝癌治療〜この30年の進歩〜

2015.11.14

講師:矢田 豊(公立宍粟総合病院 )

要旨

過去30年のウイルス肝炎に対する診断と治療の進歩は目覚しく 中でもC型肝炎は、近年中に撲滅されるまで治療が進歩しました。 今回は、肝疾患の特徴や最新のC型慢性肝炎、肝がんの治療につい てお話ししたいと思います。

                  

肝疾患の特徴

一般に、病気(疾患)とは症状を伴い、症状かあるから医療機関を受診するわけですが、 肝臓病においては、「肝臓は沈黙の臓器」と呼ばれる通り、病気を有していても症状がない ことが少なくおりません。 ウイルス肝炎が蔓延した背景には、肝疾患が自覚症状に乏しい ことも原因とされています。すなわち、症状がないから医療機関を受診しない、さらに医 療機関を受診しても無症状のため積極的に治療されないことがありました。このため今な おC型肝炎ウイルス感染者(HCVキヤリアー)の約半数(100万人)は、自分がキヤリアー であることを知らない潜在患者と考えられています。症状がなくても病院を受診する、症 状がなくても治療を受けることが肝臓病では大切なのです。

ウイルス肝炎

 ウイルス肝炎は、肝炎ウイルスに感染することで生じます。特に問題なのはC型肝炎ウ イルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)による慢性肝炎です。C型肝炎ウイルスの場合、感染 してから10〜30年と長い間、慢性的に炎症が持続することで、肝硬変、肝癌と進行し、ひ いては寿命に影響することになります。すなわち、肝臓病で亡くならないためには、最大 の原因であるHCV,HBVの持続感染を終息させることが重要なのです。

C型慢性肝炎

C型慢性肝炎に対する治療は、1992年に開始されたインターフェロン(IFN)単独治療に 始まり、次いでIFN+リバビリン併用療法や血中 IFN濃度が持続的に保たれるペグ IFN(Peg-IFN)の開発により飛躍的に向上しました。さらに2011年からは、HCVに直接作用 することで優れた治療効果を示す薬剤(DAA、直接作用型抗ウイルス剤)が発売され、ペグ IFN+リバビリン+DAAの3剤併用療法による6ケ月間の治療で約90%の人でウイルスが排除 できるようになりました。しかしながら、IFN治療に特徴的な副作用(貧血・白血球減少 や血小板減少、うつ病)のため、高齢者などでは治療が困難な場合が少なくおりませんで した。こうした中、2014年からIFNを使わない、飲み薬だけで高い効果が得られるIFNフ リー治療が開始されました。

IFNフリー治療(インターフェロンを使わない治療)

2014年からインターフェロンを使わない治療(IFNフリー治療)であるダクラタスビル とアスナプレビルの併用療法がジェノタイプ1型に対し始まりました。飲み薬だけの治療 のため、IFNに比べ毎週の通院が不要となり、副作用も少ないことから、治療に開する時 間的精神的負担も改善しました。ただ、この治療には、約15%の人に薬剤耐性変異ウイル ス(薬が効かないウイルス)が存在する問題があり、薬剤耐性ウイルスがあると治る率が 45%と低率でした。その後、2015年9月に、新たな薬剤(ソホスブビルとレジパスビル) が発売されました。 ソホスブビルとレジパスビルは合剤(1目1錠)の内服で、治療期間 も3か月と短く、かつ治療の効果も高いため、治療の負担は一層軽くなっています。  さらに2015年11月にはオムビタスビルとパリタプレビルが発売され、ジェノタイプ1 型に対する治療薬は選択肢がさらに増加しました。一方、ジェノタイプ2型に対しても、 2015年5月からソホスブビルが発売され、リバビリンと3ケ月間の併用投与により95%の 患者でHCV排除が可能となっています。このように、新たなC型肝炎治療薬の登場により、 我が国からHCVが撲滅される目はもはや遠くありません。

肝癌について

C型肝炎治療の劇的な進歩により、これからは肝癌の発生率も低下すると予想されます。 しかし、HCVが排除されてから10年以上経った後でも、肝癌を発生することが知られてい ます。このため、C型肝炎ウイルス排除後も、引き続き、定期的な画像検査(超音波、CT、 MRェ検査)を受けることが必要です。肝癌の治療もラジオ波、肝脂性療法など内科的治療 がますます進歩し、治療成績も向上しています。

おわりに

肝臓病にかかったら、主治医の先生とよく相談し、肝寿会のような勉強と交流の場で仲間と語り、定期的に血液、画像検査を受けることで、より健康で、長生きできる生活をおくるよう心がけることが大切と思います。

スライド

目次

ページ 1 最新の肝炎・肝癌治療

ページ 2 肝癌の死亡数

ページ 3 わが国の肝癌の原因

ページ 4 C型肝炎の特徴

ページ 5 C型肝炎治療の進歩

ページ 6 インターフェロン治療の進歩

ページ 7 インターフェロン療法の副作用と対策

ページ 8 インターフェロンなしの新しい治療

ページ 9 C型肝炎ウイルスへの効果

ページ 10 ウイルスを排除できた人の割合

ページ 11 2015年秋 さらに新たな治療が開始

ページ 12 ジェノタイプ2型に対するインターフェロンフリー治療

ページ 13 国内第3相臨床試験

ページ 14 C型肝炎は撲滅されつつある

ページ 15 肝硬変の3大死因

ページ 16 肝癌は再発率が高い

ページ 17 C型慢性肝炎の治療の意義

ページ 18 肝癌の治療法

ページ 19 肝細胞癌の治療法の決め方

ページ 20 経カテーテル的肝動脈化学塞栓術(TACE)

ページ 21 ラジオ波焼灼療法 (RFA)

ページ 22 ラジオ波治療の方法

ページ 23 ダイナミック造影検査(CT/MRI)が有用

ページ 24 人工胸水法を用いたラジオ波治療

ページ 25 人工胸腹水法を用いたラジオ波治療の比率

ページ 26 ラジオ波・TACE治療の肝予備能への影響

ページ 27 腹腔鏡下RFA症例の特徴

ページ 28 症 例 (64歳、男性)

ページ 29 転移性肝癌に対するRFA

ページ 30 肝癌の化学療法

ページ 31 肝動注化学療法

ページ 32 QOL優先を目指した肝動注化学療法

ページ 33 3daysFPL療法の成績

ページ 34 分子標的治療薬による治療

ページ 35 ソラフェニブの有効性

ページ 36 C型肝炎との関わり方(病診連携)

ページ 37 肝機能正常でも肝線維化は進行する

ページ 38 C型慢性肝炎治療ガイドライン

ページ 39 C型慢性肝炎・肝癌治療の考え方

ページ 40 C型肝炎・肝がんの対策

ページ 41 肝炎医療費助成制度

ページ 42 まとめ

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