第26回「肝寿会」肝臓教室
2013.12.7
講師:松井恒志
肝臓は代謝を行う重要な臓器です.その肝臓には動脈と静脈がありますが,さらに門脈という重要な血管があります.腸管で吸収された栄養は門脈を通り,肝臓へ運ばれます.実は,この門脈は肝臓への血流の70%を占めており,肝臓を養う重要な血管でもあります.また,十二指腸につながる胆管があり,その胆管には胆嚢がつながります.手術では,これら動脈,静脈,門脈および胆管の走行を意識して切除範囲を決定する必要があります.
肝臓は再生する臓器であり,正常な肝臓では約70%までの切除が可能ですが,肝硬変など肝機能が低下している場合は可能な切除量は減ります.この肝機能を評価するのに最も重要な検査がICG(インドシアニングリーン)検査です.この検査結果をもとに,ほとんどの施設が幕内基準という基準に照らし合わせ切除範囲を決定します.
われわれの施設では年間約30-40例の肝切除を行い,その内約20例が肝細胞癌の手術です.5年生存率は61.2%であり,全国平均と同等の成績です.
また,保険適用となった3年前より,富山県で最初に腹腔鏡下肝切除を導入しています.腹腔鏡下肝切除は通常の開腹手術に比べ,出血量が少なく,入院日数が短いといった,患者さんに優しい低侵襲な手術であります.特に,傷が小さいことが患者さんの負担を大きく減らしています.治療成績は通常の開腹手術と同等であります.現在では肝切除の内,50%以上で腹腔鏡手術の適応となっています.全国的にも年間1000例近い件数で腹腔鏡下肝切除が行われており,その中でも,さらに大きな切除(肝臓の半分以上の切除)への適応拡大がさかんになってきております.
また,最近のトピックとしては,画像診断によるナビゲーションシステムや,手術支援ロボットなどが,学会の中でも話題となっています.
最新の画像解析ソフトを用いて,肝臓を3D構築します.腫瘍の位置や,血管,胆管の走行を立体的に再現します.そのデータを基に3Dプリンターにて実際の肝臓の模型を作成することができます.それにより,術前に切除のシミュレーションを行うことが可能になりました.これは手術を安全に行うことができるのと同時に,教育や患者さんへの説明の面でも理解が容易になる非常に有効な方法であります.さらに,術中はiPadを用いて血管の走行を確認することにより,カーナビのように切除の方向をナビゲーションすることが可能となっています.
さらに,よく耳にされる手術支援ロボットda Vinciというものもあります.これは,術者は術野に入らず,操作システム内でロボットを動かし手術を行います.低侵襲であることだけでなく,これまで腹腔鏡手術では苦手とされていた針や糸による縫合を容易にします.これは人間では不可能な関節の動きが,ロボットでは可能となるからです.現在保険適用となっているのは泌尿器科の一部の手術に限定されますが,将来的には消化器の手術にも適用になることを期待しています.特に肝臓の手術では有用ではないかと考えられています(残念ながら富山県にはまだ導入されていません).da Vinciは触覚がありませんが,われわれは触覚があるロボットの開発にも協力しております.
近い将来,みなさんによりよい手術が提供できることを目指しております.
目次ページ 1 肝臓外科の最前線 ページ 2 肝臓 ページ 3 肝臓は再生する ページ 4 肝切除後の肝再生 ページ 5 肝臓はどれだけ取っても大丈夫? ページ 6 肝臓はどれだけ取っても大丈夫? ページ 7 外科治療に必要な肝の機能 ページ 8 ICG(インドシアニングリーン)負荷試験 ページ 9 肝硬変など肝機能が悪い場合 ページ 10 肝切除の適応基準(幕内基準) ページ 11 肝細胞癌の治療 ページ 12 1998-2012 肝切除383症例 ページ 13 2000-2013 肝切除症例 ページ 14 成績 ページ 15 肝細胞癌治療ガイドライン ページ 16 腹腔鏡手術 ページ 17 腹腔鏡下肝切除 ページ 18 肝切除(腹腔鏡下肝切除) ページ 19 2000-2013肝細胞癌切除症例 ページ 20 ナビゲーション ページ 21 ipadによる ナビゲーション ページ 22 ICGによるナビゲーション ページ 23 Da Vinci ページ 24 さいごに |