2003/10/17 (金)
池山日記【ロード・オブ・ザ・メガネ9〜In the
memory of glasses】
〈前回のあらすじ〉
毎日が順調で、二人の間を阻むものは何もないと信じていた俺。
けれど、冷酷な事実が、あろうことか「幸せの元」だった望ちゃんの口から聞かされる。
アメリカへの引越しが決まった望ちゃん。
俺は、揺れ動き崩れかける日常にどう対応するのか?
〈前回の続き〉
俺は望ちゃんのアメリカ行きを信じることができなくて、しばらくぼうっと望ちゃんの顔を見ていた。
アメリカという場所の遠さに俺は現実感を持てなかった。
それに、全てを染める夕日があまりにも幻想的すぎる光景を作っていた。
夢だ。そう思いたかった。
けれど、
メガネの奥に見える瞳から溢れでる涙が、俺の胸に現実感を突き刺した。
俺「ほんま、・・・なんやな。」
ゆっくりと頷く望ちゃんは、ついにえぐえぐと声をあげて泣き出した。
俺「いつまでこっちにいれるん?」
俺は、なんでかしらんけど望ちゃんの頭を撫でながら、そう聞いた。
望「・・・一週・・間・・・」
俺「そう・・か」
その後、一時間くらいずっと無言のまま俺は泣きつづける望ちゃんの頭を撫で続けた。
傍から見たらマヌケな光景やけどな。なんでか、そのときはそうしてたかってん。
望ちゃんの前ではなんとか涙をこらえた俺やったけど、帰って藤月に電話した頃にはもう大泣き状態やった。
俺はそもそも、男らしさとは無縁の生き物やからすぐ泣くねんか。
それで、藤月と会って話すことになったんやけど、俺は「つらいから、もう望ちゃんとは会わへん。」とかまた男らしさとはかけ離れたことをぐずぐず言ってたんや。
すると、その言葉を聞いた藤月は「あほか!何言うてんねん、おまえはぁ!!!辛いのは武村さんやろうが、おまえはちゃんと武村さんの気持ちに答えてないやんけ!!!」と、ほんまに今にも殴りかかろうかというくらいに怒った。
実に男前な男や。
正直、望ちゃんが俺じゃなくて藤月のことを好きになってたら、もう少し上手くいったと思うわ。
ま、相方誉めはこんなもんにしといて、めったに怒らへん親友の言葉に心動かされた俺は、次の日の夕方、望ちゃんを散歩に誘った。
ずっと無言のまま、望ちゃんは俺の後についてきた。
しばらく歩いて、
着いた場所は二人が通った小学校。
俺は望ちゃんを連れて校舎の中に入っていった。
夏休みだけあって、校舎内はほとんど人がいいひんかった。
夕日で赤く染まった廊下がずっと続いてるだけで。
俺は、望ちゃんを連れたままつかつかと歩き続けて、ある教室の前で立ち止まった。
俺「ここやったな。」
望「??」
望ちゃんは不可解な表情をした。
分からないのも無理はない。俺だって昼間にリサーチがてら見に来てなかったらここがそうやとは分からんかったやろう。
小学校も数年行ってないとずいぶん変わるもんやしな。
で、俺は答えを望ちゃんに言った。
俺「望ちゃんが告白してくれたん、この廊下やったやろ?」
望ちゃんはハッとした感じで目を大きく見開いた。
俺「俺、まだ返事してなかったよな。」
望「ううん、だって・・・」
俺は慌てて顔の前で手を振って望ちゃんの言葉を遮った、ここらへんがスマートじゃないな俺は。
俺「ちゃんと言っときたいねん、望ちゃんがアメリカ行ってしまう前に、な。」
もう、望ちゃんは何も言わへんかった。
俺「俺は、望ちゃんが好きや。」《奥さん!ここですよ。池山が人生で最もかっこよかった(自己採点)のは!!(←台無し)》
俺は、この言葉を言いながら既に泣いてた。涙もろいからな。
望「私も・・私も、好きや、池山君が好き。・・・」
そう言いながら、しがみついてくる望ちゃんの肩を抱くでもなく、抱きしめるでもなく、俺はただ突っ立ったまま、また頭を撫でた。
頭撫でるしか知らんのかい!俺!!
まぁ、あほなうえに不器用やからな俺は。
結局、暗くなるまでずっとそういう状態やった。
次の日からは、お互いにすこし吹っ切れて望ちゃんとピクニックに行ったり、カラオケに行ったりと楽しんだ。
そして、アメリカ行きの前日。
「アメリカもまぁどうにかなるかもしれん。」とアホ独特の考えに取り付かれた俺は割合気楽な感じで望ちゃんの荷物整理を手伝ったりしてた。
ま、現実逃避してただけやと思うけどな。
で、整理してると望ちゃんの部屋の隅に「池山君へ」ってマジックで書かれたダンボールが2箱あった。
俺「望ちゃん、何これ?」
望ちゃんは、俺の疑問にダンボール箱を開けることで答えてくれた。
中には望ちゃんの使ってた参考書や問題集、それにノートがめいいっぱい詰まってた。
俺「これは?」
望「私はもういらんから、池山君に使ってもらおうと思って。」
俺「そうか、これからはもう一緒に勉強できひんもんな。」
そんないらんことを俺が言うから、望ちゃんは少し泣きそうな顔をした。
俺「あ、あ、一緒にはできひんかもしれんけど、電話で話したりはできるやん?」
俺があほな顔してそう言うと、望ちゃんの顔に明るさが戻った。
望「うん、そうやな。」
俺「それに、天才の望ちゃんが使ってたこの教材を使ったら俺も賢くなって希望高校とかいけるかもしれんしな(笑」
望「行けるよ。」
俺「へ?」
俺は冗談のつもりで言ったのに、望ちゃんの目は本気やった。
県下bPの進学校にいかれぽんちの俺が行けるわけがない。
俺「あはは、それは無理やで。だって俺平凡高校も危ないんやで?」
望「ううん。池山君、ここまですごい勢いで成績あげたやん?絶対大丈夫やって。」
俺「あはは、そりゃ最初が酷過ぎたからな。」
望「ううん。絶対受かる。だから、残りの半年絶対真剣に勉強してな。約束やで。」
約束と言われると、俺は弱かった。
俺「うん、約束、な。あんまり自信ないけど。」
そこで、二人は指きりをした。
変な約束やけどな。別れの時も「私の代わりに絶対希望高校に入ってな。」って言ってたくらいやから、希望高校になんか強い思い入れがあったんかもしれへんな。望ちゃんは。
そんなこんなで、最終日。
俺は望ちゃんの家の前で藤月、川原さん等望ちゃんの友人たちと一緒に車で空港に向かう望ちゃんを見送ったんやけど、このときは他にたくさんいたからか、ほんとあっけないくらいすんなりとした別れやった。
それから、俺は一度も望ちゃんとは会ってない。
もちろん、手紙が来たり電話で話したりはしたけどな。
でも、それも段々と自然消滅していって、二人は今別々の道を歩んでるってわけや、まぁ、俺はすっかり落伍者の道を歩んでるけどな(w
以上で、「ロード・オブ・ザ・メガネ」は終わりです。
長々と続いてしまったこのシリーズを見捨てずに最後まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
池山日記始まって以来の反響もいただき、サイト管理者として嬉しい限りでした。
私の駄文を寛大な気持ちで読んでくださった皆さんへの感謝でこのシリーズを終えたいと思います。
|