四月十七日、文化ホールで大江健三郎さんの講演を聞きました。大江さんは、いうまでもなくノーベル賞作家です。
都留大の「創立五十周年記念・付属図書館竣工記念」の講演を要請し、快諾を得たと金子博学長から紹介がありました。金子学長は「来てはもらえないだろうなと思いつつ、思い切って要請した」と、その時の気持を率直に語り、大江さんに何度もお礼を言いました。
昨年、一昨年のジャズの秋吉敏子さん以来の「えっ、まさか」。私たちも同じ気持です。
大江さんのこの日の演題は「『根拠地』としての本/図書館」。話は大江さんの本との出合いから始まりました。
村の意欲の象徴「図書館」
戦後の新しい息吹の中、村が図書館を開館したのは大江さんが十歳のときでした。蔵書は村人が寄贈した本で「つまらない本」ばかり。しかし、大江さんは二年で読めるものは全部読んでしまったといいます。偉かったのはそのことを告げられたお母さんでした。大江さんと図書館へ行き、本を取り出し、最初の行を読み「続きを言ってみなさい」と…。言えるはずがありません。そこでお母さんが「何のために本を読むのか」と問い、亡くなったお父さんの本の読み方を語ります。そのやりとりのあと、大江さんはお母さんが大福帳から作ってくれた帳面に、読んだ本の内容と感想をつづるようになります。こうして大江さんについたあだ名が「チョウメン」。
日本の「地方」が、戦争が終わったことを心から歓迎し大きな意欲をもって再出発したことと、大江少年の学ぶ意欲とが重なって見えました。
新鮮な憲法と教育基本法
大江少年は憲法・教育基本法と出会います。
大江少年にとって教育基本法第一条(教育の目的)「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない」は新鮮でした。先生と、この中の「自主的精神」と第二条(教育の方針)の「自発的精神」の違いについての問答をします。
十二歳の大江少年の中に憲法と教育基本法が根付きました。
劣化ウラン弾と十八歳の決意
大江さんはご自分の思いが、言葉を正しく使い明瞭に意思を伝える、そういう仕事をしたいというところに到達したと語りました。大江さんにとって「言葉」は重いものです。
イラクで三人の日本人が拘束された事件について、小泉首相が「意味がない」と言ったのに対し、十八歳の自分の決意と引き比べながら少年の行動の意味、決意を評価し、「あの事件で多くの人がイラクの状況を知り、考えた。劣化ウラン弾調査のことも知った。意味がないことはない」と語りました。
「ご自分にとって大切な言葉は」という質問に大江さんは「想像力」と答えました。想像力とは「自分の常識の向こうを考えること」と解明しました。靖国参拝を違憲と断じた判決に「分からない」を十六回も繰り返したという小泉首相に教えてやりたい言葉です。
帰って、大江さんが一面に登場した「赤旗」日曜版3/14を読み直しました。