明日の日本へ、展望示す二冊の本



 先週、テーマを「イラク特措法」とし、山本美香さんの著書「中継されなかったバグダッド」(四日のYBSを見たでしょうか)を紹介しましたが、その前に二冊の本を紹介する予定でした。  一冊は暉峻淑子(てるおかいつこ)さんの「豊かさの条件」、もう一冊は内橋克人(うちはしかつと)さんの「もうひとつの日本は可能だ」です。
 暉峻淑子
豊かさの条件 岩波新書

 暉峻さんは1989年に「豊かさとは何か」(岩波新書)を出版し、バブル真っ盛りのなかで豊かさを実感できない私たちに、ドイツとの比較で本当の豊かな社会とはどういうものかを示しました。その後、ドイツで翻訳出版されたこの本は題名が「貧しい日本」と変わったそうです。「豊かさの条件」はその続編にあたります。暉峻さんはあとがきのなかで「そして今、景気のどん底で、その時と同じ『いたたまれなさ』からこの本を書いている」と述べています。
 続けて暉峻さんは「バブルの頃、経済は最高の指標を示していたが、人々には豊かさの実感がなく、むしろ市民の口からもれるのは、このままではダメになる、という不安な言葉だった。それほどに経済指標が表す富と、生活や人間性にとっての豊かさとはかけ離れていたのだ。どこかで社会の破局を予感して、言葉には表せないながら、人々は、もう一つの豊かさを模索していたのだと思う。しかし、バブルがはじける過程の中で明らかになったさまざまな政治、経済、社会の病理は、ほとんど改善されないまま、いやそれどころか、バブルを招いたのと同じ原理、同じ方法を強化するやり方で解決されようとしている。そのため、いままた市民の生活は押しつぶされ、それが不況の出口をふさいでいるのだ」と強調しています。
 この本では労働、教育、戦争と平和などをテーマに日本社会の異常性をドイツとの比較で明らかにし、その打開が可能であることを自らのNGOの経験をまじえて明らかにしています。
 内橋克人
もうひとつの日本は可能だ 光文社

 暉峻さんが「豊かさの条件」を5月20日に出版し、あとがきを「もうひとつの世界は可能だ」という言葉で締めくくっているのを受けて(?)、その五日後に出されたのがこの本です。
 内橋さんは「読者へ」と題した前書きで、「(『なぜ世界の半分が飢えるのか』の著者として知られるスーザン・ジョージにならって)私たちもまた『もうひとつの日本は可能だ』と声をあげ、熾烈な競争と生き残り戦争にのみ狂奔し、何かといえば、アメリカ発のグローバライゼーションを正義としてこれに追随し、グローバル・スタンダードなる呪文を合唱して飽きることのない『いま、ある日本』の進み方に、はっきりと異議を呈すべきときがきたのではないかと思います。いまこそ、『もうひとつの日本は可能だ』と強く、透き通る声で叫ぶときではないでしょうか」と訴えます。
 内橋さんは、いまの政治の理論的支柱に鋭いメスを入れ、その実行者である政治家、評論家を厳しく批判し、それがいかに脆(もろ)いものかを力強く語っています。
 この二冊、「こんな政治、社会がいつまでも続くはずがない、続かせてはならない」と自信を持って語る上で、絶好の書です。