そんな妻が交通事故で突然亡くなってからすでに5年が経った。僕は妻に何もしてあげられなかったかわりに今でも年に一度のコンサ−トに出かける。もちろんS席のチケットは二人分である。そして花束を抱えて。
コンサ−ト会場に入ると空いている隣のS席に花束を置く。まるで恋人に待ちぼうけをくらった男のように。恐らく僕はこうして妻をいつまでも待ち続けるのだろう。花束をいつも持って。
今年のコンサ−トはブラ−ムスの室内楽だった。もう以前のように眠ることはない。僕もやっとブラ−ムスがわかるようになった。妻が亡くなってから5回目の春に。