授業ノート-病理学07
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-LESSON1 遺伝と遺伝病-
●遺伝:遺伝子によって遺伝情報が親から子孫へ伝えられ、ある形質が発現する現象です。
 1.用語
  ・遺伝子(ジーン):1つの機能を持った遺伝情報の単位をいいます。
  ・形質:遺伝によって形態や機能の面で我々の身体に表現される色々な性質です。
  ・ゲノム:ある生物種の本質的な特性をあらわす、染色体の基本的な一組。
  ・遺伝子型:遺伝子の様々なタイプの組み合わせのことです。
  ・表現型:様々な遺伝子型に対応して色々な型の形質が表現されることです。

 2.遺伝子の構造
  ・DNA:遺伝子の本体。二重らせんの形をした、多数のヌクレオチド鎖です。
  ・ヌクレオチド:4種類の塩基がさまざまな順序で並んでいます。
   ※A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4塩基。
   ※正常ではAとT、GとCのペアに限られ、それを利用して自己複製を行ないます。
  ・トリプレット:任意の3つの塩基の重合体を1単位としたもの。
  ・コドン:トリプレットをもとにした、合計64種類の遺伝暗号(塩基配列)です。

 2.遺伝現象
  (1)1個の配偶子(卵、精子)が減数分裂して染色体の数を半減させます。
  (2)別の性の配偶子1個と合体(受精)して、一対の接合体(受精卵)となります。
  (3)受精卵は分裂を繰り返し、同時に分化して、性細胞や体細胞になります。
  (4)分裂・分化が進み、最終的に1個の個体が完成します。

 3.遺伝子による自己複製
  (1)DNAの遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA)によって、RNAに転写されます。
  (2)RNAの塩基配列をトランスファーRNA(tRNA)によって、アミノ酸に翻訳します。
  (3)アミノ酸から蛋白質が生成されて自己複製が完了します。
 ※DNA複製・蛋白質合成の途上で塩基の置換・欠失・挿入が起こり、塩基の配列や数が永続的に変化した場合を「突然変異」といいます。「突然変異」に基づく遺伝は、遺伝病の本態となります。

●遺伝病:両親から受け継いだ配偶子が発症に関与すると考えられる病気の総称。
1.単因子型(一遺伝子型、メンデル型)遺伝子病
 :両親から受け継いだ1個の変異遺伝子が、対になって発現する場合です。
(1)常染色体性優勢遺伝病
 :発現率50%で、運動器や神経系が多い。
先天性筋緊張症、ジストロフィー性筋緊張症、
顔肩上腕型筋ジストロフィー、骨形成不全症、
多発性外骨腫症、裂手、裂足、
マルファン症候群、ハンチントン舞踏病、
夜盲症、網膜芽腫、神経線維腫症など
(2)常染色体性劣性遺伝病
 :発現率25%で、先天性代謝異常が多い。
脂質代謝異常(各種リピドーシスなど)、
糖質代謝異常(VIIIa型以外の糖原病など)、
蛋白・アミノ酸代謝異常(フェニルケトン尿症など)、
先天性リソソーム病、フリードライヒ失調症、
小児脊髄性筋萎縮症など
(3)伴性劣性遺伝病(X連鎖遺伝病)
 :女児は正常、男児は発現率50%。
先天性代謝異常(レッシュ・ナイハン症候群、糖原病VIIIa型、ハンター病など)、
血友病、赤緑色盲、
デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど
2.多因子型(ポリジーン型)遺伝子病
 :多数の遺伝要因と環境要因が関係することで発現する場合です。予防可能。
高血圧、I型糖尿病、痛風、腎石症、統合失調症、躁うつ病、
先天性幽門狭窄症、先天性股関節脱臼、先天奇形、悪性腫瘍など

-LESSON2 染色体と染色体異常-
●染色体:DNAがひも状になり、塩基性色素で染まった形態です。
 ・ヒトの染色体数は46個(23対)で、うち、常染色体は44個(22対)です。
 ・残りの2個(1対)は性染色体で、男性がXY、女性がXXの型を持ちます。

●染色体異常
 1.数の異常
  (1)異数性:染色体の数が正常と異なる場合です。
   ・トリソミー:2個(1対)の染色体が3個ある場合です。
   ・モノソミー:2個(1対)の染色体が1個しかない場合です。
  (2)倍数性:通常2倍体(2n=46)の体細胞が、多倍体になった場合です。

 2.構造の異常
  (1)欠失:切断の結果、染色体の一部が失われた状態です。
  (2)転座:染色体が一度切断されて、再結合された状態です。
  (3)重複:染色体の一部がどこかに挿入され、二重になった状態です。
  (4)逆位:染色体の一部が縦軸で180度回転した状態です。
  (5)イソ染色体:染色体の両腕が同じ長さになった状態です。
  (6)環状染色体:染色体の両断端が互いに融合した状態です。

 3.モザイク:個体の中に2種類以上の細胞が存在する場合です。
-LESSON3 先天異常-
●先天代謝異常:ある特定の酵素が遺伝的に欠損するために起こる。
 ※生体に重要な酵素が欠損すると、重症になることが多い。

●先天奇形:生まれたときから肉眼で確認できる、形態・形成の異常。
 ※頻度は3〜5%、胎芽期(受精後3〜8週)に多く見られます。
 1.原因
  (1)単因子遺伝に基づく先天奇形:多くは1つの臓器に見られます。
   ・例:裂手、裂足、水頭症、小眼症など
  (2)染色体異常に基づく先天奇形(※下表参照)
   a.常染色体異常による先天奇形
   b.性染色体異常による先天奇形
  (3)多因子遺伝による先天奇形
   ・先天奇形の60〜70%を占め、近親婚で危険率が高まります。
   ・例:遺伝性口唇裂、遺伝性口蓋裂、先天性幽門狭窄症、
      先天性心奇形、無脳症、脊椎裂、先天性股関節脱臼など
  (4)環境要因に基づく先天奇形
   a.生物学的要因:特にウイルスが重要です。
    ・先天性風疹症候群:風疹ウイルスが原因です。
    ・先天性巨細胞封入体症:サイトメガロウイルスが原因です。
    ・先天性トキソプラズマ症:トキソプラズマ(原虫)が原因です。
    ・先天性梅毒:トレポネーマ(細菌)が原因です。
   b.物理的要因
    ・放射線(X線・β線・γ線・中性子線・紫外線)
    ・酸素欠乏
   c.化学的要因
    ・無肢症、あざらし肢症:サリドマイドが原因です。
    ・胎児性水俣病:有機水銀(メチル水銀)が原因です。
    ・その他:テトラクロロジベンゾ・ダイオキシンなど。
   d.胎児環境によるもの
    ・ダウン症候群:母体年齢(40歳以上)、分娩回数が関係します。

 2.種類
  (1)単体奇形:同一個体に見られる奇形です。
   a.外表奇形(外観で認められる)、内臓奇形(内臓にみる)
   b.単独奇形(同一個体に1個だけ)、合併奇形(複数個の場合)
   c.大奇形(肉眼的にすぐわかるもの)、小奇形(わかりづらいもの)
  (2)重複奇形:一卵性双胎(双生児)に見られる奇形です。
染色体異常に基づく先天奇形
1.常染色体異常による先天奇形
ダウン症候群
(21トリソミー)
47,XX,+21
47,XY,+21
特異な顔貌(内眼角ぜい皮、眼裂上斜位、低鼻)、
精神薄弱
エドワーズ症候群
(18トリソミー)
47,XX,+18
47,XY,+18
小頭症、小鼻症、小眼症、小下顎症
パトウ症候群
(13トリソミー)
47,XX,+13
47,XY,+13
口唇裂、口蓋裂、多指症、小眼症、無眼症
猫鳴き症候群
(5番短腕欠失)
46,XX,5p-
46,XY,5p-
猫のような鳴き声、広い眼間距離
2.性染色体異常による先天奇形
ターナー症候群
(X)
45,X 外陰部は女性、著しく背丈が低い、
二次性徴欠如、外反肘
クラインフェルター症候群
(XXY)
47,XXY 外陰部は男性、矮小精巣、女性化乳房
トリプルエックス症候群 47,XXX 外陰部は女性
真正半陰陽 46,XX
46,XY
精巣+卵巣、種々の性器異常

-LESSON4 診断・治療・予防-
●診断
 1.遺伝子診断
  (1)方式
   a.遺伝子解析法(サザン・ブロッティング法、ポリメラーゼ連鎖反応法)
   b.DNA塩基配列(シークェンス)決定法
  (2)適応
   ・遺伝子診断により確定診断が可能な病気
   ・治療も可能か、将来のある時期に発症することが確実に予想できる病気
  (3)方法
   a.直接診断法:遺伝子の変異を直接検出する方法です。
   b.間接診断法:遺伝子マーカーを使い、遺伝子変異を追求します。
  (4)対象疾患群
   a.遺伝病:鎌状赤血球症、糖原病I型、嚢胞性線維症など
   b.癌:家族性大腸腺腫症、多発性内分泌腺腫瘍II型など
   c.感染症:B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、結核菌、抗酸菌など

 2.出生前診断、胎児診断
  (1)単純X線撮影法:妊娠30週以降、骨格の造影をします。
  (2)羊水撮影法:水溶性造影剤を羊水に注入して消化器や軟部組織を造影します。
  (3)胎児造影法:脂溶性造影剤を羊水に注入して外表を造影します。
  (4)胎児鏡:胎嚢内に胎児鏡を挿入し、直接観察します。
  (5)ME診断法:胎児の心、腎・尿路、中枢神経系機能を検索します。
  (6)コンピュータ断層撮影法(CT):胎児の横断映像を見ます。
  (7)磁気共鳴断層撮影法(MRI):脳・脊髄や心臓の先天奇形の発見に有力です。
  (8)羊水診断法:妊娠16週以降、羊水を採取して診断します。
  (9)絨毛診断法:妊娠9週以降、胎盤の絨毛細胞を採取して診断します。

 3.発症前診断:治療の時期を逃さないために、マススクリーニングが行われます。

 4.保因者診断:遺伝病の予防の面から行われます。

●治療
 1.先天代謝異常:食事療法、遺伝子治療(変異遺伝子組み換え療法)
 2.先天奇形:外科療法

●予防
 1.遺伝病の予防
  ・発病の遅い遺伝病の保因者の早期発見・早期治療で、発病を阻止します。
  ・優生学的指導:劣性遺伝病の保因者同士の結婚を避けます。
 2.先天奇形の予防:奇形を誘発する環境要因を遠ざけます。