(2)
精霊使い?それは、魔法使いとは違うのだろうか?
「ソーサリエにはね、必ず精霊が付いている……って、例外もいるけれどね。ただ、精霊が付いているだけではダメなんだ。お互いに訓練して力を上手く使わなくちゃね。
だから、精霊使いの血を引く子供たちは、12歳の誕生日を迎えたら、誰でもソーサリエの学校に入って勉強する義務があるんだ」
「……ということは、私は精霊使いなの?」
「そういうわけ。そして、おいらはねーさんの専属ってわけ」
だから、アガサには精霊が付いていたのだ。
納得できたような気がする。しかし……。
「でも、わからない。なぜ、私が精霊使いなの? お父さんもお母さんも普通の人だったのに」
「うん、おいらにもわからない。たぶん、ずっと血筋を遡れば精霊使いがいたんだろ? とにかく、おいらがアガタについちゃったんだから、精霊使いの家系に間違いない」
「私、アガサよ」
名前を修正しながらも、アガサは考え込んだ。
両親、さらにじいさんばあさんまで遡っても、どう考えたって精霊やら魔法やら、そういうものには縁のない家である。
だいたい学校の肝試しで誰もが見たという幽霊さえ、誰も見たことがないという家系なのだから。
「あーあ、ねーさん。幽霊と精霊は全然違うものだよ」
なぜか言葉にしなくても、フレイはアガサの考えていることがわかるようだ。精霊は勘がいいのだろうか?
「アガタは、これからソーサリエの学校へ入学し、勉強して精霊の扱いをマスターしなければならない。義務だからな」
「ア・ガ・サ・だってば!」
何度言えば名前を覚えるのだろう?
アガサは、だんだん苛々してきた。
だいたい、いきなり魔法使いだか精霊使いだか知らないけれど、わけのわからない者にされてしまって迷惑である。
その上、家まで焼かれてしまって……いや、家を焼いたのは、隣のばあさんか? この際、もうどっちでもいい。すべての悪の根源はこの精霊なんだから。
「ひどいわ! 何で私がこんな目にあわなければならないわけ? 焼け死にそうになったり、お化けに食べられそうになったり!」
「それが、生まれついた運命ってものさ」
簡単に運命などで片付けられて、アガサはぎっとフレイを睨んだ。
「生まれついた時から、あなたが勝手に私を振り回しているだけじゃない! あなたのせいで、私は普通の女の子扱いされたことなんてないんだから!」
「ソーサリエなんだから、仕方がないだろ?」
「私、そんなの認めない!」
フレイは、うーん……と小首をかしげた。
「いいかい、アガタ。そこで泣き事を言い続けていても、おいらはかまわない。気が済むまで待つさ。でもな、もうねーさんには帰る家もない。前に行くか、引き返すか、よくよく考えてみな」
「私はアガサよ!」
鼻をすすりながら、アガサはクレームをつけた。
「名前なんかどっちでもいいさ、問題はこの先、どうやって生きるかってことだ。とにかくさ、泣き止んでくれないと、おいら、ねーさんの側にはいけないよ。おいらの火が涙でちいさくなっちまうからね」
「あなたなんか嫌い!」
アガサは叫んだ。
――そう、精霊なんかいなければ、こんなことにはならなかった!
精霊さえいなければ、変人扱いもされなかったし、普通の女の子として生きてこれたんだから!
「フレイなんか、大嫌い! どこか行っちゃえばいい!」
大きな声で怒鳴ると、フレイは楽しそうに笑った。
「おいらはいい精霊さ。ソーサリエの言うことはよく聞くさ。だから、本当にどこか行っちゃうよ? いいんだね?」
笑顔が憎らしくて、アガサは唇をかみ締めていた。
「それじゃあね、アガタ。気がすんだら、おいらの名前を呼ぶといい」
「私はアガサだってば!」
怒鳴るアガサの声を聞いたのか聞かないのか、フレイは高々と飛び上がり、やがて闇の向こうに姿を消した。
「あなたの名前なんか、死んでも呼ぶわけないじゃない! ばかばかばか!」
声はこだますることもなく闇に吸い込まれていった。
叫ぶだけ叫んだアガサの回りには、ただ暗闇と静けさだけが残った。