ソーサリエ〜アガサとアガタと火の精霊

第2章 アガサ、忍びの者となる


(3)

 中央エリアの入り口には魔法が掛かっていて、ホール・パスを持っていない者ははじかれることになっている。
 別に何気ない通路の繋ぎ目なのであるが、1、2年生には禁断の地なのだ。
 アガサはそのまま通りぬけようとして……見事に弾き飛ばされた。
 ゴムの壁にぶつかったように、びょーんと跳ね返り、床に転げたとたんに、再びオシリをぶつけた。
「い、いったーい! いったいどうしてよ!」
 人がいなくてよかった。
 意を決して再チャレンジ! しかし結果は同じだった。
 アガサは腹を立てて、何度も何度も立ち向かった。が、その度にオシリを打つことになった。
「背だよ! 背の高さだ! ジャンジャンとアガタじゃ、大きさが違いすぎるから、はじかれたんだ!」
 フレイが、思い出したぞ! とばかりに叫んだ。
 中央エリアの入り口には、パスを持っているだけで通れるのではなく、瞬時にパスの持ち主とパスを照合する魔法がかかっているのだ。
「……じゃあ、初めから無理じゃない? この計画」
 アガサはむくれた。
「そういうことなんだけどさー。悪いな、ねーさん。計画練ったときは、忘れていたんだから、仕方ねーだろ?」
 フレイはひらひら飛びまわりながら、開き直っている。

 せっかくここまで来たのに。
 アガサは、通路の向こう側を覗き込んだ。
 向こう側はやや天井がこちらよりも高くなっていてるらしい。暗くてよく見えないが。
 うっすらと見える範囲だけでいえば、こちらのどっしりとした作りよりも、あらゆるところに細かな彫刻が施されているらしい。陰影が複雑に見える。
 もう、引き返すしかないのかな?

 まるで、おとぎの世界のようだ。
 アガサが踏み込むことができない異世界のよう……。

「ねーさん! いい方法を思いついたぜ!」
 いきなりのフレイの言葉に、アガサは我に返った。
「え? えええ? どんな方法?」
 フレイは床に着地した。その姿をよく見るために、アガサも這いつくばって鼻先をフレイに向けた。
「えへん! いいか、ねーさん。ようは体を大きく見せればいいんだろ? おいらが見本を見せるからな!」
 そういうと、フレイはいきなり踊り出した。

 ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ……。

「な、なにそれ?」
 鼻先で踊られて、アガサはあきれた。
「何って、踊るとほら! 体が大きく見えるだろ? そして最後はジャンプ!」
 バレエのような高いジャンプを見せて、フレイは最後にポーズを取った。
 ……確かに、両手を広げて大きくジャンプし、しかも足も大きく開いていれば、背が高いと勘違いされるかもしれない。でも……。
「でもはない! ほら、立って立って! 練習練習!」
 フレイに促されて、アガサは立ち上がり、フレイの踊りを見よう見まねでやってみた。

 ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ……。

「ねーさん、そこで大きく手を広げて、はい、ツーステップ・ツーステップ・ターンしてポーズ。すぐ、タタタ、タタタ、そこでターン」
 なぜ、ジャンプして通るだけではなくて、ツーステップまでするのだろう? と思いつつ、アガサは汗を流してがんばった。
「あーねーさん、右手と右足両方出てる! 違う、そこは右、次は左、そこで休まない、すぐ、タタタ、タタタ、そしてジャンプ!」
 アガサは、どうも踊りは得意ではないようである。足がこんがらがって倒れること3回、その度にオシリを打つ。
 フレイの指導は厳しかった。
 へとへとになって、どうにか振りを覚えて、ちゃんと踊れるようになるまで、かなりの時間を費やした。
「はい、本番は最後のジャンプで向うに飛ぶ! OK?」
「OK……だけど」
 今までの踊りはなんだったの? と聞きたい。

 ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ、ずんちゃちゃ……。
 
 ジャンプを決めたとたん、アガサは向うへと渡っていた。
 ……だから、汗だくになって、息も切れ切れになっていても。
 フレイのアイデアを褒め称えよう。