鈴鳴り姫と銀の騎士

評判の細工師(3)

 その日から細工師は三日間店を閉じました。
 なぜなら、すっかり鈴鳴り姫に恋をしてしまい、仕事が手につかなくなってしまったからです。
 どのような宝石も姫の美しさに比べたら、ただの石ころに思えてしまい、自分の作ったものすべてがまがい物に見えてしまいました。
 まるで熱に浮かされたような日々をすごしたのです。
 四日目の夜、細工師は街を出て、小さな川までやってきました。
 川の流れに星や月の光が煌いています。
 細工師は冷たい水の中を歩き回り、やがて月の光を取り込んで輝く小さな石を見つけて拾いました。そして、その石を手のひらで包み込んで、自分の想いを注ぎ込むように息を吹きかけました。
 名もないただの石でした。
 しかし、細工師は本当の美しさを見極める目を持っているのです。きっとあの人も、この石が持つ美しさに気がついてくれるに違いないと思いました。
 そして、ひそかに石に【月の石】と名前をつけてあげたのでした。
 細工師は、作業所にたくさんの宝石をもってはいましたが、どれも自分のものではなく、人様からの預かり物でした。
 財産などは何もなかったのです。
 もちろん、細工に使う金も銀も、細工師のものはありません。
 細工師は、加工後に出たわずかばかりの金沙を集め、丁寧により分け、熱を加えました。
 そしてトンカチで叩いて薄く延ばし、熟練した指先で、目にも見えないような細い鎖に編み上げました。そして最後に月の石をつけて首飾りとしました。
 けして豪華なものではありません。何一つお金をかけていません。しかし、持ちうる技術のすべてをかけて、心をこめて作り上げました。
 月の光を閉じ込めて美しく光る石は、まるで自ら宙に浮いているかのように、胸元で輝くことでしょう。
 細工師はそのでき栄えに満足しました。
 そして、月の石を身につけた姫の喜ぶ姿を想像し、幸せな気分になりました。

川


 次の満月の夜、やはりお城に呼ばれた細工師は、思い切って月の石を姫に贈りました。
 心をこめた自信作ではありますが、ただの川原の石です。さすがに勇気が必要でした。
 しかし、姫はたいそう喜んで「つけてください」と細工師にお願いしました。
 細工師は震える手を姫の首に回しました。とても緊張し、なかなかうまくつけられなかったので、姫の美しい髪や肌に触れてしまい、さらに舞い上がってしまいました。
 夜明け近くまでかかって銀の鈴を磨き上げた時、細工師は大変なことに気が付きました。
 鈴はひとつひとつは軽いのですが、千個もあるとかなりの重さでした。
 月の石はそれだけでしたら軽いのですが、姫にとっては重たすぎるでしょう。
 とんでもないことをしてしまった! と焦る細工師の前に、耳障りな音を立てて、姫がやってきました。
 もう、鈴のために素顔を見ることもできません。
 銀の鈴に取り囲まれた姿は、銀色の昆布をまとった深海の魔物のようであり、歩き方も、鈴のあまりの重さにずるずると地を這う虫のように醜いのでした。
 しかし、姫はそっとドレスの端を持ち、細工師に向かってお辞儀をし、月の石をかざして見せました。
 それは、忌み嫌われている姫が、王様以外の人からもらった初めてのプレゼントだったのです。
 表情は見えませんでしたが、間違いなく微笑んでいることが、細工師にはわかりました。

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