評判の細工師(2)
大きな城の小さな一室に、細工師は案内されました。
星模様のついたての向こうから、頭が割れそうな耳障りな音が響きます。細工師はあわてて耳栓をしました。
そこに姫がいるのでしょう。外された鈴は、やはり巨大な耳栓をした女官たちがすぐに細工師のもとへと運び、細工師はせっせと磨きました。
美しい鈴でした。
薔薇の花を模した形です。銀が透けるのではと思われるほど、薄い花びらが折り重なっていて、それに包まれた小さな球が細やかな鎖で吊るされておりました。
そこには魔力がこめられていました。
細工師はうなってしまいました。あまりの細工の見事さについ音が聞きたくなり、耳栓を外して、鈴を揺らせてみました。
ちりん……と可憐な音が響きました。
「……私のために、ありがとう」
ついたての奥から、鈴の音にもにた可憐な声が響きました。細工師は驚いて、鈴を磨く手を止めました。
「あなたはいったい誰ですか?」
と、聞きました。
すると、声の主はたいそう驚いて聞き返してきました。
「あら、あなたには、私の声が聞こえるのですか?」
その人の姿を見て、細工師は息ができなくなってしまうくらい、固まってしまいました。
細工師は今まで黄金も加工し、数多くの宝石も扱い、素晴らしい装飾品を作り上げてきました。内心それに勝る美しいものはないと、自負しておりました。
しかし、目の前にいる少女は、そのようなものがすべて色あせてしまうほど、美しかったのです。
長い髪は、手にした事もないような美しい金で、柔らかく波打っておりました。肌の色はどのような深海の貝でも育てられない透明な真珠色。そして瞳は、夜空を切り取ったサファイヤ。細工師を見て微笑んだ顔は、ダイヤモンドの星のきらめきでした。
それが、細工師たち民人が、長年忌み嫌ってきた鈴鳴り姫の本当の姿なのでした。