新月の魔女(2)
ちょうどその頃、王様は新月の魔女への祈りを捧げていたところでした。
しかし、突然の侵入者にいきなり後ろから殴られ、ばったり倒れてしまいました。
朦朧とした王様の耳に新月の魔女の高らかな笑い声が響きました。
王様を殴りつけ、足蹴にして、窓辺に歩み寄ったのは、なんと鈴鳴り姫でした。
姫は王様のほうを振りかえり、無様な姿を見て笑いました。
「私に鈴をつけて笑いものにした罰だ! 思い知るがいい!」
そして、窓から飛び降りると、甲高い悲鳴をあげて消えてしまいました。
王様はよろよろと窓辺により、恐る恐る窓の下を見ました。
どのようなひどいことをされても、王様の愛は変わりません。
新月の魔女に支配されたまま、高いところから飛び降りてしまったのです。姫が落ちて死んでいるに違いないと思い、王様は確かめる前にすでに泣きだしてしまいました。
しかし、窓の下に姫の姿はありません。悲鳴のような声をあげる鳥が二羽、星空の向こうに飛んでいくのが見えただけでした。
その夜から王国で月を見ることはありませんでした。
それどころかどんよりとした雲が覆い、昼間も薄暗い日々が続きました。
作物は枯れはじめ、家畜は病になりました。
王様は、殴られた傷が病んで寝込んでしまいました。
民人は、やれ鈴鳴り姫の呪いがはじまったのだよ、と噂しました。
姫が南と北の秘所を破り、宝玉を奪って新月の魔女に捧げたため、満月の魔女が滅んでしまったのだと、とんでもない作り話さえ言う者もありました。
いずれにしても、満月の魔女の力は、この国のどこにも感じられなくなりました。
【月の魔法に守られた幸福の国】は、いまや【月の魔法に呪われた闇夜の国】と呼ばれるようになりました。
王国の闇の噂は三つの湖を越えた国まで届きました。
新しい店を持ち、姫を忘れるために仕事に熱中していた細工師の耳にも、恐ろしい噂は伝わりました。
魔女の使いとなった姫の話に、細工師はトンカチを落として、そんなはずはないと叫びました。
あの美しい人が、魔女の手先として悪行を重ねているなどと、どうして信じることができましょうか?
細工師は再び店を閉めると、トンカチも何もかも捨ててしまい、人々が愚か者と罵る中、闇に染まった恐ろしい王国へと戻りました。