星を見る人(6)
トロゥを最後に世話していたのは、ハイネの母だった。
すっかりボケてしまって、誰もが引き取りたがらなかったので、母が仕方がなくこのオタル・シティに連れてきたのだ。
若き日のトロゥ・プリウスを知っている人はいても、もうろくじいさんが彼だと知る人はいなかった。いや、知らないふりをしていたのかも知れない。多くの宇宙開発者が住む街で、かつての英雄は見て見ぬふりをされていたのではないだろうか?
オートで走る車は、コロニーの小さな原っぱに、大人に相手にされない小さな子供とボケた老人を運んでゆく。
耳をすませば、人工的に作られた虫や蛙の声がする。土も衛生的に作られた人工物だ。植物だけは地球から運び込まれた。光合成の仕組みは、人工的に作り出すにはコストが高過ぎるのだ。だが、自然の原っぱなどではない。人工虫や人工蛙がこの植物を管理している。
そこは、まさしくリアルに作られた地球だった。
そこで、トロゥは星を見ていた。
「まだ見知らぬ世界を冒険してみたいと、わしはよく思ったものだけどね。おまえはそうは思わないのかい? ゲームが好きだから、世界を作るほうが向いてるかもなぁ」
そう言ったトロゥは、自分が作った世界を忘れていた。
覚えていたのは、子供の頃の夢だけだった。
コロニーからは、一般人は本当の宇宙を見ることはない。筒状の形をしたコロニーは、その内壁を地上として作られている。だから、みんな空き缶の中しか見れないのだ。
中心に青い空を映し出す仕組みがあるが、夜は対岸の夜景の光のほうが強く、街灯りを星のように見せる。
いつも、あの時も、そして今夜も、オタル・シティの郊外の夜空には、まるで星が降るように対岸のリゾート街の営みが映っていた。
嘘のゲームをする子供と、嘘の星を見る老人。
それが、ハイネとトロゥじいさんの姿だった。