星を見る人(4)


 ここの自然は、トロゥが子供だったころと寸分たがわない姿をしている。
 かすかに風が頬を撫でてゆく。夜露が望遠鏡のレンズを濡らし、トロゥを少し困らせる。
「ちぇっちぇっ、少しリアルに作りすぎだよ! これ!」
 ゲームのキーを激しく叩きながら、ハイネはひとり叫んでいた。

おじいさん

 レンズにカイロを当て露を払いながらも、困らせる自然現象すらもうれしそうにトロゥは言った。
「リアルっていうのはいいことだよ。リアルに出来ているから、そうやっておまえも騙されて、ゲームに没頭できるんだ。だがな、たまには本物の自然とかに触れることもいいぞぉ。どうだい? ハイネや。ちょっと覗いてみないかい?」
 つきあいさえすれば何も文句は言わないトロゥだったが、こうして一度はハイネに望遠鏡を見ることを勧めるのだ。ハイネが一番嫌な瞬間だった。
「やだよ、そんなもの」
「そんな、ものかぁ……」
 そう呟いて、トロゥは少しだけ寂しそうにする。それがハイネには嫌なのだ。トロゥがものすごく惨めな年寄りに見えてしまう。
 トロゥは、もう少しという仕草をして、再び望遠鏡に目を近づけた。
 とたん――。
「おおお! あれはなんだ? もしかしたら彗星かも知れんぞ!」
 望遠鏡を覗き込みながら、トロゥは叫んだ。
「向こうではカーニバルかなんか、やっているんじゃないのぉ?」
 ちょっぴりひねた声で、ハイネは吐き捨てるようにして言った。
 ――これでちょうど、ゲームオーバーだ。


 それから数年が経った。
 トロゥじいさんは亡くなった。

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