責任 


イスカンダルのふたり  2



どこか頼りなかった身体もスターシアのおかげで順調に回復し始めた守は、部屋から抜け出して海の見える丘へひとり座っていることが多くなった。

「守、またここへ来ていたのですか?」

後ろからスターシアに声をかけられた守は

「ここは、故郷の海に似ているから・・・だからここへ来てしまう・・・両親や弟と過ごしていた海に・・・」

「そう・・・」

「あ・・・ゴメン、スターシア。この星にいるのは君だけだったんだね」

「ええ、妹はちょっと遠くへ出かけてしまっているのよ。でも、もう少しで帰ってくると思うから・・・守は、ご両親が心配?」

「・・・両親はもういないんだ。心配なのは弟。最後に会ったのは『ゆきかぜ』で出撃する前だから・・・・もう、半年以上会っていない事になる」

「弟に会いたい?守」

「会いたいとは思う・・・でも、この星から離れたくないと思う気持ちもあるんだ。だから、君さえ良ければこの星に住まわせてもらってもいいだろうか?」

守の言葉を聴いたスターシアは

「でも、守・・・もし、地球へ帰ることが出来ると言ったら・・・」

「それでも、僕はここに残りたい・・・ダメかい?スターシア」

振り向いた守を見つめながらスターシアは

「守・・・」

「スターシア、この星で君と一緒に生きていきたい・・・」

スターシアの細い肩をそっと抱き寄せる。

「僕はね、この星のおかげで命をもらったと思っているんだ。瀕死の重症だった僕をこの星の科学力と君の献身的な看護のおかけでね。見ず知らずの異星人であった僕を一生懸命看護をしてくれた君をこの星にひとりでおいて行くことは出来ない。確かに地球へ帰りたいという気持ちもあるけれど、今は君と二人だけでこの星で生きて行きたいという気持ちの方が大きいんだ。

だから僕との結婚を考えてくれないかな?地球とイスカンダルでは結婚という定義は違うかもしれないけれど、これから二人で生活していくためのけじめとして・・・」

守の言葉を聴いていたスターシアは細い腕を守の背中へまわした。

「守・・・本当にいいのですか?」

守の胸の顔をつけたまま聞くスターシアに

「ああ、後悔はしないよ」

そっと顔を上げたスターシアの細い頤を片手で持ち上げると、そっと唇を合わせた。

優しく触れるだけの口付けを・・・





時間を忘れて抱き合っている間に夕闇が迫ってきていた。

「守、そろそろ宮殿へ戻りましょう。体調がいいといっても元のようになるまでにはまだ時間がかかりますから・・・」

「そうだね、体調を崩してしまったらまた、君に迷惑をかけてしまう」

「宮殿へ戻って食事にしましょう。食事の前に何か温かい飲み物でも入れましょうね」

宮殿へ続く道を歩く二人の前に優しい光を放つ神秘的な宮殿。

昨日まで凛とした輝きだった宮殿が今は暖かさをかもしだしている。

それに気がついた守が

「なんだか昨日までの雰囲気と違って見えるのは気のせいなのかな?ねぇ、スターシア、何か知っている?」

守の質問に

「それは・・・この星が喜んでいるからなの」

「え?」

「ビックリするわね、そんな事を言うと。この話は食事の後でゆっくりと話しますね」

そう言うと宮殿へ向かって歩き始めたスターシアの後を追うように守も宮殿へ向かう。






食事も終わりくつろいでいる守に飲み物を渡しながら

「先ほどのお話の続き聞きますか?」

「え?この星が喜んでいるという?」

「ええ、ちょっと長い話になりますけど・・・」

ふたりが今いるところは地球で言うリビングのようなところ

「ここでは話し辛いのかな?」

「ここでも構いませんが・・・できれば別の部屋の方が説明しやすいのです」

何かを隠しているようなスターシアに

「わかった、どこへ行けばいい?」

「では、こちらへ・・・」

先にたって歩くスターシアの後を追う。






入るように進められた部屋は大きなパネルのある宮殿の中心となるところだった。

パネルの前にあるソファーに座るように進められ、そっと腰を下ろすと守の横にスターシアも腰を落ち着けた。

「さっき言った質問の答え、ここで教えてくれるの?」

「ええ」

小さく頷きながら手元に持ってきた端末を操作する。

ソファーの前のほうが小さな音ともにスライドをしたと思うと、飲み物を載せてテーブルがあわられた。

驚く守に

「この星の科学の力のひとつです。今まで私一人でしたからあまり使う事はありませんでした。この宮殿はこの星の中心と繋がっているのです。私の心とも・・・」

「君の心とも繋がってる?」

「ええ、イスカンダル星人には地球人とは違った力を持っているのです。人を癒したり、物を動かしてみたりと・・」

「地球で言う超能力の様なものなんだ・・・」

「地球にもそういう方はいたのですか?」

「極稀にね」

「そうですか・・・この星が喜んでいるというのは、私の心が癒されているからなんです。ふたりきりになってしまったサーシャを地球へ派遣してしまってから私の心の中は心配と不安が入り混じっていました。その影響で宮殿の輝きが少し冷たい雰囲気になってしまっていたのも知っていました。

それでもどうする事も出来なかった・・・守、貴方がこの星にとどまりたいといってくれなければ・・・」

横に座る守が小さく震えるスターシアの肩を抱き寄せながら

「じゃぁ、僕がこの星に残る事を許してくれるんだね?」

小さく頷いて守の胸へ顔をうずめた。

「良かった・・・君に断られたらどうしようかと思っていたんだ。地球へ帰る手段もなかったからね。それに君とこの星の未来を見てみたいから・・・」

スターシアが上を向いた時優しく穏やかな瞳で見つめる守の顔が近づいてきた。

優しくついばむような口付けを繰り返していた守が少しずつ深い口付けに変えていった。

お互いのぬくもりを確かめ合うように・・・





一つのベッドで寄り添うように抱きしめられていたスターシアが朝日が部屋の中へ差し込んできたのに気がつきゆっくりと目をあけた。

目の前には優しい顔をした守の寝顔を見つめていたスターシアがそっとベッドから抜け出す。隣の部屋から聞こえてくる音を止めるために・・・

ドアを潜り抜けしっかりと閉まったのを確認してから・・・

「守・・・貴方には内緒にしていたけれど地球へ帰ることが出来るのよ・・・・」

小さく呟いたスターシアがイスカンダルの女王としてヤマトを迎えるべく通信機を操作する。

「こちらイスカンダル星のスターシア、こちら、イスカンダル星のスターシア。ヤマトの皆さんを歓迎します。皆さんにはイスカンダル星のマザー・タウンの海へ下りていただきます。操縦装置を私の支持にあわせてください。現在、地上の気圧は980ミリバール、気温摂氏20度・・・・・」




ヤマトへの通信を終了したスターシアは寝室で眠る守のところへ行った。

「守、起きてください。最終検査をしましょう?」

「ん?おはよう、スターシア?検査って?」

「メディカルチェックです。放射能の影響が残っていないかの検査ですから安心してください。この服に着替えてメディカルルームへきてくださいね」

手渡された洋服に着替え、スターシアの後を追ってメディカルルームへと急いだ。

メディカルルームの中では準備を終わらせたスターシアが待っていた。

「守、コレを飲んで、ここに横になってください」

コップを受け取った守は

「これは?」

「放射能の影響が出ていないか検査をする時の飲み物です。検査自体は2時間程度のものですから・・・

検査が終わったらまた海岸へ行きましょうね」

「今度は違う海岸がいいな」

そう言ってコップの中身を飲み干してから検査機器に横になる。

守が横になったのを確認したスターシアが機械のパネルを操作する。

カプセルの中に横になっている守を時間が許す限り見つめていた。




ヤマトがマザー・タウンの海に着いたという知らせが届くまで・・・・



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