誕生日の準備は?




彼女と知り合ってから何回目の誕生日を迎えるのだろう・・・

なかなか一緒に祝うことのできない僕に文句ひとつ言うことなく遅くなってしまったプレゼントを嬉しそうに受け取ってくれる・・・

「今年は何をプレゼントしたらいいんだ・・・」

雪の誕生日に気がついたのが昨日・・・

それも、月基地に出張できている自分・・・

ここで何か用意することなんてできなそうもないし・・・

明日の昼過ぎには地球に着くけどそれから用意できるものといったら・・・

頭を抱え月基地のカフェテリアに座っていると

「古代さん、何しているんです?」

今一番会いたくないやつが現れる。

「何しているって・・・休憩中だよ。

それより、お前こそ何でここにいるんだよ」

「ここにいるって言われても・・・今ここへ着いたんですよ。

何か悩み事でもあるんですか?僕でよければ相談に乗りますよ」

このお坊ちゃんは人をからかうのが楽しいらしい・・

「遠慮するよ・・・ 

南部に頼むと大事になるから・・・

それに、あてはあるから・・・

それにこれだけは自分で決めたいから・・・」

「そうですよね。確か明日は雪さんの誕生日ですものねぇ・・・

いつまでもお熱い二人ですから古代さんのあつ〜いキッスでも雪さん喜ぶんじゃありませんか?」

「な、南部!!何てこと言うんだ」

あわてて怒鳴ってしまうところだった。

「まあ、まあ・・・いいじゃないですか。

いつまでたっても新婚さんなんですから・・・

古代さんたちが仲良くしていてくれると僕らも安心するんですよ」

それじゃ、と、肩をたたいて出て行く。

プレゼントを用意する時間はないけどアレなら大丈夫だろう・・・

明日、雪は迎えにこられないから・・・






予定通り無事地球に帰還。

一度家に戻ってから出かけることにしよう・・・

雪が帰ってくるまでの数時間で何ができるかわからないけれど、

驚かせることはできるかな?

なんとなくワクワクした気分でショッピングモールへと出かける。

最初は・・・ここ・・・

色とりどりの花を眺めながらドアを開け、声をかける。

「すみません、平井さんいらっしゃいますか?」

は〜い、と、奥から声が聞こえる。

「あら?お兄ちゃん、今日は何か御用?」

「花束を、と思ってきたんだけど・・・」

「お見舞いですか?」

「お見舞いじゃなくて、プレゼントなんだ・・・

今日、雪の誕生日でね、何も用意できなかったから花束でもと思ったんだけど・・・こんなにいろいろあると困ってしまうよ・・・」

「お誕生日のプレゼントですね。

それだったら花束ではなくて、花篭にしてみてはいかがです?」

「花篭?」

「そう、花篭です。小さな籠に花をアレンジして生けていくんですけど、これなら30分ちょっとで出来上がりますよ」

「じゃぁ、それをお願いしておいていいかな?

ほかの買い物済ませてくるから・・・」

「いいですよ、お兄ちゃんの頼みだもの。

アレンジはお任せしてくれますよね」

「ああ、悠ちゃんに任せるよ。それじゃ、頼みます・・・」

「素敵なものに仕上げておきますね。

お買い物ゆっくりしてきたいいですよ」

ドアを出るとき賭けられて声に右手を上げて返事をする。






食料品売り場でワインとチーズ、主役の肉とサラダにする野菜・・・

後は・・バースディケーキ。これがまた問題だったりする・・・

雪の好みのケーキを探すのにも一苦労・・・

そういえば、誰かが言っていたような気がする。

ショッピングモールの中に小さなケーキ屋さんができたと・・・

精算をして専門店が並んでいるスペースへ行ってみる。

小さいけれど女の子が喜びそうな雰囲気を持っているケーキ屋さんが目に入ってきた。

男一人で、入るにはちょっと恥ずかしい気もするが、ここは雪のため・・・

中にはいってみるとショーケースの中にかわいらしいケーキが色とりどり並んでいる。

ここのケーキはあまり甘くなく美味しいらしい・・・

何種類かをチョイスして早々に店から出る。

荷物を一度車においてフラワーショップへ急ぐ。




「遅くなりました。頼んでおいたもの出来ていますでしょうか?」

「はい、出来ていますよ」

手渡されたものはとってのついた籠に色とりどりの花がいけてあった。

「ありがとう・・・悠ちゃん」

「いいえ、お兄ちゃんのためですもの。

これから帰ってお食事にでも出かけるの?」

「それがね、雪の仕事がいつ終わるかわからないんだ。

だから僕が夕食に準備して待っていることになっているんだけど・・」

「お兄ちゃん料理できるの?」

「失礼だな。これでも自炊していた期間は長いんだよ。

今日は、ありがとう・・・」

お礼を言って店を出る。







夕食の準備を始めたころビジフォンがなった。

「はい、古代です」

『進さん、私・・・』

何か言いにくそうにしている雪に向かって、

「雪?どうした。何かあったのか?」

『あのね、お仕事もう少しかかりそうなの。

ちょっとした手違いで、資料作りに時間がかかっちゃって・・・

それで、お食事先に済ませておいてくれるかしら?』

「一人で食べるのもなぁ・・・

こっちのことは気にしないで仕事にもどれよ。

帰れる時間になったらまた連絡してくれればいいから・・・」

『ほんとにごめんなさいね。出来るだけ早く終わらせるから・・・』

「わかった。急ぎすぎて間違えるなよ」

『もう、そんな意地悪いわないで。それじゃ、戻ります』

画面から雪の顔が消えるのをじっと見つめていた。

「そうか、遅くなるのか・・・仕事じゃしょうがないな」

一言つぶやいてからさきほどの準備の続きにかかる。

盛り付けたサラダと手作りしてみたドレッシングは冷蔵庫へ。

肉は下味だけつけて食べる直前に焼くとして・・・

雪が帰ってくるまで読みかけの本でも読んでいようと・・・





・・・進さん、こんなところで寝ていたら風邪を引くわよ・・・

どこからか聞こえてくる声に目を開けると、目の前に雪の顔があった。

「え?雪・・・お帰り・・・いつの間にかねてしまったみたいだ・・・ 

雪、おなかすいているだろう・・・着替えてくるといいよ」

「もう、おなかペコペコなの・・・ 

何か美味しいものでも作っておいてくれたのかしら?」

「それは後のお楽しみ。

早く着替えておいで、一緒に食べよう・・・」

雪は寝室へ、僕はキッチンへ向かった。

しばらくして、

「進さん、何かお手伝いすることない?」

「ほとんど出来上がっているから座っていていいよ」

テーブルに並んだ料理を見て、

「ほんと、進さんって手際がいいのよね。

あっという間に作ってしまうし・・・」

「当たり前だ、君より食事のしたくは慣れているんだから・・・ 

ほら、むくれていないで食べよう・・おなかすいているんだろう・・・」

「そうでした。頂きます」

美味しそうに食べている雪に

「あまり食べ過ぎるなよ。この後デザートもあるんだから・・・」

「うふふ・・・デザートは別腹よ・・・」

にこりと笑って食べ始める。

「雪の場合は・・・だろ・・・」






食後の後片付けをするという雪を

「いいから、今日は座っていろって・・・ 

何もすることがないならシャワーでも浴びてくればいいだろう・・・

雪が上がってくるころにはデザートの用意しておくから・・・」

まだ、何か言いたそうな雪をバスルームへ追いやりデザートとお茶の準備。

少し照明の明かりを落としたリビングのテーブルにケーキを並べた皿とティーカップをおいたとき

「わぁ・・・いいにおい」

バスローブに身を包んだ雪が戻ってきた。

「さぁ、座って・・・」

「あっ、ここのケーキ、甘さがきつくなくていくつでも食べられちゃうのよ・・・

進さん、このケーキどうしたの?」

瞳をきらきらさせて聞いてくるので、

「どうしたのって・・・雪、今日は何日?」

「え?何日って・・・あら、やだ・・・すっかり忘れていたわ。

いやだわ、自分の誕生日忘れるなんて・・・」

「それだけ忙しかったんだろう・・・このところ・・・

プレゼントなんだけど・・先に誤っておくね。

何も用意できなかったけど、はい、誕生日おめでとう・・・」

雪の目の前に花篭を置いた。

「わぁ・・・かわいい・・・ありがとう、進さん。

でも、また、悠子さんに無理を言ったんじゃないの?」

「何でわかった?」

「うふふふ・・これよ」

小さなカードを手にしながら、

「お誕生日おめでとうございますってメッセージがついていたわよ」

「あははは・・・ばれたか・・・ 

そんなことよりケーキ食べるんだろう・・・

今紅茶入れてくるから・・・」

「ありがとう・・・先にケーキ頂いているわね」

「俺の分一つ残しておいてくれよ」


(ILLUSTRATION: ひとみさん)



「美味しかった・・・」

「これ以外全部食っちまったのか・・・」

小さな皿の上にのっているチーズケーキ以外、

雪の腹の中に納まったらしい・・・

「だって・・・ここのケーキ小さめに出来ているでしょう・・・

後ひとつぐらいなら入りそうなんだけど・・・」

「わかったよ・・・これも食べたいんだろう・・・

いくら小さなケーキだからって・・・・それで4つめだぞ・・・

体系変わっても知らないからな・・・」

「それは大丈夫よ。

トレーニングを見てくださる方が厳しい方ですからねぇ・・・」

「そういうことかな・・・」

「でもね、進さん。一人で過ごす夜ってとっても寂しいのよ・・・」

そういって寄り添ってくる。

「俺だって寂しかったさ・・・

だから2週間分の寂しさを埋め合わせてあげるよ・・・」

雪の顔を両手ではさみそっと口付けをする・・・

「雪?明日は休み取れた?」

「一日だけね。明日お買い物に連れて行ってほしいわ・・・

だって進さん、プレゼント用意して出かけなかったんでしょう・・・」

突然何を言い出すかわからない雪に

「買い物ねぇ・・・ じゃぁ、先にご褒美頂いておこう・・・

あした疲れきっていたら美味しくいただけそうもないから・・・」

そういってもう一度キスをして雪を抱き上げる。

「ちょ、ちょっと・・・進さんってば・・・」

「ん?雪はいや?」

「そんなことないけど・・・」

そっと雪をベッドへ下ろし着ているバスローブの紐を解く・・・

薄闇の中に白く浮き上がる雪の姿をゆっくりと愛撫していく・・・

時間の過ぎるのも忘れ、2週間分の愛を注ぎ込むように・・・

END・・・