Countdown
Chapter 5 −後5日ー
久しぶりに艦の外に出る。訓練生も各自割り当てられた部屋へと向かっているのだろう。
島との約束に時間まで少し余裕があったので、自室から星間通信で家に連絡を入れてみる。
ちょうどお昼寝をしているころかもしれないが・・・
数コール呼び出し音が鳴った。いないのかと思い通信をきろうとしたとき
『はい・・・』
音声のみの対応。
「ユキ?僕だけど・・・・」
『あ、進さん、ちょっと待っていてね。今画面開くから』
画面にユキの顔が映る。
『進さん、今日はお休みなの?』
「ああ、これから島と待ち合わせをしてちょっと飲みにいってこようかと思ってね。ユキは何していたんだ?」
『今日はね、午前中真樹さんのところに遊びに行っていたの。
真樹さんも後半年でしょう?美希たちで予行練習したいのですって。
あの子達もいっぱい遊んでもらって楽しそうだったわ』
画面の向こうでユキが微笑む。
「帰ったらますますお転婆になっていたなんてことはないだろうなぁ・・・」
『さあ、どうかしら?』
「おいおい…でも、元気でいるのなら安心したよ。そろそろ島と待ち合わせの時間になるから・・・」
そういって通信をきろうとしたとき
『あ、あのね・・・』
言いにくそうにしているユキに
「ん?なに?何か心配事?」
『ち、違うの、あのね、何か危険のことをしているわけではないわよね?』
「危険な事って、馬鹿だなぁ、訓練航海なんだぞ。危険な事するわけないだろう?」
『そうよね。訓練ですもの。でもね、無理はしないでね』
「ああ、わかっているよ。じゃぁ、時間になるから切るよ」
『楽しんできてね』
にこやかに微笑むユキの顔が画面から消える。
待ち合わせをした居酒屋の前でばったり島と会う。
「さすが、時間厳守だな。」
「そっちこそ」
たわいのない会話をしながらあいているカウンターの席へつく。
「ユキとは連絡取れたのか?」
「ああ、今日は真樹さんのところへ行ってきたといっていたが・・・」
「真樹も少し興奮気味に報告してくれたよ。早く生まれてこないかしらって・・・」
「あはは・・・真樹さんに一日中世話するようになったら大変だってこと言っておいてくれよ。島も、覚悟しておくんだな」
「何を?」
「帰ってきてからしばらくの間、寝不足になる事を」
「はん、そんな事、覚悟は出来ているよ」
グラスにビールを注ぎ
「航海の安全を」
「ああ、無事終了する事を」
カチリとグラスを合わせ、一気にもみ干す。
「ふー、久しぶりだなぁ・・・島、お前とこうやって飲むのは・・・」
「ああ、中々飲む機会がなかったものなぁ・・・
これからしばらく俺も地上勤務になりそうだから、またみんなでワイワイ飲もう」
「ちゃんと、奥さんの許可をもらってからな、お互いに」
「そうだな、許可もらってないとあとで怖いかなら・・・」
パン、と背中をたたかれる。
「ってぇ・・・お互いさまだろう、島」
「まあな、地球に戻ったら連絡してみるか・・・」
「相原に連絡とればみんな集めてくれるぞ」
「それも怖いが・・・」
あははと、二人で笑ってしまった。
楽しい時間はすぐすぎていってしまうようで、
「明日も訓練があるから、そろそろ部屋へ戻るか?」
島が時計を見て言うので
「そうだな、俺たちが体調崩していては面目立たないもの」
二人そろって席を立ち、自室へ戻る途中、足元に伝わる違和感で二人とも足を止める。
「おい、古代・・・」
「気がついたか島・・・」
「何か起こったのかな、詳しい事は基地の司令部へ行ってからだな」
「ああ」
二人して司令部めがけ駆け出す。
まだ気がついている人はほとんどいないようで、いきなり走り出した僕らを怪訝な目で見ているようだ。
あと少しで司令部へつくと思ったとき、大きく揺れる地面と、爆発音。
島と二人で、火星基地の司令部へ足を踏み入れたとき、スクリーンには大きな炎と煙に包まれた建物が見えた。
僕たちに気がついた高梨司令が、
「古代、島。救助活動の指揮を執ってくれ。あの建物は訓練生たちの宿泊施設になっている。
君たちが連れてきた訓練生もあそこにいるはずだ」
「わかりました。古代、島の両名、救助活動に入らせていただきます」
「これか詳しい施設の見取り図と、今現在確認されている訓練生の名簿。
こちらが、まだ確認取れていないものたちの名簿」
書類を手にして
「爆発ですね。7階建て建物の上5階以上が延焼中・・・
訓練生たちで不明なのが・・・」
「どうした、古代」
書類を覗き込んでいる島にわたす。
「何だ、俺たちの訓練生が残っているのか・・・」
「ああ、それにあいつらも入っている・・・
これは、事故か、意図的なものかわからないが・・・」
「兎に角、準備をして出かけよう」
「では、高梨司令、救助活動に出かけてきます」
敬礼をして司令部を後にする。
現場に向かう途中島が、
「古代、これは意図的なことではないのか?」
「可能性はある。小さな爆発を起こすつもりが、大きくなってしまったという事は・・・」
お互いうなずき現場へ急行する。この後、大変な目にあうことなど知りもせずに・・・
爆発炎上した建物の前に島とたどり着き、消火活動をしていた隊員に
「現在確認された人数は?」
「はい、宿泊予定の訓練生200名中180人までは確認できました。
先ほど10数名の訓練生が自力で出てきましたが、名前の確認はまだ…」
「わかりました。向こうで確認してきます」
島と二人で先ほど出てきたという訓練生を確認しに行く。
僕らの姿を見た訓練生の一人が立ち上がったところへ島と駆け寄る。
「塚本、訓練艦青龍に乗っていた訓練生の確認は?」
「はい、青龍の訓練生、50名中47名は確認しました。
そのうち軽い火傷やスリ傷15名、先ほど司令部の医務室のほうへ行きました」
「で、確認の取れない3名の名は?」
島の質問に
「はい・・・航海部員の清水、戦闘部員の山根、機関部員の長谷の3名です」
塚本が言い終わると同時に小さくしたうちをした。
「それで、最後に三人を見たのは?」
「はい、同じ航海部員の三島が部屋の中で何か作っていたのを見たそうです」
「詳しく聞きたい、三島を呼んでくれないか?」
「はい」
返事をして、三島のところへ駆けていく塚本の背中を見ながら島に
「やっぱりあいつ等だったか・・・まったく、何を反抗しているんだか・・・」
と、ぼやくと
「言いたい事があれば言いに来ればいいのにと思っているだろう?
仕方ないじゃないか、あいつ等の親が元ヤマトのクルーを敵対視しているんだから・・・
ほら、三島がきたぞ、詳しく聞くんだろ?」
「ああ」
「古代教官、島教官、航海部員の三島をつれてきました」
「三島です」
緊張しながら敬礼をした二人に答礼を返し
「三島、清水、山根、長谷の三人は何を作っていたかわかるか?」
聞かれた三島は、困った様な顔をした。
「三島、詳しく話してくれ。三人は何をしていたんだ?」
古代が三島に問いただすと
「はっきり見たわけではないので何を作っていたのかわかりません。
僕が見たとき清水が小さなドリンクビンに何かを入れていました。
その後で山根が口のところに何かを詰めていました。もしかすると小さな次元発火装置だったのかもしれません。
長谷はそういった物を作っては校庭の隅で実験していましたから・・・」
「どんな実験をしていたんだ?」
島の問いに
「敵が攻めてきたときに役に立つかもといいながら時限発火装置や、小さな火炎瓶を作っていました。
時限装置も小さなもので50センチほど校庭に穴が開きました。
あわてて埋め戻したので教官に怒られるとこはなかったようですが・・・・」
「材料を集めてココで作っていたんだな。古代どうする?」
「どうするって・・・火の勢いもだいぶ落ち着いてきたようだし、裏から回ってみようと思う。
三島、塚本と一緒に被害状況を確認してくれ。島、行くぞ」
「おい、古代。準備してからだ。そのまま現場に入るわけには、行かないだろう?最低限の準備をしてからだよ」
あわてて走り始めた古代に声をかける。
「ああ、そうだな。向うに予備のヘルメットと耐熱服があるからそれに着がえていこう。
三島と塚本は建物内部の見取り図を呼びだしてくれ」
「はい、すぐ準備します」
「島、行こう・・・」
「そう落ち込むな。三人とも無事避難しているはずだ」
乗組員を救出するためにふたりは準備を始める。
捜索するための準備をしているときにも、時々小さな爆発音が聞こえてきていた。
「島、準備はいいか?」
「ああ、こっちはOKだ。三島、塚本、ルートの確認は出来ているか?」
「はい、出来ています。島教官」
と、塚本。
「古代教官、ルート確認できますか?」
「ああ、今モニターに切り替えてみるよ、三島」
ヘルメットの前面の小さなモニターを起動させながら
「ちょっと遠回りだな・・・もう一度最短距離のルートを探してくれ」
「はい・・・でも最短距離のルートだと危険な箇所が何箇所か出てきますが・・・」
「わかっている、三人の無事を確認するのが先だ」
「わかりました、今検索します」
古代に言われできるだけ危険な箇所がなく三人がいる場所へ最短距離でいけるルートが2箇所見つかった。
「古代教官、島教官、ルート二つあります・・・?」
モニターに移る軌跡を見ながら
「島、二手に分かれるぞ」
「了解、古代は右のルートへ、俺は左のルートから行く」
「おい、左へは俺が行く・・・」
と、言いかけた古代へ
「お前は走り始めたら周りが見えなくなる。だから右へ行け。冷静沈着な俺が左へ行ったほうがいいと思っていな」
そう言うと古代がとめるのも聞かずに走り始めた。
「おい、島。全くどっちが猪突猛進なんだか・・・・塚本は島のサポートを,三島は俺のサポートを頼む」
「「はい、了解しました」」
敬礼で応えたふたりへ頼むと手を上げ右のルートへ走り始めた。
大きな爆発音は聞こえなくなったが小さな火が所々でくすぶっているのを確認しながら三人の名前を呼ぶ。
「清水、山根、長谷、いたら返事をしろ」
古代の声と島の声が三人がいるフロアに響く。瓦礫の影を慎重に探しながら島と合流する。
「島、そっちにいたか?」
「いや、いなかった」
「ということはこの部屋の中か?」
少し曲がってしまっている部屋のドアをふたりで見つめていると、中からかすかに人の声が聞こえてきた。
「おい、清水、山根、長谷、この中にいるのか?」
ドアを叩きながら古代が声をかけると部屋の中から小さな声が聞こえてきた。
「き・・・きょう・・・かん、し・・みずが・・・」
「清水がどうしたんだ?」
「爆風に煽られて頭を打ったみたいです」
「清水以外は怪我をしていないのか?」
「はい、山根も僕もかすり傷程度です」
「清水がかばってくれたので・・・」
「今から、ドアを開けるからもうしばらくの辛抱だ。島、コンピューターは生きているか?」
「今連絡を取っているところだ。鍵の解除は出来たそうだ。後は人の力でどこまで動くかだな・・・」
「人一人、通れるぐらい空けばなんとかなる」
島とふたりで動かないドアをこじ開ける。
「山根、長谷、清水」
古代の問いかけに
「古代教官・・・清水の意識今戻りました」
ほっとした顔をした長谷が古代に向けて申告する。
「長谷、山根、ケガは?」
古代の後から入ってきた島が山根に尋ねると
「僕も長谷もかすり傷程度です。タダ、清水が・・・」
清水の方へ目を向けると
「だい・・・じょうぶ・・・です。歩けます・・・」
古代の手を振りほどきながら清水が言うと
「馬鹿野朗!今まで意識がなかったヤツが大丈夫だと?
何時までも詰まらない意地を張っているんじゃない。
島、担架は見つかったか?」
「ああ、何とか使えそうだ。清水、今無理をしてもしょうがないだろう?
俺たちを嫌うお前だから意地を張るのかもしれないが・・・」
古代に怒鳴られた清水に島が声をかける。
「無理をしてせっかく訓練でココまで来たのが全部パーになるぞ。
今は無事この建物から出ることが先決なんだから。山根、長谷、清水を担架に」
島に言われた二人はゆっくりとして動作で清水を担架に乗せる。
「島、先を頼む。俺は後ろから行く」
「わかった、行くぞ」
島の後を、清水を乗せた担架を長谷と山根が持ち部屋を出るその後を古代が続こうとした時、
崩れかけていた天井が落ちてドアをふさいでしまった。
ガラガラと天井から落ちてきた瓦礫をすんでのところで避けた古代の耳に島の叫び声か聞こえていた
「古代、古代、返事をしろ」
瓦礫の向こうから聞こえる声に
「島、大丈夫だ、怪我はしていないよ」
「おい、古代。本当に大丈夫なのか?」
「ああ、心配は要らない。だが、この場所から出るのは無理そうだ。瓦礫を上って上の階へ向かう。
島は三人を誘導、避難させてくれるか?」
「わかった。三人を避難させたら戻ってくるから無理をして動き回るなよ?」
「三島に脱出ルート探してもらうよ。できるだけ安全なルートで避難しているから後は頼んだぞ」
次の行動を起こすために、島との通信を切る
「三島、聞こえるか?」
『はい、聞こえます』
「島と、三人の訓練生は無事避難した。三人を塚本に安全なルートで脱出出来るようにサポートしてもらってくれ」
『了解しました。塚本、島教官のサポート頼む』
『了解、島教官のサポートに入ります』
塚本が次の行動にはいったのを見た三島が
『古代教官はまだ部屋の中ですか?』
「ああ、天井が落ちてきて閉じ込められた。この部屋から避難するのにはどのルートが安全か検索してくれるか?」
『わかりました、しばらくお待ちください。』
『古代教官、ルート見つかりました。途中、崩れやすくなっているところがあると思いますが』
「わかった、ルートを転送してくれ」
三島から転送されたルートは上の階へ上がり、反対側の非常階段で脱出するルートだった。
途中、何箇所か、もろくなっているところはあるが、一番安全なルートになっているようだった。
「三島、サポート頼む、こちらの情報も逐一伝えていく」
『了解です。教官、気を付けてください』
「わかった、兎に角上の階へあがるぞ」
瓦礫を足場に上の階へ上がる。火の勢いはなくなっているが、まだ煙が充満していて視界が利かない
「三島、7階へ上がった、充満している煙で、視界が利かない、誘導してくれ」
『教官、そのまま右へ進んでください』
「右?遠回りにならないか?」
『左からの方が近いですが、途中床が崩れているところがあります』
「わかった、右だな」
足元の非常灯を確認しながら進んでいくと非常口のランプが見えてきたが、非常口までたどり着くことはできなかった。
「三島、非常口の手前2mほど、崩れている、他のルートは?」
『待ってください、近くに階段があると思います、足元気をつけて降りてみてください』
「非常灯を頼りに4階まで下りてみる」
『あわてないでくださいね、島教官がこちらに着きましたらまた連絡します』
足元を確認しながら下りていたはずなのに、もろくなっているところへ、足を乗せてしまった。
バランスを崩し、そのまま下まで、瓦礫に足を取られ、着地することが出来なかった。
崩れる音が聞こえたのか、イヤホンから
『教官、大丈夫ですか?』
と、三島の声が聞こえてきた。
「大丈夫だ、三島。島たちは確認できたか?」
平静を装って聞いてみたが、
『はい、島教官たちは無事避難出来ました。』
「なんとか4階まで下りてきたんだが・・・」
『本当ですか?島教官がいらしたので、変わります』
『おい、古代、大丈夫なのか?』
「ああ、足踏み外したけど、無事4階に着いた。瓦礫でバランスを崩した時にちょっとひねってようだ」
『今から、助けに行く、そこを動くなよ』
「動きたくても動けないよ、回収よろしく」
『しゃべるな、説教は後でみっちりしてやる』
一方的に通信を切ってしまった。足以外負傷していることがばれていたようだ
「ユキにメール出せるかなぁ・・・」
ぽつりとつぶやいたとき、下から声が聞こえてきた・
「俺が、代わりに出してやる、だから、いまはおとなしく、回収させろ」