079 やきもち




昼休み無償にユキに会いたくて秘書室を覗いてみる。

忙しいユキもちょうど休憩時間に入っていることを教えてもらった。

行き先は最上階のカフェテリアだという・・・

エレベーターに乗り最上階へ向かう。

カフェテリアの入り口から中を見回すと、窓際に座っているユキの姿があった。

声をかけようとしたとき、見知らぬ男性と楽しそうに話している。

声をかけるタイミングをはずしてしまった僕は、そのままカフェテリアを後にした。





午後からの仕事は散々だった・・・

ちょっとしたことでミスをしてしまい、一緒に仕事をしている真田さんや相原にまで迷惑をかけてしまった。

そんな僕を心配して

「古代、何かあったのか?」

と、真田さんにきかれても

「いえ・・・別に・・・」

としか答えられない。

自分の心の中のもやもやしたものが何なのかはっきりしているから・・・

「古代さん、疲れているなら今日はもう上がりませんか?」

相原の提案に、真田さんまで・・・

「そうだ、調子の悪いときはなにをやってもうまくいかないものだ。

今日はこの辺で終わりにしてゆっくり休め」

「でも・・・」

「いいから、うまくいかないときはさっさと諦めて明日もう一度やってみると出来るものだ。

今日はここで終わりにしよう・・・」

「真田さんがそういうのなら・・・すみません、僕のせいで・・・」

ポツリとつぶやいた僕に、

「いいから・・・その代わり明日は扱き使うからな。ゆっくり休めよ」

真田さんの言葉に送られて部屋を出て行く・・・





もやもやした気分のまま官舎へ戻り、ソファーに腰を下ろしてじっと考える。

ユキと楽しそうに話していたやつの後姿を思い出すだけで何故かイライラしてくる。

休憩時間に誰となにをしていようと僕の知ったことではない・・・

わかっているんだけど・・・

電気もつけずに考え込んでいたらしい・・・

ユキが部屋に入ってきたことさえ気がつかず・・・

「古代くん?いるの」

リビングの電気をつけ僕のそばへ寄ってくる。

「古代くん、今日はお仕事速く終わったのね。

真田さんから連絡来たから私も定時で上がっちゃった・・・」

ぺロット舌を出しておどけて見せる。

こんなユキをいつもなら抱きしめてしまうのに、今日の僕は・・・

「ねぇ、どうしたの?何かあったの?」

僕の隣に座りなにがあったのかと聞いてくる。

それでも何も言わない僕に

「どうしちゃったの?古代くん・・・」

心配そうに覗き込むユキの両腕をつかみ

「誰だよ・・・」

小さな声でそれだけを言う。

「え?誰って・・・?」

「だから・・・今日の昼休み誰と話していたんだよ・・・」

「昼休み?古代くんカフェテリアに来たの?だったら声をかけてくれればいいのに・・・」

「そんなことはどうでもいい!!誰何だあいつは!」

僕の大きな声と、腕をつかむ手に力が入る。

「古代くん・・痛い・・・」

身をよじって逃げようとするユキを

「なぜ逃げる。僕の質問に答えてないじゃないか!」

ユキにあたるなんてお門違いなのはわかっている・・・

それでも僕のイライラは増すばかり・・・

「逃げやしないわ。お昼休みに会っていたひとは高校時代の友達」

「高校時代って、ユキ女子高だろう?それなのになんで男と話しているんだよ」

「もう、最後までよくいいて。確かの私の前には男性が座っていたわよ。

でもね、その隣に女性もいたでしょう?」

「そんなこと聞かれたって・・・」

「ふぅ・・・古代くんちゃんと確かめないで早とちりしたんだ・・・

あのね、麻紀とは高校のとき3年間同じクラスだったの。

お互い恋人が出来たとき、もしくは結婚が決まったとき報告しあうことになっていたの。

私は古代くんのことちゃんと話してあったのよ。

彼女とはイスカンダルから帰ってきてすぐ会ったきりなの。

彼女も結婚が決まったからって未来のだんな様を私に紹介してくれたのよ。

私も古代くんに会わせてくれって言われたんだけど、古代くん忙しそうだったから麻紀の結婚式のときに紹介するって話していたのよ。

もしかして古代くん、やきもち焼いたの?」

「・・・・・・」

図星を疲れて黙っていると

「うふふ・・・古代くんでもやきもちやいてくれるんだ・・・」

面白そうに笑っているユキに

「僕だって男だからね。ユキが見知らぬ男性(ひと)と話しているのを見るのは・・・」

「だったらちゃんと声をかければよかったでしょう?それとも私のこと信用していない?」

「そ・そんなことはない・・・僕にはユキ一人しかいない・・・」

目の前にいるユキを力任せに抱きしめてしまった。

「ン・・・こ・・だい・・くん・・・くる・・し・・」

ユキの小さなうめき声にあわてて力を緩め

「ご・ごめん・・・もう、こんな思いしたくないからな・・・」

「え?何か言いました?」

「まったく・・・」

ふぅ・・・と小さなため息をつき

「いいえ、な〜んにも言っていません。それより腹減っているんだけど・・・

何か作ってくれないかな?ねぇ。ユキちゃん・・・」

「もう!調子がいいんだから・・・その代わり、古代くんも着替えてお手伝いしてね」

ニッコリ笑ったその笑顔に勝てる僕ではない。

「あ、忘れ物・・・」

立ち上がろうとしたユキをもう一度座らせて、

「お帰り、ユキ・・・」

顎をそっと持ち上げて軽くキスをひとつ・・・

「ただいま・・・」

といったユキからもひとつキスをもらい今日の出来事をすっかり洗い流そうとしたとき

「あ、そうだ、古代くん。真田さんから伝言。顔にすぐでないように訓練して置くように、ですって。

何かしたの古代君?」

やきもちやいているのを、思いっきり顔に出てしまっていたみたいだ・・・

明日どんな顔をしていけばいいのだろう・・・



                                                 END


200/9/22

さとみ

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