063 クッキー



「ママ、ママ、クッキー作りたいの」

「材料ある?」

玄関を入るなり大きな声を出してキッチンへ入ってくる。

「美希、美優。ただいまは?」

あわてて

「ただいま。ママ」

「おばあちゃまから簡単に出来るクッキーの作り方教えてもらったの」

「パパとおじいちゃまに作ってあげたいの。

クッキー作る材料ある?」

「簡単に出来るクッキーって・・・ママがはじめて作ったクッキーね。

材料ならあるわよ。小麦粉、バター、卵にお砂糖、後は・・・

あった・・・アーモンドとクルミ、でしょ?」

「ほんとだぁ・・・おばあちゃまのいったとおり・・・」

「あなたたち二人で作るの?」

「そう、おばあちゃまのところで今作ってきたの」

「忘れないうちにもう一度作りたいの」

小学生になるとこんなことにも興味を持つのね。

私は・・・な〜んにも作らなかったなぁ・・・

「それじゃぁ、オーブンの使い方も教えてもらったの?」

「うん、火傷しないように気をつけて作りなさいって・・・」

「そう・・・後はふたりで出来るのかしら?」

「ママ、心配しないで、私たちおばあちゃまの自慢の生徒ですって」

「クッキーの作り方教えてもらっているときにね。

『ママとは違うわねぇ〜』って言っていたけど?」

「そんなこと気にしないで早く作らないとパパが帰ってきちゃうわよ」

ママったら・・・一言多いのよねぇ・・・

初めて作ったクッキーねぇ・・・

今思い出すととっても恥ずかしい・・・





今日はデートの日・・・

古代くんが迎えに来てくれるまでにクッキーを作ろうと朝からがんばっているのだけど・・・

材料を揃えて、秤で量って・・・

混ぜて焼くだけなんだけど・・・

混ぜるところまではうまく言ったの・・・

だけどその後が問題・・・

方抜きクッキーが簡単だと聞いていたからハート型と星型のクッキーを作ろうと伸ばした生地を型で抜く。

きれいに抜けた生地を鉄板に並べオーブンにいれ焼きあがったのが・・・

「ユキ?なんか焦げ臭くない」

ママに言われオーブンを見ると・・・

煙が出ている。

「きゃー、いやだ何でぇ・・・」

あわててオーブンのふたをける。

モクモクした煙の中から出てきたのが、

「真っ黒・・・」

「あらあら・・・ユキ何分焼いたの?」

「え?本に書いてある通り170度で15〜20分って書いてあってから20分焼くつもりでセットしたわよ」

オーブンを見ていたママが、

「あなた・・・200度の設定になっているわよ・・・」

「ええっ!!う・・そ・・・」

「ほんとよ、ほらここ見てみなさいよ・・・

ユキ、あなたタイマーと温度調節間違えたのね。

200度で20分近く焼いたのなら真っ黒になってしまうわよ・・・」

「ママ・・・どうしよう・・・」

「どうしようっていってもねぇ・・・

まだ生地残っているのならもう一度焼直せばいいでしょう・・・」

「それが・・・方を抜くのにはやわらかいの・・・」

「型抜きばかりがクッキーではないのよ。

ほら、これをこうやって丸めてつぶして真ん中にクルミかアーモンド乗せて焼けばいいでしょう。

ほら、ボーっとしてないでユキも作って御覧なさい」

言われたとおり生地を丸め少しつぶして真ん中にアーモンドをのせる。

「最初からこうやって作ればよかったかしら?」

「あら?どうして」

「だってうまく型から外れなくて何回も抜きなおしたんですもの・・・」

「だから生地がやわらかくなってしまったのね・・・

ユキらしいこと・・・

早くしないと古代さん迎えに来ちゃうわよ。

クッキーの生地もこれしかないのだから今度は失敗しないようにね」

「はいはい・・・

オーブンの温度よし、クッキーの生地を入れて15分、タイマーよし・・・

後は焼きあがったのを入れる入れ物は・・・

ママ、何か小さな箱ないかしら?」

「はい、これを使いなさい」

奥から可愛い箱を持ってきてくれた。

「わぁ、可愛い・・・ママ、こんな箱持っていたの?」

「ユキがお年頃になって手作りのお菓子を作ってくれるのをとっても楽しみにしている人が買っておいたのよ」

「え?それって・・・パパなの?」

「そう・・・だからパパにも少し上げてね?」

「はい・・半分パパにおいていくわ。

今度はうまく焼きあがるといいのだけど・・・」

オーブンの中のクッキーを見つめる・・・

「今度は大丈夫よ。ほら、焼きあがるまでに支度してきちゃいなさい。

古代さんもうすぐ迎えに来るころでしょう・・・

焼きあがったら出しておいてあげるから・・」

「ママ、お願い・・・」





あわてて着替えに言ったのを覚えているわ・・・

そんなことを懐かしく思い出しているとどこからか彼の声が・・・

「ユキ・・ユキ・・何を思い出し笑いなんかしているんだ?

それに、キッチンにいるふたり大丈夫なのか?」

心配そうにキッチンを見ている彼に

「大丈夫よ。私より上手に作るかもよ・・・

ママが喜んで二人に教えていたから・・・」

「森のお義母さんが先生なら安心だな」

「それ、どういう意味かしらす・す・む・さぁ〜ん」

「いや、別に深い意味はないと・・・

そういえば、ユキがはじめて作ったクッキー、もう一度作ってもらいたいなぁ・・・

もちろんユキ一人で・・・ね」

「んもう!!少しぐらい焦げていたっていいでしょう・・

パパはおいしいって食べてくれたわよ」

「もちろん僕もおいしいって言ったよ。

ユキが一生懸命作ってくれたものだからね。

それで、あの子達は誰にあげるために作っているのか知っているの?」

「ええ、勿論。大好きなパパとおじいちゃまにですって」

それを聞いたとたん嬉しそうに笑うのね。

「焼きあがったらお茶にしましょう・・・

勿論進さんがおいしい紅茶入れてくれるのよね?」

「子供たちが作ったクッキーと僕が入れた紅茶、一番得するのは・・・」

「はい、私です」

だって久しぶりで家族みんなそろったのですもの。

楽しいお茶の時間になりそうね。






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