062 チョコレート
甘い香りに誘われてリビングへはいって行く。
ドアを開け賑やかなキッチンを横目にソファーに腰を下ろす。
キッチンから聞こえてくる声がとっても楽しそうなので声をかけてみる。
「ユキ?なにやっているんだぁ?」
ソファーから立ち上がろうとした時
キッチンにいる娘たちから
「パパは入ってきちゃダメ」
「ママ、パパのお相手してあげて」
「何でパパはダメなんだ?美希、美優?」
「何ででも・・・
ママ、これもって早く行って」
「はい、はい・・・」
トレイを持ったユキが出てくる
「はい、パパ。
コレ美希が入れたのよ」
カップをテーブルに置きながら言う・・・
「へぇ・・・久しぶりだな、美希に入れてもらったのは・・・
最初のころは苦かったり、色がついていただけだったりしたのに・・・
で、あの二人は何をやっているんだ?」
「もうすぐバレンタインディでしょう?
あの子達もお年頃になるから・・・」
「ん?ということはチョコレー作りか・・・
大丈夫なのかふたりだけで・・・」
「大丈夫よ。
火は使わないし、昨日ママのところで練習してきたから・・
それに、ふたりとも意中の人がいるみたいよ、どうするパパ♪」
「意中の人って・・・
この間10歳になったばかりだぞ・・・」
「うふふふ・・・
大丈夫よ、あなたが心配することないわよ。
いつも一緒に遊んでいる、ヨシくんとヒロくんに上げるんですって・・・」
「ヨシとヒロだってぇ・・・
あのふたり美希たちより年下だろうに・・・」
「そんなこといったって、パパたちが忙しい人ばかりだから・・・」
「だから?何なんだよ・・・」
「うふふ、たまにね、お食事に出かけるのよ。
テーブルに着くときもね、美希と美優一緒に座りたがるのよ。
だから子供たちは子供たちだけのテーブルを作ってもらって
私たちもゆっくりお食事ができるってわけ・・・」
「ふ〜ん・・・あいつらも知っているのか?」
「一緒に食事に出かけているのは知っているわよ」
「お互い文句を言える立場じゃないものなぁ・・・
仲のいい遊び友達って言うことにしておいてくれよ・・・」
小さくため息をひとつ・・・
「もう、何を今から心配しているのよ。
美希も美優も今はいいお友達として好きなんだから・・・」
「なんだか複雑だ・・・
キッチンがだいぶ賑やかみたいだけど大丈夫か?」
「大丈夫、私と違って料理の腕はあなた譲りみたいですから・・
ママも教え甲斐があるって行っていろいろな料理教え始めているのよ。
未来のだんな様が苦労しないようにですって・・・」
ぷぅと、頬を膨らませる・・・
「あはは・・・。お義母さんもユキで凝りたんだよ。
まさかあそこまでできないとは思っていなかったんだろう?」
「だって・・・
勉強が忙しかったんですもの・・・
そのうち、私が作って失敗するともったいないなんていって・・・」
「しょうがないよ。
ユキが一生懸命勉強しているのをお義母さんも見ていたんだから・・・
だからユキに無理には教えなかったんだろう・・・」
隣に座ってちょっと膨れているユキを抱き寄せる。
「そうなのよね・・・
イスカンダルから帰ってきてからあわてていろんなことを教えてくれてけど・・・」
「忙しくて思うようにできなかったんだろ?」
「うん・・・
でも、あなたと結婚するって決めてから時間を見つけてはママに教わっていたのよ。
それなのに・・・
中々結婚式挙げてくれなかったし・・・」
「またそれをいう・・・
はい、全部僕が悪いんですよね、奥様」
「わかっているのならいいのですけど・・・」
まだなにか、いいたそうなユキの唇に軽く口づける。
そのとき、
「もう、パパもママもさっきから呼んでいるのに・・・」
「美優、どうかしたの?」
「うん、ちょっとママに見てもらおうと思ったの・・・」
「失敗しちゃったの?」
「なんだかザラザラするの・・・美優のだけ・・・」
最後のほうは小さな声になっている・・・
「美希は大丈夫なのか?」
キッチンにいる美希に声をかけてみる。
「私のは、大丈夫なんだけど・・
美優も同じように作ったのよ。
昨日、おばあちゃまのところで作ったときはうまくいったのに・・・」
「美優、ちょっと見せてごらん・・・」
ソファーから立ち上がりしょんぼりしている美優のそばへ行ってみる。
「端のほうを少しもらうよ」
しょんぼりしている美優の手の中のチョコを口に入れてみる。
「ちょっとざらつきがあるなぁ・・・
チョコがあまっているのならもう一度始から作り直してごらん。
今度はきっと上手にできるよ」
「うん、わかった・・
美希、手伝ってくれる?」
「いいよ。
チョコ刻んでいるから、美優はボール用意して」
ふたり仲良くキッチンで作業を始めたようだ。
「同じように作ったのに何で違っちゃったのかしら?」
不思議そうに聞いてくるユキに
「美優は、チョコを溶かす温度に問題があったんじゃないかな?
確かあまり高い温度で溶かすといけないって聞いたことがある・・・」
「あら?誰に聞いたのかしら、す・す・む・さん!」
「え?昔母さんに聞いたんだよ。
母さん、おやつは手作りに限るっていう人だったから・・・
あ、もしかして、焼きもちかい?ユキ」
「うん、もう!!
そんなんじゃありません。
進さんのお義母さんも、お料理上手だったのね」
「ああ、ユキのお義母さんといい勝負だよ。
クリスマスや誕生日には手作りのケーキが出てきたし、
バレンタインのときなんか楽しそうにチョコレート溶かして作っていたよ。
もちろんメインは父さんだったけどね」
「うふふ・・・仲のよい方たちだったのね」
「だから仲良く逝ってしまったんだけど・・・」
ちょっと寂しそうな声を出してしまった・・・
「あ、ごめんなさい・・・」
「いいよ、気にしてないって・・・」
「でも・・・」
まだ何かいいたそうなユキをそっと引き寄せ、
「今はユキもいるし、可愛い天使たちがそばにいるから・・・」
そういって軽くくちづけをする。
肩を抱きソファーへ向かおうとしたとき、キッチンから大きな声が聞こえてきた。
「出来た、パパ、ママ、今度はきれいに出来た!」
キッチンから出てきた美優の顔にはチョコレートがついていた。
「ねぇ、見て見て・・・
今度はきれいに出来たの。
さっきは早く溶かそうとして失敗しちゃったから、
今度はゆっくり少しずつ溶かしてみたの。
そしたらほらこんなにきれいに出来たのよ」
まだ型に入ったままのチョコレートを見せてくれた。
「今度は上手に出来たみたいだな。
早く冷蔵庫に入れなさい。
そのチョコレートは、パパにくれるのかな?美優?」
「う〜〜んと、パパのはコレじゃないの。
美希と作ったのがあるからバレンタインの日まで楽しみにしていてね」
「パパのは別にあるんだ。
今作ったのは誰にあげるんだ?」
「ええっと・・・ヨシくんでしょ、ヒロくんでしょ、ヤッくん。
それから、ヨシくんのパパとヒロくんのパパ。
ヤッくんのパパは今はいないからあとでヤッくんの、ママに渡してもらうの・・・」
「何だ・・結局あいつらにも渡るのか・・・」
「まぁ・・・パパったら、やきもち焼いているの?
美希も美優もパパの分は違うのを作っているのだからいいじゃないの・・・
パパがいないとき一緒に遊んでくれるお友達のパパたちへの感謝の気持ちなのよ」
「そんなこと、わかっているけど・・・」
「ヨシくんたちのパパのは小さなチョコレートなのよ。
パパのは、美希と二人で作ったんだから・・・」
「そう、パパのは特別なの。
美優と一緒に考えてパパが一番喜ぶ形にしたのよ」
娘ふたりからそういわれると・・・
「パパの好きな形ねぇ・・・
明日のバレンタイン、楽しみにしているよ。
ヨシや、ヒロのところには、明日もって行くのか?」
「明日、児童館で会う約束しているの」
と、美優。
「それでね、パパ。
帰る時お迎えに来てくれる?」
と、美希。
「かまわないが、どうしてだ?」
「それは内緒、ね、美優」
「そ、内緒なの。美希、キッチン片付けてこないと」
「ママとの約束だものね、キッチンのお片づけ」
パタパタとキッチンへ走っていく。
「明日、何があるんだ?」
「さぁ、何かしら・・・うふふふ・・・」
意味ありげに微笑み、キッチンへ消えていく。
「ま、明日になれば、わかることか・・・」
一人つぶやきリビングを後にした。
バレンタイン当日の午前中、
リビングから賑やかな声が聞こえる。
「なに楽しそうにしているんだ?」
「あ、パパ。今ね、チョコをラッピングしているの」
「星型のチョコにハート型のチョコ・・・
ハート型のチョコってのはなぁ・・・」
「仕方ないでしょう・・・
流し込む型がそういうものばかりなのだから・・・
それより、美希も美優も準備は出来たの?」
二人の娘にユキが尋ねると、
「うん、後は袋に入れてリボンをつけるだけ」
「星型が美優が作ったんだよな。
で、ハート型のチョコが美希・・・・」
ひとつずつつかんでみていると、
「パパのはコレじゃないの」
と、美希に取り上げられてしまった。
「じゃぁ、パパのはどこにあるんだ?」
「うふふ・・パパのはね、ママに預けてあるの。ね、美希」
「そう、後でママからもらって」
「え?今くれるんじゃないのか・・・」
「あとで!!」
「はい、はい・・・
二人そろって大きな声出さなくてもいいだろう・・・
それより、お迎えは何時に行けばいいんだ?」
「ええとねぇ・・・
約束の時間が早くなったの。
ヨシくんもヒロくんもお出かけしないといけないんですって・・・」
「それで11時に児童館の前で合うことになったの。
だからパパ、送っていって駐車場で待っていてくれる?」
美希と美優からの頼みごとを断れるわけはない・・・
「いいけど・・・ママはどうするんだ?」
「ママはね、お買い物をしにいくのよね」
「そう、今日のお夕飯、パパの大好物ばかり作る予定なんですって」
「美希たちの予定はそれでいいけど・・・」
「けど?」
「もう一人いるだろう・・・腕白坊主が・・」
「あら?言ってなかったかしら?
優は朝早くおじいちゃまとお出かけするって、もう出かけたわ・・」
「聞いていない・・・」
「あら、ごめんなさい。言い忘れていたのかしら?
だから美希と美優のことお願いね。
この子達の予定は聞いているから、パパは言われて通り車を運転していって頂戴」
と、行って子供部屋のほうへ行ってしまった。
なんだかわけがわからないが、
「まずは児童館へ連れて行けばいいんだな?
11時にということはそろそろ出かけたほうがいいぞ。
渡すものはしっかり持ったんだな?」
「ここに入れてあるから大丈夫」
美希が手提げの袋を持ち上げる。
「それじゃぁ、コートを着て出かける準備をしておいで。
パパも準備してくるよ・・・」
書斎から車のキーをもって、自分のコートを取りに行く。
子供部屋から出てきたユキの荷物を見て、
「何だ?その荷物」
「え?美希と美優と渉のお泊りセットよ」
「お泊りセットって?」
ユキに尋ねると、
「児童館からママのところへ連れて行ってもらいたいの。
ママにはもう連絡ついているから・・・」
「コレも美希と美優が言い出したことなのか?」
ユキが持っていたかばんを受け取り玄関へ向かった僕に
「進さん、コートは?」
「あ、忘れた、ユキ持ってきてくれるかな?
ついでに子供たちも準備出来ていたら下までつれてきてくれるか?」
「うふふ・・・わかりました。下で待っていて・・・」
エンジンをスタートさせ、駐車場の入り口へ車を回す。
色違いのコートを羽織、手にはおそろいの手提げカバンを持った子供たちとユキの姿。
「寒いから早く乗って・・・」
それぞれが自分の席へつく。
窓を開け、
「ママ、行ってきます」
「明日の夕方お迎えに来てね」
「ええ、パパとお迎えにいくわ。
おばあちゃまたちのいうことちゃんと聞くのよ」
「大丈夫、今日のお夕飯も一緒に作りましょうって約束してきたの」
「じゃあ、行ってきます」
「パパ、気をつけて行ってきてね」
「まずは児童館だな、ママ行ってくるよ」
静かに車を走らせる。
10分後児童館の駐車場に車を止めると、
見慣れた車が2台止まっていた。
「美希、美優、ついたよ。
ヨシとヒロは着いているみたいだよ。
ほら、あそこにヒロたちのパパの車が止まっている・・・」
「あ、ほんと」
「まだ時間前なのに・・・」
「あはは・・・仕方ないよ。
パパの友達は、早めに行動する癖がついているから・・・
それに、女の子を待たせてはいけないって思っているからね。
早く行って渡しておやり。
中で待ちくたびれているかもしれないよ」
後ろを向いて二人に言うと、
「じゃぁ、パパ行ってくるね」
「ちょっと待っていてね」
二人仲良く児童館のほうへかけていく。
その姿を見つめているたら、窓を叩く音がする。
「よう、古代、ずいぶんゆっくりだったじゃないか」
にやりと笑いながら話しかけてくるあいつ。
「まだ時間前だ」
ぶすっとむくれてしまった・・・
「そんなところに立ってないで入ったらどうだ」
サイドシートのほうは指をさす。
「そういってくれると助かる。
あっちの車は仲良くご夫婦で乗って折るから遠慮していたんだ。
お前こそ珍しいな、ユキが一緒じゃないなんて・・・」
「ああ、ユキは今夜のご馳走の仕度だそうだ」
「ふ〜ん、で、お前はこれからどうするんだ?」
「ふたりをユキの実家へ送っていくよ。
そういうお前はどうするんだ?」
「ヒロを連れて少しドライブだ。
うちの奥さんも舞衣と食事の準備をするらしいんでね・・・」
「どこのうちも一緒か・・・
それより、俺たちがいないときよく食事会を開いているそうだが、知っていたか?」
「ああ、聞いている。
ヒロもヨシもいつも座る場所取りが大変らしいぞ」
「まったく・・・
誰に似たのかねぇ・・・ヒロもヨシも・・・」
隣に座っている奴の顔を見る。
「誰にたんだろうなぁ・・・」
「おい、とぼけるのもいい加減にしろよ」
と、怒鳴りかけたところへ
「ただいま。パパ。」
「あ、ヒロくんのパパ、ここにいたのね」
「はい、これ。ヒロくんのパパの分」
美希が袋から取り出して渡す。
「二人で作ったのか?
大事に食べさせてもらうね。
今度うちの舞衣も一緒に作りたいって言っていたからよろしく頼むよ」
「はい。学校がお休みのとき一緒に作りましょうって伝えてくださいね」
「おばあちゃまのおうちで作るのが一番いいのだけど・・・」
「おばあちゃまのうちではちょっと遠いよ。
今度お休みが一緒になったときうちへ来てもらって作ればいいだろう?」
「そうね、いざとなったらパパに教えてもらうから・・」
美希のいった言葉に
「みきぃ〜。ママが聞いたら怒るぞ・・・」
「あははは・・・ユキは相変わらずなのか?」
「時々な・・・」
あはは・・・うふふ・・・車内が笑い声でいっぱいになったとき
「パパ。早く鍵開けて」
ヒロが震えながら文句を言ってくる。
「わかった・・・
今度ゆっくり飲もう・・・
相原や南部たちにも連絡とって置くよ」
「ヒロくんのパパヤッくんのおうちの近く通ります?」
「通るけど?そういえば今日は来てないな・・・」
「ヤッくんのパパお仕事でいないんですって」
「ヤッくんのママもお仕事でこられないの・・・」
「それでね、ヤッんと、ヤッくんのパパの分なのだけど・・・」
「届けてもらってもいいですか?」
「ほんとは、もって行ってあげたいのですけど・・・
これからおばあちゃまのところへ行くから・・・」
「方向が反対なんだね。
わかった、確かに渡しておくよ。
ヒロ、ヤスのところへよってからドライブだ」
「ほんと?どこまでいけるかなぁ・・・
美希ちゃん、美優ちゃん今日はありがとう。
今度は、舞衣もつれてくるね」
「バイバイ、ヤッくんのところお願いね」
ヒロ親子と別れて、
「さて、おばあちゃんのところへ出かけますか?」
「パパ、出来るだけ早くね」
「でも、スピード出しすぎないでね」
「はい、はい・・・」
小さなユキがふたりいるみたいだな・・・
「スピードを出さずに出来るだけ早くつくようにしますよ。お嬢さん方・・・」
車で30分ほど離れているユキの実家へ・・・
ユキの両親が住むマンションのエントランスで
『はい?』
「こんにちは。おばあちゃま」
『いらっしゃい、美希ちゃん。今鍵開けるわね』
ツィーンという音ともにドアがスライドする。
「開いたわ。今からあがって行くね」
『はい、待っていますよ』
エスカレータで7階まで上がり目的のドアの前にふたりで並んでいる。
呼び出しベルを美希が押し
「おばあちゃま、開けて」
と、美優が声をかける。
ドアが開き
「いらっしゃい、美希ちゃん、美優ちゃん」
「こんにちは。今日はお世話になります・・」
「あら、進さん。
ユキは一緒ではないの?」
「ええ、食事の準備があるとかいっていましたけど・・」
「そうなの・・・
外は寒いから中へ入って・・・」
「はい・・・
子供たちの荷物を置いたら帰りますので・・・」
「うふふ・・・今日は落ち着かないみたいね。
今度ユキが一緒のときお食事でもしましょうね」
「はい、すみません・・・
子供たちの荷物、いつもの部屋でいいですか?」
「ええ、いいわよ。
進さん、お茶飲むぐらいの時間はあるでしょう?」
「いえ、僕はこれで失礼します。
子供たちのことよろしくお願いします」
頭を下げ、子供たちのほうへ向かって
「美希も美優も自分で出来ることはお手伝いするんだぞ。
それから渉の面倒もきちんと見ること。
おばあちゃまとおじいちゃまの言うことよく聞くこと」
「パパ、大丈夫よ」
「そうよ、私も美希もきちんとお手伝いできるもの・・・」
「そうか・・・
それでは、お義母さん、よろしくお願いいたします。
明日の夕方には迎えに来ますので・・・
では、失礼いたします」
もう一度頭を下げ、玄関へ向かい、ドアを開けようとしたとき、
「進さん、ちょっと待って・・・」
振り返ると
「これを渡すのを忘れるところだったわ。
はい、私からのバレンタインのプレゼント。
ユキと仲良く分けて食べてね」
小さな箱を受け取り
「ありがとうございます」
お礼を言って帰ろうとした時
「後、これも使ってくれると嬉しいのだけれど・・・」
きれいのに包装されているものを差し出されて。
「これは?」
「あなたたち家族へのプレゼント。
子供たちの分は抜いてあるわ。
これからお手伝いしてもらうときに使うから・・・」
「みんなおそろいなのですか?」
「色違いでね。
勿論、進さんのはシンプルにしてありますから・・・」
ニコニコと笑っている。
「色違いですか・・・
早速帰ってから使わせていただきます。
それでは、失礼します」
ユキの実家を後にして少し走ったところで車を止める。
サイドシートにおいてある包みを見て
「お義母さんらしいプレゼントだと思うけど・・・
俺の分はいらないのになぁ・・・」
一言つぶやき、携帯を取り出す。
「もしもし、ユキ?」
「今から帰るよ」
「うん、30分ぐらいかな?」
「わかった、無理はしないって・・・」
電源を切り
「さて、我が家へ帰りますか・・・」
30分後鍵を開け部屋へ入る。
「ただいま・・・」
「お帰りなさい、パパ」
キッチンからエプロンをつけてユキが出てくる。
「子供たちのいないときぐらい・・・」
言いよどんでいると
「お帰りなさい、進さん」
「ん、ただいま、ユキ」
挨拶代わりに軽くkissをする。
「ヨシくんたちは着ていたの?」
荷物をリビングに置きながら
「ああ、昔の癖はいまだに抜けていないみたいだ・・・
それから、お母さんからこれもらってきたぞ」
「何かしら?開けてみてもいい?」
「どうぞ・・・」
「どうしたの?進さん機嫌がよくないわねぇ・・・」
「ユキはご機嫌になると思うけど・・・」
「何かしら・・・
まぁ・・・ママの手つくりね」
「子供たちとおそろいだって・・・」
淡いピンクのエプロンを持ち上げた時、もうひとつのものが落ちた。
「あら、これはもしかして進さんの?」
黙っていると
「それであまり機嫌がよくなかったのね。
せっかくママが作ってくれたエプロンなのだから使ってくれるわよね♪」
にこりと笑みを向ける
「まったく・・・
その笑顔犯罪だって言っているだろう・・・
いやっていえなくなるんだから・・・」
「はい、お手伝いお願いね」
僕の手にエプロンを乗せキッチンへ入っていく。
「やれやれ・・・今日はバレンタインではなかったのかなぁ・・・」
久しぶりのふたりだけの食事も終わり、
就寝前のティータイム。
「そういえば、子供たちからのバレンタインのチョコは?」
隣に座っているユキに聞くと
「はい、美希たちからの預かり物」
可愛くラッピングされたものを渡された。
「どれどれ・・・」
ラッピングされたものをあける。
「ハートと星型がひとつずつ・・・
これだけ?」
「あら、そうなの?」
「あらそうなのって・・・
パパの好きな形よっていっていたじゃないか・・・」
ぶつぶつと文句を言っていると
「あら、あなたの好きな形でしょう?
星は宇宙のことでしょう・・・
ハートは・・・私のこと・・・」
真っ赤になっているユキに・・・
「確かに・・
地上勤務より、宇宙勤務のほうが楽だし・・・
美希や美優も可愛いけど、
一番はユキ、君だな・・・・」
俯き加減のユキの顔を両手ではさみそっと上を向かせる。
ほんのりほほを染めてユキへそっと口づける。
「子供達からのバレンタインにプレゼントしっかりいただきますか」
ユキを抱き上げ寝室へ向かう。
「ちょっとぉ・・・私がバレンタインのプレゼントなの?」
「違うのか?
こんな美味しい物を前にお預けは勘弁してほしいんですけど、奥様」
「もう・・・しょうがないわねぇ・・・
進さんは明日お仕事があるんですからほどほどにね・・・」
「ということは、今日はユキが楽しませてくれるんだな・・・」
「え・・・・?」
真っ赤になってしまったユキをそっとベッドへ下ろし
「たまにはいいだろう・・・」
「・・・・」
黙ってしまったユキの唇に深く熱いkissを落とす・・・
「ん、甘い・・・」
「もう・・・進さんのばか・・・」
バレンタインの夜、ふたりっきりになった僕たちは
いつまでも熱いときを過ごしていた・・・