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四神の封印と四神の贄巫女

〜月峰神社〜

「はぁ、はぁ・・・何なのよ!!あのサド女!つぅ・・・」

絵里花は戦闘疲れと怪我の痛みもあって、肩を上下させながら息をする。

右手には力無く銃が握られ、左手は脇腹を押さえている。

その手の下は真っ赤に染まっており、絵里花がそこを怪我していることは一目瞭然だった。

「・・・絵里花さん。大丈夫ですか?」

「その台詞、貴方にお返しするわ。」

紫呉はふらふらと歩き絵里花に近づく、左手をだらんと垂らし、右手で握った杖を頼りに、何とか歩けている・・・そんな状態だ。

「・・・折れてるの?」

絵里花は紫呉の左手に目をやる。少し動いただけでも苦痛に顔を歪ますのがソレを示していた。

「・・・僕は魔法系ですから・・・フェリオ・マクシミリオンの攻撃を真っ向から受けるには限界があったようです。」

身の丈ほどあるフェリオの大剣が振り下ろされるのを、その細い腕と杖で何度も受け止めた。

一発の攻撃で折れた訳ではないが、何度も回数を重ねてたせいで、骨が衝撃に絶えきれずに折れてしまった・・・・正確にはヒビが深く入ってしまったのだ。

「今・・・治してさしあげます。」

紫呉は杖を構え、治癒の呪文を唱えようとする。

「馬鹿!私に使う魔力が残ってるなら、自分の怪我をどうにかしなさい!!私は後でいい・・・本部に戻ってから怪我を治して貰うから。」

杖を押しのけて、怒鳴るように言う。

紫呉はいつも自分より周りを優先する。今は絵里花とて怪我をしているが、紫呉の方が幾分か酷かった。

「絵里花!紫呉!」

自分たちを呼ぶ声に、2人は鳥居を振り返る。

そこには海斗と、海斗に肩を貸して貰って歩いてくる鈴の姿があった。

「貴方達も駄目だったの?」

「まぁ、な。そんなことより、お前らひでぇ怪我じゃねぇか!早く治療しないと!」

海斗はとりあえず、着ていたブレザーを脱捨て、中に着ているシャツを脱ぎ、それを破いて即席の包帯を作り、紫呉の腕の固定と、絵里花の傷の止血を行った。

「ありがとうございます。」

お礼を言うと、紫呉は弱々しくその場に座り込んだ。

紫呉達ほどではないが、こちらも肉体的、精神的に疲れた・・・・海斗達もその場に腰を下ろし、そこでしばらくの休憩をとった。

「桜ちゃん!みなさん!」

譲刃達と合流した知世は、桜達に駆け寄る。意識は戻っているものの、ひどいけがだ。

「うん・・・大丈夫だよ、知世ちゃん。」

桜は知世に苦笑いを返す。

「今怪我を治して差し上げますわ。・・・『癒しの風』」

桜達を優しい風が包む・・・傷はみるみるうちに塞がっていった。

「見た目は治っていますが、傷は完全に治ったわけではありません。明日一日しっかりと療養してくださいね。」

風がそう注意すると、桜達は頷いた。

「貴方達が何とか間に合ってよかったですわ。」

貴方達とは、ほかでもない譲刃達のことだ。彼女たちが来なかったら、間違いなくファイは死んでいただろう。

「いえいえ〜ファイ君達が助かってよかったです。同じ『守護者』として、これからも頼ってね?」

「ありがとうございます。」

礼を言ったのはファイのみ。彼らより傷が酷かった黒鋼の意識はいまだ戻っていない。

「ここにいてまた敵に襲われては面倒ですわ・・・家に帰りましょう。大道寺さんは私達が送りますわ。」

「それじゃあ、黒鋼君は私が送りますね。他のみんなは自分で歩けるよね?」

みんなはコクリと頷いた。

意識のない黒鋼は草薙が肩に担ぎ、ファイを引き連れてマンションへと帰っていく。

桜も小狼と小さくなったケロちゃんと共に家に帰っていった。

「それではよろしくお願いしますわ。」

「ええ・・・それじゃあ帰りましょう。」

風とフェリオに両側を守られるように、知世は家まで送ってもらった。

〜翌日〜

「今日の欠席は、木之本さんに李君、フローライト君に、白鷺君ですね。」

風は出世簿に欠席の印をつける。

「それでは1時間目の授業を始めましょうか。」

風の言葉で、生徒達は一斉に教科書とノートを開く。

(・・・みなさん、大丈夫でしょうか。)

教科書を見つめながら、知世は思いをはせる。

黒鋼も休むので、自分も休んだ方がよいのかと考えたが、自分は至って健康だし、ずる休みをするのは気が引けたので登校した。

もちろん、ポケットの中には虞虞の勾玉を入れて。

その日の授業はそつなく進み、放課後を迎えた。

「それじゃあさようなら。」

知世はクラスメートに挨拶をすると、1人で帰路につく。

普段は桜達が一緒なのだが、今日ばかりは仕方がない。

帰りに桜達の見舞いに行こうと思案していると、ふいに肩を掴まれた。

「昨日はどうも。」

「!!」

その声と、振り向いて確認した姿に、知世は大きく目を見開く。

知世に声をかけたのは、『時空神の騎士』で、昨日黒鋼に酷い怪我を負わせた、絵里花だった。

知世はすぐさまポケットに手を入れ、勾玉を握るが、その知世の腕を絵里花がつかむ。

「こんな人が多い所で魑魅魍魎を喚ぶつもり?浅はかな考えはよしなさい。・・・それに、私は今あなたをどうこうする気はないわ。たまたま学校帰りに見かけたから声をかけただけよ。」

確かに絵里花が身に纏っているのは学校の制服・・・そして、時間帯からしても、絵里花が学校帰りだというのはほんとうだろう。

「何もしないだなんて・・・信じられませんわ。」

知世は絵里花の腕を振り払い、少し距離を取る。

「本当よ〜こんな人がいる所であなたに攻撃したら、私は犯罪者じゃない。」

「人がいない所でしても犯罪ですわ。」

「ふふふ・・・それもそうね。でも、ばれなかったらいいって考えもあるじゃない。」

「・・・・。」

警戒を解かない知世に、絵里花は苦笑を漏らした。

(・・・何故私はこんなことをしているのでしょう?)

知世は自分に自分で問いかけた。

いま知世は絵里花と机越しに向かい合い、紅茶をすすっていた。

絵里花に話しかけられた後、そのまま流されるようにお茶に誘われ、今に至る。

「そうなにムスッとしないで。せっかくの美人が台無しよ?」

絵里花はからかいを含んで言う。

「・・・貴方と笑いながらお茶をしろと言われても無理ですわ。」

「ふふ。それもそうね。」

自分たちは敵同士なのだ。彼女は昨晩、黒鋼を酷く傷つけた。それによる絵里花への警戒心は強まっていた。

「こうして今日あえたのは偶然だけど、丁度良かったわ。」

「何がですか?」

「貴方に話しておきたいことがあったの。」

絵里花は今まで口に運んでいたコップを机の上におき、知世を真っ直ぐに見つめた・・・・真剣な眼差しで。

「あなたは自分が何なのか知っている?」

何故今頃このような質問をするのだろう?知らないわけはないのに・・・

「『青龍の贄巫女』ですわ。」

「その通り・・・ではもう一つ。なぜ『贄巫女』とは何か知っている?」

追ってされた質問に、再び疑問を覚える。それを黒鋼に聞いていないとでも思ってるのだろうか・・

「『守護者』と協力して、『四神の封印』の再封印を行う人でしょう?」

「・・・そうね。」

絵里花はコクリと小さく頷いた。

「じゃあ、何故『贄巫女』と言うの?『贄』なんて穏やかではないでしょう?」

確かに・・・贄などとは良い言葉ではない。普通に巫女でもよさそうなのに・・・

「それは知りませんわ。・・・黒鋼さん達も何も話して下さらなかったですもの。」

くす・・・と絵里花が笑った。

「『守護者』に聞いても教えてくれないのは当然よ・・・貴方達『贄巫女』にとって、あまり良いことではないから・・・もしそれを知ったら、貴方はきっと『贄巫女』であることを嫌がるわ。」

「・・・その言い方では、あなたはその理由を知っているのですね。」

肯定するように、再び絵里花は口端をあげる。

「『贄巫女』は再封印の際、『贄』を支払うから、そう呼ばれているのよ・・・まぁそのまんまね。」

「・・・『贄』?それは魔力とかではなくですか?」

「そうね。魔力も支払うわ・・・でも、本当の贄はそれじゃない・・・・」

絵里花はもったいぶるように、再びコップを口に運ぶ。

「それはなんなのですか?」

知世はすこし語調を強めて問う。とても不安で、落ち着かない・・・

「それはね・・・記憶。」

「・・・き、おく?」

知世は力無く聞き返す。

「そうよ、記憶・・・」

「一体それはどのような記憶ですの?」

まさか生まれてから今日までの全ての記憶を失うということはないだろう。

「たいしたものじゃないわ。『四神の封印』に関わる全ての記憶・・・まぁその後生きていくのにそれほど支障はきたさないわね。」

たいしたものじゃない?・・・知世にはとうていそうは思えない。

「『四神の封印』に関わる全ての記憶?・・・それは『守護者』である黒鋼さんの事も。」

「当然でしょ?そして、どういう理由があるかは分からないけど、『守護者』はその後、『贄巫女』に関わりを持ってはいけないみたい・・・『時空神の騎士』の記録では、再封印後に再会した『守護者』と『贄巫女』はいないわ。」

心地よくない汗が顔を伝う・・・

「そんな・・・もしかして、黒鋼さんがはじめ、私と親しくしたがらなかった理由は、最後には私が彼を忘れてしまうから?」

深い情を覚えると、後が辛くなる・・・だから黒鋼は知世を拒絶したのだろうか。

「そうなのかもしれないわね。・・・貴方、先代の『青龍の守護者』が任務を放棄して逃げたって話は聞いたことある?」

「・・・ええ。」

「あれね、『守護者』と『贄巫女』がお互いを好きになったからよ。愛する人に忘れられるのが嫌で、彼は『贄巫女』を連れて逃げたの・・・・まぁ逃げたあとに一族の者に始末されたって噂も聞くけどね。」

しれっと言う絵里花の言葉に、知世は耳を疑った。

「始末されたって・・・殺されたと言うのですか!」

少し大きめに言ったために、周りの脚が驚いたように知世を見た。

「声を小さくしなさい・・。」

「・・・申し訳ございません。でも、始末されたって・・・そんな。」

「まぁ当然っちゃ当然だけどね。裏切り者だもの・・・」

「・・・でも、だからって。」

好きな人に忘れられたくないというのは当然ではないか・・・

「裏切り者への処罰は、どこも似たようなものよ。私たちだって、組織を裏切ればきっと殺される。摩訶不思議な事を受け入れられない今の世の中に、魔法とかそういった事が流出するのを防ぎたいのよ。」

「・・・・・。」

それでも納得いかないというように、知世は絵里花をにらみ据える。

「私にそんな顔をされても困るわ。」

確かにそうだ。もしここで絵里花に怒りをぶつけたならば、それはただの八つ当たりでしかない。

「・・・そろそろ私、帰らなきゃ。」

絵里花は自分の腕時計に目をやり呟く。

「・・・この話を聞いて、貴方がどうするかは自由よ。」

彼を忘れたくは無いために、贄巫女としての責任を放棄するか。

しかし、それは彼を裏切るということだ。

でも、裏切りたくはないからと、彼を忘れてしまうのはいやだった。

もし願えるのならば、どちらの道も選びたくはない。

「それじゃあね。」

絵里花はテーブルの上に置かれた伝票をとると、レジへと向かった。

「・・・あ、お金を。」

知世はあわてて鞄から財布を取り出すが、絵里花は振り返りもせずに伝票を振って見せた。

おごってあげるということだろう。

(私は・・・どうすれば。)

1人残された知世は、綺麗に磨かれたコップに写る自分の瞳に問いかけた。

そして、何かを決意したように立ち上がると、急ぎ足で店から出て行った。

…つづく

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