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四神の封印と四神の贄巫女

〜翌日〜

今日は1時間目から、英語の小テストがあるので、皆机に張り付き、教室の空気はどこかピリピリとしていた。そんな中・・・

「白鷺さん、放課後少しお時間よろしいですか?」

昨日まで黒鋼と目も合わそうとしなかった知世が、今朝は自分から声をかけてきた。

「・・・何だ?」

少し不審に思いながらも、黒鋼は知世を見た。知世は視線をそらすような事はせず、黒鋼の顔を真っ直ぐに見つめた。

「お話があります。」

黒鋼は一瞬だけ考えるように目線を下げたが、すぐにお返事を返した。

「わかった。」

「ありがとうございますわ。」

話しかけることに緊張したのか、知世は席に座るなり、胸をなで下ろした。

『キーン コーン カーン コーン』

チャイムが鳴ると同時に教室の扉は開かれ、先生が入ってきた。

「さっさと座れよ〜前の授業で言ったが、今日は小テストをする。小テストだからといって手を抜くなよ!放課後までに採点をして、40点以下のものは放課後に再テストだ!」

ええ〜!!と小テストの勉強をさぼっていた者達から非難の声があがる。

「こうでもしないと、お前達小テストの勉強しないだろう?これからテストは全て40点以下は再テストだからな!勉強をさぼるなよ。」

再び生徒から非難の声が上がるのを無視し、先生はテストを配り始める。

「・・・最初の授業の実力テストといい、テストがお好きなんでしょうか・・・フェリオ先生。」

実は、鳳凰寺風の『近衛』であるフェリオは、友枝高校の英語教諭だった。

夫婦が同じ学校にいる事はできないので、『フェリオ・マクシミリオン』と旧姓を名乗って先生をしている。

「それじゃあ時間は20分だ!・・・はじめ。」

フェリオの合図で生徒達はプリントの面を向けて問題を読む。

勉強をしてきたものには簡単な内容だが、そうでないものには40点はかなり高い壁だった。

昼休みに返ってきた英語の小テストは、黒鋼と知世は無事合格点だったので、放課後の再テストはなかった。

昨日、知世が桜達に夢の話をした喫茶店に黒鋼と知世はいた。

「話は何だ?」

運ばれてきたコーヒーを口に運びながら問う。知世は紅茶をかき混ぜるのを止め、黒鋼を見た。

「貴方が私に冷たく接する訳を教えて下さい。」

知世の発した言葉に、黒鋼は少し驚く。何の話をするのかはだいたい想像がついたが、ここまでストレートに聞かれるとは思っていなかった。

黒鋼は返事に困り、口を閉ざすようにコップを口に運ぶ。知世は急かす事はせずに、自分も紅茶を飲んだ。相手の心の内を知るには時間が必要だということを知世は理解していた。

数分ほどの沈黙が続いたが、諦めたように黒鋼が口を開く。

「理由なんてない。だが、俺がお前と親しくしなければならない理由もないだろ。」

「それもそうですわね。でも、冷たく接する理由もないと貴方は仰いましたね?それでは、私と仲良くして下さってもよろしいのでは?」

知世はにこりと微笑んだ。

黒鋼は口元に手をあて考える。知世の笑い方は、どこか風の笑い方に似ている。

含みのある笑み・・・ただ相手に好感を与えるだけでなく、裏で何か他の事を考えている笑みだ。

黒鋼は誤算だったと心の中でため息をついた。

知世は黒鋼が思っていたほど弱く素直な女ではない。自分の納得のいかないことは、納得のいく答えへと導くため努力をする。

知世は黒鋼の拒絶の態度に悲しむだけではなく、黒鋼がなぜ自分に冷たく接するのかを知り、できれば仲良くしようと考えていた。

「・・・・。」

黒鋼は答えることが出来ず、ただ沈黙を守り続ける。

そんな黒鋼に追い打ちをかけるように知世は言葉を続ける。

「それとも本当は、私と仲良くできない理由でもあるのですか?」

「そんなものはない。」

黒鋼は即答する。

返事が早かったので、知世が怪しむかと思ったが、鋭い知世でもそこは気にとめなかったらしい。

そのことに黒鋼は安堵する。

『贄巫女』の事を深く知って、知世が『贄巫女』になることを嫌がっては、面倒なことになる。

「じゃあ、仲良くしませんか?嫌だなんて言われては、私悲しくて『贄巫女』のお役目を果たせないかもしれません。」

ポケットからハンカチを出し、明らかに嘘だと分かるように泣いてみせる。

知世の申し出(脅し)に、黒鋼は一生分と思えるほど深くため息をつくと、仕方なしに頷いた。

「分かった。・・・もともと人付き合いは苦手だが、努力はしよう。」

「ありがとうございますわ。」

先ほどの含みのある笑みではなく、愛らしい笑みを浮かべる。

(結局俺も初代と同じか・・・・)

黒鋼は自嘲するように薄く笑みを浮かべた。

所詮『初代青龍の守護者』の生まれ変わりである自分は、彼と同じ道を通るしかないのだと。

「・・・白鷺さん?」

先ほどから重い雰囲気を纏う黒鋼に、知世は心配そうに声をかけた。

「黒鋼でいい。白鷺と呼ばれるのは好きじゃない。」

その姓は自分を『守護者』として縛り付けているような気がした。

『守護者』としての素質がなければ、いかに『守護の一族』いえど『守護者』にはなれない。ある程度は血で受け継がれるが、いつかは薄れ、新たに『守護者』になった者の家が『守護の一族』となる。

しかし、幸か不幸か『青龍の守護の一族』は初代の時から変わらず『白鷺家』だ。

ゆえに、『白鷺』という姓は『守護者』の証とも言えた。

(俺の場合はこの名前も同じか・・・)

再び自嘲するように笑う黒鋼を、知世は黙って見つめる。

(仲良くしようとはいったものの、私は彼が何を思っているのか分からない。彼は心の中に何かを隠している。そして・・・)

知世は黒鋼から目線をはずすと、コップに注がれた紅茶に写る自分の姿を見つめた。

(私は、それを知ってはいけない気がする。)

知世は紅茶に写る自分の姿が、一瞬、夢の少女と重ったように見えた。

知世と黒鋼は帰り道を肩を並べて歩いた。

まだ少し心に引っかかる所があるが、十分の進歩はあった。

少しでも和解できただけで、足取りは嘘のように軽く、こんなに楽しい気分での帰宅は初めてだった。

何がそんなにうれしいんだが・・・と初めはあきれ顔だった黒鋼も、今は諦めたように、時々話される知世の話に相づちをうっていた。

「すみません。」

知世の家へと帰る途中にある商店街で、2人は声をかけられた。

2人は振り返り、声をかけてきた人物を確認する。すると、黒鋼は大きく瞳を見開いた。

(・・・こいつは!)

日本人離れした綺麗な顔立ちの青年。色素の薄い髪は限りなく黄色に近かった。

オレンジの瞳が優しく微笑むその姿は、昨晩、風が自分たちに見せた、『時空神の騎士』の一員、有間紫呉のその人だった。

「少し道を尋ねても良いですか?」

紫呉は手に持っていた紙を知世達の方に向ける。それは地図のようだった。

紫呉が『時空神の騎士』だと言うことを知らない知世は、道を教えるためにその紙を手に取ろうとする。

黒鋼はそれを制するように2人の間に割ってはいると、紙に書かれた場所を確認する。

「そこの交差点を右に曲がればすぐだ。」

それだけ告げると、紫呉がお礼を言うのも聞かずに、知世の手を引いてその場をさった。

その2人の後ろ姿を、先ほどとは違い、鋭い瞳が見送った。

「あきらかに警戒されてるじゃない。」

紫呉はおもしろそうに後ろから声をかける少女を振り返る。

水戸絵里花・・・『時空神の騎士』の一員で、紫呉の仕事のパートナー。綺麗に金に染められた髪は品良く後ろでまとめられていた。

「絵里花さん。」

絵里花に優しく微笑むと、彼女からも笑顔を返される。

「僕が『時空神の騎士』である事は、すでに伝わっているようですね。」

「・・・フフ。なに不思議そうな顔をしてるの?そのためにわざわざばれるように、大胆にも彼らの学校に偵察に行ったんでしょう?」

ばれていましたか・・・と紫呉は苦笑を漏らす。

昨日、紫呉達が黒鋼達の学校の近くをうろついていたのは、わざと自分たちが動いていることを気づかせるためだった。

「あの人なら僕らに気づき、すぐにでも情報が伝わると思っていましたよ。」

あの人とは、鳳凰寺風の事だ。5年前、13歳であった紫呉は、『白虎の再封印』の阻止を命じられていた。

しかし、ことごとく風と『近衛』のフェリオにやられてしまったのだ。

それが紫呉の中に汚点として残っている。

「今回は前のような失敗はしない。今度こそ、彼らに任務は果たさせない。」

普段は誰よりも温和な雰囲気を纏っている紫呉の顔が歪められる。

「じゃあ何であいつらに情報を与えるの?私たちの正体がばれる前にやっちゃった方が楽じゃない。」

絵里花の言い分はもっともだ。自分たちの正体に気づいていないほうが、行動は起こしやすい。何故、自分たちの情報を相手に与えるような真似をするのか、絵里花には疑問だった。

「それは僕の趣味じゃない。そんな卑怯な真似は嫌いですよ・・・勝負はフェアでなくてはね?」

絵里花は自分が好戦的であると思っている。しかし、それ以上に自分のパートナーである紫呉は戦いを好んでいるように見える。

彼の心の中は分からない。紫呉は自分を偽ることを得意とし、本性は滅多に現さない。

「まぁ紫呉のやり方に合わせるわ。」

ありがとうございます。と紫呉は再び微笑む。

常に笑顔を絶やさない、完璧な優等生。とりあえずはそれが紫呉の表の顔だろう。

「黒鋼さん?一体どうしたのですか?」

自分の手を引いて何も言わずにただただ歩く黒鋼に知世は意味が分からず、黒鋼に尋ねる。

「もし一人の時に今の奴を見かけたら逃げろ!」

知世の手を離し、向かい合うようにして立つ。

「何故です?」

「あいつは『時空神の騎士』の一人だ。」

知世は驚いたように振り向くと、もはやいるはずのない紫呉の姿を探した。

「あいつとこの写真の奴には注意しろ。」

黒鋼はポケットから絵里花の写真を撮りだし知世に見せる。

「・・・誰かに似ているような。」

「東京都知事の娘だとさ。」

「!!」

知世は写真を食い入るように見つめた。たしかに彼女は、都知事によく似た面影があった。

「何を考えているかは読めんが、今日の接触は俺たちを挑発してるんだろう。本格的に動き出されては面倒だ・・・はやく俺らも動かなきゃなんねぇ」

今回の紫呉の行動は考えてもいなかったのか、悔しそうに唇をかみしめる。

彼の行動からは、今のところ自分たちが優位に立っているという自信が伺えた。

「『時空神の騎士』の方々がまだ学生だなんて・・・」

紫呉は13歳の時に風達と戦った。

実際に『時空神の騎士』としての活動はもっと早くから始まっていただろう・・・

「・・・大道寺。これを渡しておく。」

黒鋼は制服の懐から何十もの勾玉(まがたま)で出来た長い数珠のようなものを取り出した。

紅い色をした勾玉を一つ外すと、黒鋼は知世の手にそれを置いた。

「これは?」

2cmほどの小さな勾玉を手の上で転がすようにしてみる。

夕日をうけ、綺麗に磨かれた光沢のある勾玉は美しく煌めく(きらめく)。

「俺が式神として使役する魑魅魍魎(ちみもうりょう)のうちの一匹だ。」

「魑魅・・魍魎?」

聞かぬ言葉に知世は首をひねる。

「魑魅魍魎ってのは、化け物や怪物みたいなもんだ。普通のやつは魔力のある人間を襲ったりするが、使役された奴は主の命には絶対に逆らわない。」

黒鋼の使役する魑魅魍魎の数は50を超えている。子供の頃から使役の術を教わり、自分が『青龍の守護者』として任務を果たすときのために戦力となる魑魅魍魎を集めた。

「ここに小さく書いてあるのがこの勾玉に封じられている奴の名だ。」

黒鋼は知世の手のひらにある勾玉の中心を指さす。

そこには小さく文字が刻まれていた。

「・・・なんと読むのですか?」

小さいのに加えて、昔の日本語で書かれているので知世にはそれが読めなかった。

「虞虞(ぐぐ)だ。獅子に角を生やしたような奴だ。」

知世は言われて勾玉を見つめる。言われてみれば虞虞と書かれているように見えなくもない。

「本来は俺の命にしか従わんが、『契約』によって俺とお前は魔力が同調してるから、お前の命にも従う。・・・なるべく一緒には行動するが、どうしてもお前の側に居れないときはでてくる。もし、一人のときに『時空神の騎士』に襲われたら虞虞を使え。この通りに呪を唱えれば虞虞は勾玉からでてくる。」

黒鋼は小さな巻物を知世に渡した。そこには懇切丁寧に呪の唱え方が書かれてあった。

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