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四神の封印と四神の贄巫女

一時間目の授業は国語。鳳凰寺先生の授業は分かりやすく、楽しくてみんなには人気の授業だった。知世も風の授業は大好きだったが、今日ばかりは授業を楽しむ気にはなれなかった。知世は様子をうかがうように、教科書から目線をのぞかせ、隣に座る黒鋼を見た。

いつものことだが、面白くなさそうに教科書をにらみ付けている。

その横顔を見れば見るほど、昨晩の夢に出てきた青年にそっくりだった。

(あれは予知夢・・・?しかし、あの格好・・・それに、夢の中の彼と私は明らかに年が離れていた。)

考えれば考えるほど、頭が混乱してきた。

知世の視線に気づいたのか、黒鋼は知世の方に目線を向けた。

目線があった知世は、逃げるように教科書に目線を戻し顔を隠した。

はぁ・・・と黒鋼のため息が聞こえる。それを聞いて知世も小さくため息をついた。

(いろいろと考えなくてはならないことがありますわ・・・でも・・・)

知世は自分の右手の甲を見つめた。

(『契約』はしてしまった。強制ではなく私の意志で・・・あの夢が私に何を伝えたいのかは分からない。何の意味も持たないただの夢かもしれないし・・・『贄巫女』としての役目は果たさなければ・・・それに、きっと彼も昨日の事は本意ではないはず・・・そう信じたいですわ。)

「・・・それでは次のところを大道寺さん。」

授業に集中していないのに気づかれたか、今までの順番を飛ばし、いきなり知世に本読みを当てた。

「・・・え?あ、はい!」

知世は立ち上がりペラペラとページをめくるが、自分の前の人がどこまで読んだかは全く聞いていなかった。

「・・・34ページ、6行目。」

隣で小さく呟くのが聞こえる。知世は一瞬驚き、すぐに言われたページを開き、本読みを始めた。

「その大通りには、古い建物が多く並んでおり・・・・・」

1ページほど読み終わると、終了のチャイムがなり、中途半端だがそこで切り上げとなった。

「ああ、チャイムが鳴ってしまいましたね。では、大道寺さんには明日、続きから読んで貰いましょう。それでは授業は終了です。」

「起立。」

昨日の委員決めでクラス代表になった桜が号令をかける。

「礼。」

礼をすますと風は教室から出て行き、生徒達も各々の(おのおのの)友達の所へ席を立った。

「知世ちゃん、大丈夫?珍しく授業に集中してなかったね?」

知世らしくない授業態度を心配してか、桜が知世の席へと近づいて来た。

黒鋼はファイの所に行っているので、あいた黒鋼の席に桜は腰をおろした。

「いろいろと考え込んでしまって・・・」

知世は教科書を鞄になおしながら答える。

「本当に大丈夫か?顔色もあんまり良くないみたいだし・・・保健室に行った方が良くないか?」

小狼も心配そうに声をかける。

「本当に大丈夫ですわ。相談には放課後のって貰います。休憩の間に話せる事ではないので・・・」

桜と小狼は頷いた。

「次は音楽ですわね・・・移動しましょうか。」

「うん。そうだね。」

桜達は、音楽の教科書を持ち、2号館の音楽室へと移動する。

その少し後ろを桜と知世を見守るようにファイと黒鋼が歩く。

「やっぱり何かあったんじゃない?大道寺さんどう考えても様子変じゃない?」

「・・・気のせいだろ?」

あくまでしらばっくれる気なのか、さきほどからやる気のない返事しか返さない。

ファイはそれ以上は追求せずに、静かに黒鋼の隣を歩いた。

本当は質問などしなくても、黒鋼と知世の間に何があったのかは想像がついた。

黒鋼の苦悩は、同じ『守護者』として痛いほどに分かる。ファイはつくづく面倒な存在に生まれてしまったなと頭を悩ませた。

2時間目の音楽の時間は初めてだったので、先生の自己紹介から始まった。

「始めまして、皆さん。私は栩堂琥珀(くどうこはく)といいます。」

琥珀はそう紹介すると、生徒達に人懐っこい笑顔を向けた。心が温まるような、そんな笑顔だった。

「今日の授業は、校歌の練習をします。校歌はいろんな行事で歌うことになるので、しっかりと覚えて下さいね。」

校歌の書いたプリントがみんなに配られると、琥珀はピアノの前に座ると、指で鍵盤(けんばん)を推した。

「校歌の初めの音は"ミ"です。それじゃあ皆さん“ミ”の音を出して下さい。」

再び鍵盤に指をおろすと、"ミ"の音を奏でる。

その後は、一行づつ丁寧に教わり、授業の終わりにはみんな、プリントをみてなら、校歌を全て歌えるようになった。

3時間目、4時間目の授業が終了し10分程度のSHRも終わると、知世は桜達に昨晩の夢の事を相談するために、喫茶店に向かった。

『贄巫女』を守ることを名目に、ファイと黒鋼もついていく。

知世が黒鋼がいると話しにくいと雰囲気で語っていたので、ファイと黒鋼は少し離れた席に座った。

「それで?何かあったの?」

昨日の黒鋼とのやりとりは話さずに、夢の事だけを話した。

言葉がまとまらず、あまりうまく説明は出来なかったけれども、桜と小狼はだいたいのことを理解したようだ。

「・・・大道寺と白鷺に似た人たちの夢か・・・」

「はい。これは私の憶測でしかないのですが、彼らは多分初代『青龍の守護者』と『贄巫女』ではないかと思いますの。」

知世は運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。口内に広がる苦みが、ぐちゃぐちゃしていた頭を、少しすっきりさせてくれた。

「どうして?」

「白鷺さんに似ていた男性のかたが、「封印完了」と言ってましたの。あれは『青龍の封印』ことではないでしょうか。」

桜と小狼は肯定も否定もできない。

「過去の夢ってことか?」

「・・・多分。」

知世は小さく頷く。

桜は頭を悩ませる。予知夢を見たことはあっても、過去の夢は見たことがなかった。

なので、そのような事が本当にあるのが分からなかったのだ。

「このことはきっと私たちだけじゃ解決できないよ。ケロちゃんにも相談してみない?」

桜の提案に、知世は一瞬だけ迷ったが、首を縦に振った。

「過去の夢だってさ〜黒鋼もそういうの見るって前にぼやいてなかった?」

少し離れた席からでも、しっかりと知世達の会話は聞いていた。過去の夢を見るのは黒鋼も同じ。黒鋼はそれを何度かファイに相談したことがあったのだ。

「・・・。」

肯定とも否定ともとれる仕草で黒鋼はコーヒーを口にする。

「初代『青龍の守護者』と『贄巫女』か・・・」

彼らのことは、『朱雀の守護者』であるファイも知っている。

彼は封印を行うために『贄巫女』が払わなければいけない対価を知っていて、封印を執行した。その対価が自分を苦しめると知っていて、それでも彼は『守護者』としての任務を忘れなかった。

彼のようであれと言うように、『守護者』は教育を受ける。そしてもう一つ・・・彼のように苦しみたくはなかったら、必要以上に『贄巫女』に情をかけるなと。

その日は桜と小狼が、知世を自宅まで送っていき、桜も家までは小狼が一緒だったので、黒鋼とファイは喫茶店から出て行ったのを見送ると、そのまま家へと帰っていった。

カードの継承者である桜と『李家』でそれなりの戦闘訓練を受けている小狼が、並大抵の敵にやられるとはとても思わなかったからだ。

「黒鋼の『贄巫女』は不安たっぷりって感じだね。大丈夫?」

「大丈夫じゃなくても勤めははたしてもらう。」

黒鋼は知世に対して、あくまで『守護者』として接するつもりだ。

「勤めを果たして貰う・・・か。」

勤めを果たすのは自分たち『守護者』のほうだ。『贄巫女』はただ魔力を提供してくれればいい。

「さっさと全部済まそう。時間をかければ辛くなるだけだからね・・・。」

「ああ。」

知世との間に築いた壁が壊れる前に、全てを終わらせたい。それでいいのだ・・・

「送って下さってありがとうございますわ。」

小狼と桜は約束どおり、知世を自宅まで送り届けた。

「それじゃあ、また明日。」

「じゃあな、大道寺。」

「気をつけて帰って下さいね。」

挨拶をすませると、桜と小狼は知世の家に背を向けて帰路についた。

「ファイくん達に敵対してるっていう『時空神の騎士』って人たちは特に動きはないね。」

『守護者』がついていない『贄巫女』が2人もいるのに、帰り道で敵に襲われることはなかった。

それはそれで安心なのだが、知らぬ敵に狙われるのは心地悪い。いっそのこと、一度襲われて、敵の姿を確認したい気分だ。そのほうが、気構えもできる。

「敵はまだお前達が『贄巫女』だと知らないんじゃないか?」

「そうなのかなぁ?」

『時空神の騎士』の情報網がそれほど甘いとも考えにくいが、これまで敵の襲撃にあっていないことを考えると、そうとも思えてしまう。

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