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四神の封印と四神の贄巫女

知世は飛び起きた。

ハァハァと胸で激しく息をする。そして、自分の瞳から涙がこぼれていることに気づいた。

夢の中で、青年に知世と呼ばれた少女・・・青年を黒鋼と呼んだ少女と心が同調(シンクロ)したような感覚に襲われた。彼女の悲しみが自分のことのように感じられた。

「今の夢は・・・一体?私と・・・白鷺さん?」

知世は何がなんだかまったく分からず、結局その日はそれから寝付くことは出来なかった。

〜同じ頃〜

黒鋼もその晩、知世と同じ夢を見ていた。『初代青龍の贄巫女』と『初代青龍の守護者』の夢・・・とても悲しい夢。

黒鋼も知世と同じように、夢の中の青年と心が同調していた。

知世のようにただただ悲しいだけではなく、最も大切な者を自分から手放さなければならない苦しみ。

『守護者』としての使命に捕らわれ、彼女を傷付け悲しませてしまった自分に対する怒りと、やるせなさ・・・幾つもの感情は、黒鋼の心を締め付けた。

激しい胸の苦しさに、黒鋼も目を覚ます。

酷く汗をかいており、敷き布団が少し湿っている。荒い息を整えると、黒鋼はベッドから抜け、キッチンに向かった。

冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターをとりだすと、それを一気に流し込んだ。

冷たい水は、火照った(ほてった)体を冷やしてくれる。少しだけ心がすっきりした。

そのまま眠る気にもなれず、黒鋼はベランダにでる。涼しい夜風がとても心地よかった。

「・・・ふぅ。」

黒鋼はだいぶ落ち着いたのか、気を抜いたため息をついた。

『初代青龍の守護者』。歴代の『青龍の守護者』のなかでも抜きん出た実力の持ち主だと聞く。過去の事だから黒鋼にも詳しくは分からないが・・・。

『初代青龍の贄巫女』白鷺知世の忠実な忍であり・・・最愛の夫であった者。

2人の間には2人の子どもがいた。長男は母の姓である『白鷺』を継いだ、自分たち『青龍の守護の一族』の先祖。長女である妹は、一族を離れ、クロウとはまったく無関係な者へと嫁いでいった。それが・・・・今回の『青龍の贄巫女』大道寺知世の先祖。

『何やて!『初代贄巫女』の子孫・・・まてや、それやったら知世とお前は・・・』桜の家でケロちゃんが言いかけたこと。きっとケロちゃんは『知世とお前は親戚』と続けたかったのだろう。親戚と言えるほど、今はもう血は濃く繋がってはいない・・・しかし、先祖をたどれば、2人とも、白鷺知世とその忍の黒鋼にたどり着く。

ただの親戚ならばこんなに胸を締め付けられたりしない。

夢で見た2人の顔・・・確かに、夢の中の黒鋼と呼ばれた青年は、実際の黒鋼よりも幾分か年をとっているように見えたが、それでも彼は黒鋼と瓜二つ。

知世に至っては、本人といいようがないくらい、顔も声も雰囲気さえもが似ていた。

封印の中のモノが、自分を封じ込めた『守護者』と『贄巫女』へかけた呪いか。運命のいたずらか。数百年の月日を流れ、再び2人は同じ時代に同じ運命(さだめ)を背負って転生した。

黒鋼はベランダの手すりに額をのせて、ため息をつく。

夢に見るだけであのように悲しい気分になる。あれを現実で味わうなんて冗談ではなかった。

『贄巫女』に必要以上の情はかけない。愛することなど決してしない。

もし愛してしまったら、自分はどうすることも出来ないだろう。

初代のように自分の心を偽ることも・・・伯父がしたような行動をとることも決して出来ない。前者を選べば、『贄巫女』は一時の、自分は永劫の悲しみを味わうだろう。後者を選べば、間違いなく封印は決壊する。封印の中の『アイツ』を再び世に送り出してしまう。先代の『青龍の守護者』であった伯父は『青龍の贄巫女』を愛した。そして、後者の選択を選んだのだ。次代の『青龍の守護者』に期待して。

伯父は『贄巫女』が再封印の際に支払う対価に絶えられなかったのだ。自分と『贄巫女』を苦しめる対価に・・・だから『贄巫女』を連れて逃げたのだ。

一族の者達は伯父の行動を無責任だと罵った。それを聞くたびに、黒鋼は心の中で一族の者達に、自分たちは俺たち『守護者』に全てを押しつけてそれでお終いと思ってる。そんなあんたらが無責任だと罵った。

初代にも伯父にもなれない自分・・・。こんなにも弱い自分を何度心の中で呪ったことか。

本当はだれよりも『贄巫女』を大事にしたいと思っている。彼の魂が、血がそう騒いでいるのだ。その全てに抗って(あらがって)黒鋼は拒絶の道を選んだ。

今の状況も、苦しくて悲しい。

黒鋼はそのままベランダに座り込み、頭を抱えた。

黒鋼と知世が過去の夢に苦しんでいる頃。夜遅くで辺りには誰も見あたらないというのに。

そこには人影があった。

そこは友枝高校の西に位置する、友枝自然記念公園。緑豊かなその公園は昼には子供や奥様方で多いににぎわいを見せている。

月明かりに照らされて、そこに立って公園の真ん中にある池を眺めているのは、友枝高校の国語教諭であり、桜たちの担任の先生であり、『白虎の守護者』でもある、鳳凰寺風だった。

彼女は綺麗な髪を風に遊ばせ、ただ呆然と池を見つめていた。

(ここに来ると5年前を思い出しますわ・・)

ここは数百年前までは『白虎の封印』の祭壇があった場所。祭壇こそ今は無くなってしまっているが、現在もここに『白虎の封印は』存在する。

風は五年前にここで、再封印を行ったのだ。

『贄巫女』に選ばれたのは11歳のあどけない少女だった。

(今はもう16歳・・・黒鋼やファイ達と同い年ですわね。)

その少女には再封印が終了してから会っていない。

「こんな所にいたのか、風。」

後ろから声をかけられ、風はそちらを振り向く。声をかけたのは緑色の髪の男性。

「フェリオ・・・。」

フェリオと呼ばれた男性は、風の隣まで歩み寄ると、手に持っていたコートを風に羽織らせた。

彼もクロウの関係者『マクシミリオン家』の前代の当主であり、風の『近衛』でもあった。

再封印後、フェリオは『マクシミリオン家』を抜け、『鳳凰寺家』に・・・風に婿養子に入ったので、今は風の夫である。

「お前がここにくるなんて珍しいな。」

『近衛』であったフェリオは当然再封印の現場に居合わせた訳で、そのときの状況からなにまで全てを知っていた。

「ここにはいろいろと悲しい思い出がありますからね・・・。」

風は隣に立っているフェリオの肩に頭をのせる。

「彼らは『守護者』である前に、私の大切な生徒です。本当なら誰よりも幸せになって欲しい・・・彼らが『守護者』であるかぎり、それは叶わないのでしょうか?」

フェリオは答えることは出来ず、風の肩を慰めるように抱いた。

翌朝、知世は重い足取りで教室に入った。

昨日、家への帰り道に黒鋼に言われた言葉のショックよりも、とても他人事とは思えない、悲しい夢の方が、知世の心を蝕んで(むしばんで)いた。

「おはよう、知世ちゃん!」

桜は知世より少し遅れて、教室に入ってきて、知世に挨拶をした。

「・・・おはようございますわ。」

あきらかに元気がないと分かるような返事を返す。いつもなら、無理に笑顔の一つでも作って、桜を少しでも安心させようとつとめるのだが、今日はその元気すら無かった。

「どうかしたの?」

「・・・いえ。」

あきらかに「いえ。」という態度ではなかった。

「相談にのれることなら、何でも言ってね?」

「大丈夫・・・いいえ、相談にのって頂けますか?」

心配させたくなかったので言わないでおこうと思ったが、自分一人の心にとどめておくには、今回の件は知世には荷が重かった。

数分後、黒鋼とファイが教室に入ってきた。

「おはよう。ファイくん、黒鋼さん。」

昨日の黒鋼と知世のやりとりを知らない桜は、2人に明るく挨拶をした。

「おはよ〜桜ちゃん。」

「おはよう。」

ファイは明るく、黒鋼は呟くように返事を返す。

「・・・おはよう・・ございますわ。」

知世も挨拶をするが、黒鋼の顔を見る勇気はなかった。

「・・・どうかしたの?知世ちゃん。」

「・・・・なんでもありませんわ。もうすぐチャイムが鳴りますね?私、席に戻ってますわ。」

「え、あ、うん。」

知世は逃げるようにして、その場を離れ自分の席に座った。授業が始まれば、隣に黒鋼が座るかと思うと、少しだけ気落ちする。

(昨日の夢のこともありますし・・・まだ、彼と話すのは怖い・・・。)

そんな知世の様子を、ファイの席の近くから黒鋼は観察する。

「・・・彼女と何かあったの?」

「・・・別に。」

「・・・別に。」といった雰囲気では無いが、ファイはあえて深くはつっこまなかった。

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