Fanfic

四神の封印と四神の贄巫女

「・・・でも、具体的に何をすればいいの?」

自分たちが何をすればいいのか理解せずに、承諾したのだから、たいした心の持ち主だ。

「まずはボクらと『契約』をして貰うよ。」

「『契約』?」

「うん・・・桜ちゃん、ボクの手に君の手をのせて。心を空っぽにして・・・何も考えずに。」

桜は言われた通りにする。ファイの手のに自分の手を重ねたときに、今まで感じなかった莫大な魔力が、ファイから感じ取れた。酔ってしまいそうになるほどの魔力が・・・

「我、南天を守りし『朱雀』を守護する者。偉大なる先人の知恵、誇れる高き魔力をその身に宿すもの。封印の時は再び来たれり、『贄巫女』木之本桜の魔力と共鳴し、再び封印の力を我に・・・。我が名はファイ・D・フローライト。紅き不死鳥の守護者なり!!」

ファイと桜の下には複雑な魔法陣が浮かび上がる。魔法陣が紅く光ったかと思うと、その光は2人を包み、重ねられた桜の右手の甲に魔法陣と同じ紋様が刻まれた。

「契約完了・・・。」

「これは何?」

桜は自分の手の甲に刻まれた紋様をまじまじと見つめた。

「再封印をするには『守護者』と『贄巫女』の魔力の波長を合わせなきゃならないんだ。この紋様はその手助けをしてくれるんだ。」

「すごいな・・・」

小狼もケロちゃんも桜の手を覗き込む。魔法を知っている者から見れば、桜の手に刻まれた複雑な紋様は見事の一言だった。

しかし、知世だけは不安そうに顔をしかめた。

「・・・不安か?」

そんな知世の態度に気づいた黒鋼は気遣いの言葉をかける。『贄巫女』の精神が不安定だと、『契約』はうまくいかないのだ。

「・・・少し。」

知世は小さく頷いた。

「『契約』は後日にするか?」

知世が『贄巫女』になる意志があるのならば、契約はそれほど急がなくても良い。再封印までに行えばそれで良かった。

すぐに『契約』をするのは、紋様によって繋がれた『守護者』と『贄巫女は』は離れていても、お互いの危機を・・・魔力の流れの変動のを感じ取ることが出来るからだ。

つまり、『契約』をしていれば、知世や桜に何かあった場合はすぐに黒鋼達がかけつけられるということだ。

「・・・いいえ。中途半端なことはいたしませんわ。」

いまだ不安は消えないが、知世は『契約』を止める気はなかった。

「・・・これから『時空神の騎士』の方々が私達を狙うのでしょう?そんなことがあっては弱い私はすぐにでも挫けて(くじけて)しまう。『契約』をすれば、私はもう後には退けないと自覚しますわ。だから『契約』をします・・・。」

知世は桜がしたように、黒鋼に右手を差し出した。

黒鋼は無言でその手をとると、『契約』のため集中する。

桜のように魔力を感じることは出来ないが、何か不思議な感覚が自分を包むのを知世は感じた。

その感覚に、知世は不思議な既視感(デジャビュ)を感じた。こんな事をするのは初めてなのに・・・。

「我、東天を守りし『青龍』を守護する者。狂気の刃を携え、受け継がれし誇れる血を見に宿すもの。封印の時は再び来たれり、『贄巫女』大道寺知世の魔力と共鳴し、再び封印の力を我に・・・。我が名は白鷺黒鋼。咆吼轟く(ほうこうとどろく)水龍の守護者なり!!」

桜の時と同じように、紋様は知世の右手に刻まれた。

(これでもう、後戻りはできない・・・)

知世は自分に言い聞かすように右手を握りしめた。

全ての説明をするにはさらに時間が必要だったので、今日の所は『契約』を済まし、きりあげとなった。

桜はすでに家にいるし、もう少し小狼が側にいると行ったので、ファイはそのまま帰ることにした。

知世の方は歩いて家まで帰るつもりだったので、黒鋼が送っていくことになった。

これも『守護者』の仕事だと黒鋼は言った。『近衛』がいないので、『守護者』は封印だけでなく、『贄巫女』も守らねばならなかった。

しばらくは無言が続いていたが、桜の家から10分ほど進んだところで知世は口を開いた。

「先ほどの質問の答えを頂けますか?」

唐突にそう言われて、黒鋼は首を傾げる。

「封印の中には何がいるのですか?」

うまく話題をそらせたと思っていたのだが、どうやら知世は気づいていたようだ。

「あまり聞かれたくないようだったので、先ほどは口出ししませんでしたけど・・・。封印に眠っている者の具体的な名前を仰って下さい。」

知世は立ち止まり、黒鋼と向き合った。

「・・・・。」

黒鋼は答える気はない。

「貴方は私が、それを正義と言うと思っているのですか?貴方達とは違う答えを、私が持つとお思いですか?」

信じられていないようで、とても心が痛い。

「実際にそういう連中がいるんだ。お前が絶対にそう思わないとは限らない。」

黒鋼の言葉は残酷に知世の心を裂く。

「信じて下さなければ、私も貴方を信じられません・・・!」

「お前を信じるつもりもなければ、信じて欲しいとも思わない。・・・ただ守るだけだ。」

知世は息をのむ。目の前の少年はなんて酷い言葉をはくのだと。

「『贄巫女』となれ合うつもりはない。お前も必要以上に俺を知ろうとするな。」

「それでも『贄巫女』として貴方に協力しろと!?随分自分勝手ではありませんか!?」

胸が破れるほどに痛い。まるで長年信じていた者に決別の言葉を突きつけられたように。

「自分勝手で結構だ・・・。」

「・・・ひどい。」

知世は瞳に涙をためて、その場から走り去った。

黒鋼は走る知世を見失わないように少し間を開けて走る。追いついて謝罪の言葉を述べることもせずに。

知世が家に着いたことを確認し。家の周辺に護りのまじないをかけると、自分も家へと帰った。

知世は家に帰るとすぐに自分の自室へと駆け込んだ。手に持っていた鞄をソファに投げると、ベッドに飛び込むように倒れ込んだ。

涙を堪えるように枕に顔を埋めるが、喉からは嗚咽のような声が漏れた。

「ひどい・・・信じていたのに。・・・黒鋼。」

知世は自分の言葉に驚いたように顔を上げた。驚きのあまりに涙が止まるほどだ。

「私・・・今なにを?」

知世は自分ではない誰かの言葉が自分の口から出てきたように感じた。そうでなければ、知世が彼のことを『黒鋼』と呼び捨てにするわけがなかった。

知世はおそるおそる自分の喉に手を当てた。特におかしな様子はない。

知世はなんだか自分自身が怖くなり、体を抱きしめた。

その日は食事もろくに喉を通らず、母やメイド達に心配をかけた事に心を痛める。

作り笑いをする気力すら起きなかった。それだけか、言葉を発することも恐れた。また、自分のものではない言葉が出てきそうで・・・。

知世は8時頃にはすでにお風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。酷く疲れたので、早く寝て気持ちを少しでもすっきりとさせたかった。

疲れのせいもあって知世はすぐに深い眠りに落ちた。そして、ある夢を見る・・・。

昔のお姫様のような服を着た、自分と瓜二つの少女と、黒い服に身を包んだ、黒鋼と瓜二つ・・・いや、今の黒鋼を成長させたような青年の夢。

少女は縋るようにして青年を離さない。

『嫌です。何故そのような事を言うのですか!?答えなさい!』

少女の瞳から流れる涙は絶えることはない。

『「贄巫女」としての役割を果たすと言ったのはお前だろ。』

青年は淡々と語るが、とても辛そうに少女を見つめている。

『こんなこと貴方は言っていなかった!!だから私は承諾したのです。』

『真実を話したら、お前は「贄巫女」にならなかっただろう?』

『当然です!!私は絶対に嫌です!貴方を・・・るなんて!』

少女の言葉はノイズのような音でかき消される。

少女が一体何をそんなにも嫌がっているのかが分からない・・・。

『貴方は・・・貴方は私をわ・・・のが嫌ではないのですか?』

嫌にきまっている!青年の瞳がそう叫んでいた。しかし、それを声に出すことはない。

『・・・ああ。』

少女は青年がきっと自分の言葉を否定してくれるだろうと期待していた。しかし青年はそれを裏切ったのだ。少女の瞳が絶望色に染まる。

『ひどい・・・信じていたのに。・・・黒鋼』

夢の中の少女の台詞に知世は驚く。先ほど自分の口からでた言葉と同じだった。

そして、青年が黒鋼と呼ばれていることにも・・・。

少女はその場に崩れる。もう立ち上がるのも、顔を上げるのも無理だった。

そのとき、今まで見ていた夢の場面は一瞬にして切り替わった。

祭壇のような所に、先ほどの青年が少女を抱えて立っていた。

抱きかかえていた少女を祭壇の上の台に寝かせる。少女の閉じられた目が開くことはない。

寝ているのか気絶しているのか、胸が規則的に上下しているので、生きていることは確かである。

先ほど少女に黒鋼と呼ばれた青年は、自分の腰に差してある刀を抜き取ると、少女の上にそれを掲げ、呪文の詠唱を始めた。

詠唱の内容はノイズが酷すぎて、聞き取ることが出来ないが・・・。

青年が詠唱し終わると、一つの蒼い紋様が浮かび上がった。その紋様は少女の中に取り込まれたかと思うと、すぐに少女から出てきた。その紋様が先ほどより深い蒼に染まっているのはきっと気のせいではないだろう。

深蒼(しんそう)の紋様は少しずつ上昇していき、祭壇の一番上にある青龍のレリーフの中へと消えていった。

『・・・封印完了・・・。』

台に寝かされた少女の閉じられた瞳からは一筋の涙が流れ落ちた。

黒鋼は台に腰かけると、少女を体を起こし抱きしめた。そして、目尻にキスを落とし涙を拭き取ると、少女の耳に小さく呟いた。

『愛してる、知世・・・さよならだ。』

黒鋼は知世と呼ばれた少女を再び台に寝かせると、自分の纏っていたフードを脱ぎ、知世にかけてやる。

そしてそのままその場をさった。

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