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A STORM OF THE PLANET

サクラから引き離された柚姫達の周囲で起こったのは、それから暫(しばら)くした時だった。

「何者だ?」

彼等の前方を歩いていた兵士が立ち止まり、誰かが声を上げる。

目の前に現れたのは一人の青年であった。銃を持つ数十人の兵士の正面から豪胆(ごうたん)にも堂々(どうどう)とやって来たのだ。

「味方じゃないのは確かだぜ」

褐色(かっしょく)の肌と黄金の髪の青年はそう言って嘲笑(せせらわら)う。一瞬、気勢(きせい)を削(そ)がれた兵士達は銃を構え直した。

彼は連れていた黒馬の手綱(たづな)を傍(かたわ)らの大きなライオンに渡す。

「持っとけよ、雷王。そいつは大事なお届け物だからな。離したらメシ抜きだぞ」

主人の言葉が分かるのか、グルルと唸(うな)り、雷王は手綱をくわえる。

「さて・・・と」

青年は呟(つぶや)き、肩に手をかける。空が切れ、白刃が光を撒(ま)き散(ち)らした。

「貴様、誰だ?」

「・・・見て分からんか?敵だよ」

人を喰った答えを返し、青年は無造作に長剣を振るった。発砲(はっぽう)した銃弾が床に弾け、銃を取り落とした二人の兵士が床に這(は)う。

「早く逃げろ!」

空気に沸き起こった殺気(さっき)の中、兵士達の輪を破った青年は諸侯達に言う。近くの一人を斃(たお)し、それが持っていた剣を投げ渡した。それは柚姫の手に落ちる。

「取られた剣はそいつだろ?さっさと行きな」

「しかしお前は・・・」

剣を抜き、柚姫は訊(き)く。他の者もそれぞれに自分の剣を取り戻した様だ。

「お前達はやらなくちゃいけない事があるだろう?心配すんな、貸しにしようなんて思っちゃいない。こいつはサービスだ」

王城(おうじょう)を出て行こうとする諸侯を背に、兵士達と対する青年の足元にはもう六人目の兵士が倒れ込んでいた。それでもまだ柚姫は立ち去らない。

「サクラ殿がまだいるのだ、助けに行かないと」

「そうじゃ、キノモト様を助けねば儂(わし)は死んでお詫(わ)びするしかない!」

男は不敵な笑みを浮かべ、ターバンを取った。黄金の光が流れる。彼はオルシーターの戦いで裏切ったザガードを切ったあの青年だった。

「銀月など存在しない人間だ。私の任務が終われば消え失せる・・・彼の存在を気にする者は一人もあってはいけない。諸侯の怒りを買い、この戦いの終結末はティハーンの王に除名されて全てが収まる・・・」

「ほう・・・あれは自己処理の為の演技か・・・それにしては含みの多い・・・」

青年はいわく有り気な表情で言う。銀月は顔を上げた。

「何が言いたい?」

「いーや、何も」

飄々(ひょうひょう)と言ってのける青年を見る銀月の目がふと険(けわ)しくなる。

「・・・それにしても何故この星にお前がいる?否、お前達が・・・・・・ここにはお前達の利益(りえき)になるものなどない」

「あ、そういう偏見(へんけん)は許(ゆる)し難(がた)いな・・・確かに物理的なものはないが真理的に利となるものがあるんだよ、ここには」

「・・・それがガーディン軍の勝利か・・・?分かったぞ、オルシーターでザガードを始末したのはお前だな」

「大当たり」

包み隠さず応じる青年の性格に順応(じゅんのう)し難いものがあるのか、銀月はこめかみを抑えた。

しかし青年のそれが自分に対してのみされているという事実に気付いているのだろうか。

自分一人だけがからかわれていると知ったら、それは確かに不幸に違いなかった。

「"彼"も来ているのか・・・?」

不意にも銀月の口調が変化する。青年はそれが分かるのか、やや間をおいて返答した。

「・・・・・・ああ」

そして余計な事と思いつつ、付け加える。

「お前にとっては敵だが、今回ばかりは邪魔されると困る。お前がその気ならば・・・」

青年は背中の剣を鳴らした。それがただの脅(おど)しでないのは明らかである。

銀月と呼ばれる特殊任務官は無言だった。やがて額に手をやり、ティハーンでは正装(せいそう)の一部とされている銀の額飾(ひたいかざ)りを引(ひ)き千切(ちぎ)る。その中央に輝く紅玉石を取り、青年に放った。

それを受け取った青年は宝石の中に小さな金属片(きんぞくへん)を見出し、眉を顰(ひそ)める。

「いいのか?アルカディアでの情報が失せるぞ」

「私の頭に全て入っている・・・私の今回の任務はアルカディアを護る事であってお前達を捕(と)らえる事ではない。が、後で何かと煩(うるさ)いし、面倒だからな・・・戦いの間に壊れた事にする」

無論(むろん)、そんな事が有り得ないのは充分承知(じゅうぶんしょうち)の上だ。

「・・・私は超過労勤務が嫌いでね・・・特別だ、見逃してやる」

彼女と共にいた長庵も負けじと訴える。青年はこめかみを抑えた。

「・・・大丈夫だ・・・あそこは。ガーディン自治王は必ず戻る・・・・・・だから早く行ってくれ」

「しかし・・・」

青年は彼等の肩を軽く押しやる。それでどうやら決心がついた柚姫と長庵は諸侯の後に続いた。それを見咎(みとが)めた兵士の一人が銃を構える。

「ぎゃあっ!」

派手な叫びが上がり、その手から銃が落ちる。それを見やった青年はヒュウと口笛を吹いた。

「よぉ、珍しいな。お前がここに来るとは」

「別にお前の為に来た訳ではない・・・これも"任務"だ」

青年の揶揄(やゆ)に特殊任務官は無愛想(ぶあいそう)に応じる。尤(もっと)も、その表情の殆どはスクリーングラスの下に隠れていたが、どちらにしろ変わりはない。

黒服の青年は捩(ねじ)り上げた兵士の腹に蹴りを入れ、床に這(は)わせた。

髪をかき上げ、走り去る柚姫達の後ろ姿を見送る。その表情はつい先日まで彼等と共にいたという感慨(かんがい)はない。

「"GAE・A"の侵略(しんりゃく)を防ぐのが役目・・・これ以上アルカディア人を彼等の手にかけさせる訳にはいかんのだ」

「・・・お前本当に真面目な奴だな・・・」

「彼等の腕は信用できるが、"炎獣王"という者は少し心配だからな・・・つい手を出したくなった」

「へいへい・・・有難い事で」

ぼやきつつ炎獣王は剣を振る。白刃の先で光線銃の光が弾けた。

Gは緩やかに右腕を伸ばす。光が散り、水晶の如く透明な刃がその手甲から生えた。

「ところでオドアの自治王さんの件は手際(てぎわ)良かったな。お陰で役に立った」

「当然だ。だがこの先は手を出さんぞ」

早く行け、と特殊任務官の青年は顎(あご)をしゃくる。

「そりゃどうも。俺も届け物があってなぁ、手伝えなくてすまんな」

「・・・お前がいなくとも充分だ」

「あ・・・・・・そ・・・・・・」

炎獣王は雷王から手綱を受け取り、飛び乗る。

「行くぞ、黒鹿馬。お前の新しい御主人様に会わせてやる」

黒馬は嘶(いなな)き、走り出す。その馬は都市ガーディンで"ケイ"という青年が助けた馬だった。回廊の向こうへと駆け去る姿を視界に止めながらGは低く呟(つぶや)く。

「"GAE・A"も愚(おろ)かな・・・"私"ならばまだ救いがあっただろうに・・・」

彼の腕は刃を構え、兵士達の中へと駆け出した。

破裂音が響き、火薬の臭(にお)いが周囲に立ち込める。

帝国――――"GAE・A"の者達は大変な者を呼んだ事を改めて思い知っていた。

発砲(はっぽう)された弾や光線は彼の周囲でことごとく止められ、虚しく反射する。弾幕(だんまく)の中に青年は平然と立っていた。

「無駄だ、俺には"護り"がいる・・・以前の様にはいかないぜ」

彼等は改めて戦慄(せんりつ)する。

帝国の者ならば少なからずこの男の名は知っていた。

宇宙を自由に駆(か)け巡(めぐ)り、神出鬼没(しんしゅつきぼつ)。時には人々の力となり、時には武器や財宝(ざいほう)を積んだ船を襲撃(しゅうげき)する。気まぐれで、だが勢力を頼む国家には決して屈(くっ)しない流れ者の集団。海賊(かいぞく)と呼ばれる集団の中でも最も畏怖(いふ)された・・・。

それを取り纏(まと)め、名を帝国のブラックリストに掲げられているのがこの男なのだ。

過去、幾度(いくど)となく帝国や他の組織に命を狙(ねら)われたにも拘(かかわ)らず、今まで生きているという事実は、どんな者でも恐れを抱かずにはいられない。帝国の一艦隊(いちかんたい)を炎の中に沈めたという伝説さえも存在していた。

だが彼等は疑問を抱かずにはいられなかった。

「・・・何故だ?何故あの"星見の孔雀"がこの星を守護するのだ?」

冷酷(れいこく)な者の代名詞とまで言われたこの男が、亜空間(あくうかん)の一つある星に自ら出向いてまで護(まも)ろうとするなど彼等には考えられない事であったのだ。彼を敵とする帝国の者に、孔雀の意外な素顔など分かる筈もない。

「・・・昔・・・この星を護ろうとした男がいた・・・その者は死んだが"夢"は残った。それはこの俺にとってどんな貴石(きせき)よりも重要な宝だったのだ・・・」

その経緯(いきさつ)をサクラは知らない。けれどもその男が彼女の父クロウ=リードであるのは確かだった。

孔雀は一旦(いったん)言葉を切り、顔を上げる。

「だが貴様達がアルカディア次元域の狭間(はざま)に空雷網など仕掛けなければ、本気で手出ししようとは思わなかったがな。狡猾(こうかつ)な真似のお陰で俺の愛しい船に傷が付いてしまった・・・」

そして彼自身、思いがけない傷を負わされたのだが、それは口にしなかった。

「俺が手を出さずとも特務官が動いていたが・・・俺自身許せなかったのだ・・・」

彼の隻眼(せきがん)に不思議な光が浮かぶ。異様な音が響き、床に溝がはしった。その溝の下に鈍(にぶ)い金属光を見て取り、笑みを湛える。

「・・・やはり・・・な。この城は、都市は貴様等帝国の墓地(ぼち)か・・・・・・良く出来ている」

孔雀は片手を翳(かざ)す。目を覆う閃光が一瞬起こり、彼は五指を閉じた。

「・・・俺とキルトは欠けたものを補(おぎな)う片割れ同士・・・キルトは俺の失った片目であり、心であり、"護り"である・・・ならば俺が"力"であっても不思議ではなかろう?」

彼の手の中で闇の色をした一振りの剣が輝いた。孔雀はそれを床に突き立てる。

ドォッ・・・

床が大きく波打ち、床石を突き破って無数の金属板が生える。

剣の力によって砕け、床から突き出たのだ。

「・・・何もかも・・・滅びるがいい・・・」

「馬鹿な、たかが一人の力でこの墓地が壊れるものか。それに王城には同盟の諸侯も捕らえてあるのだぞ」

星史郎の虚勢(きょせい)を張った言葉は、広間の扉を蹴飛ばして現れた青年に阻まれた。

「残念だな、皆さん揃(そろ)って陣に帰ったぜ。今頃はガーディン軍全部が都市から出た筈だ」

「何っ・・・!」

炎獣王は馬を引いてサクラ達に近付く。

「さあ、お前達の番だ。こいつに乗っていけ」

小狼に手渡し、彼は傍らの雷王の鬣(たてがみ)を撫(な)でる。

「この雷王さえも恐れなかった名馬"黒鹿馬"だ。信用に値するぜ」

「有難い」

先に話が成り立っていたのか、小狼は礼を言い、黒鹿馬に飛び乗る。そしてサクラに手を差しのべた。戸惑うサクラの背中を誰かが押す。

「孔雀・・・」

「・・・行けよ・・・この星は俺を必要としないが、お前は必要だ・・・強くなれよ、サクラ」

「・・・はい」

サクラは青年を見上げ、笑顔を浮かべる。そうしないと涙が零れそうだった。

小狼の手を取り、彼女は馬上へと上がる。

そんな小狼にも孔雀は声をかけた。

「よぉ、色男。サクラはクロウの大事なお姫様だからな。絶対離すんじゃないぜ」

赤面する青年を茶化し、孔雀は言う。

「行け!これからが全てだ」

城の床が、壁が微(かす)かに揺れている。孔雀の力がこの要塞に影響を及ぼしているのだ。

首を返す黒鹿馬の背でサクラは振り向いた。

「孔雀!・・・黒い羽根のお兄ちゃん。私、絶対父さんを越えるから・・・!」

彼女の声に孔雀は親指を立て、不敵に笑う。悲しみではなく、心からの笑顔を焼きつけ、サクラと別れた。

広間を出た黒鹿馬は二人を乗せて猛然(もうぜん)と駆け抜けていく。サクラは小狼の胴にしっかりと両腕を回し、背中に顔を埋(うず)めた。これは絶対に離さないからなと心の中で思いながら。

彼等が王城を出た瞬間、膨大(ぼうだい)な質量の光と力が王城を縦に貫(つらぬ)く。

それは数秒後には凄(すさ)まじい破壊力と化した。

・・・暁の嵐 吹き渡る時

輝ける刃無き剣を携え

その者 暗き翼にて降り来るなり・・・

・・・王都は燃え上がり、そして新たなる歴史が動き出した・・・

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