Fanfic

A STORM OF THE PLANET

王都はアルカディアの大陸の南西に位置する巨大な城塞都市である。

堅固(けんご)な城壁(じょうへき)に囲まれ、四方に大きな門を配しているこの都市は生活空間よりも軍事目的の色が濃い。

元来(がんらい)、王都はこのような都市ではなかったのだが、エリオルが王となってから住民は強制移住(きょうせいいじゅう)させられ、巨大な城塞に造り変えていた。

今、住居(じゅうきょ)であったものは複雑な迷路と化している。

唯一王城へ伸びる大路道は多くの人々によって埋められていた。

都市ガーディンを代表とする大同盟軍である。

彼等は数日前、和平交渉にまで行き着いて王都にやって来たのだ。

「・・・っかしまあ、薄気味悪(うすきみわる)い都だな・・・」

駐留(ちゅうりゅう)する軍の兵士が槍を片手にぼやく。隣の兵士が空を見上げながら応じた。

「そうか?別に普通の街並みだし、天気だってこんなに青空なのにか?」

「でも良く見てみろよ。ここには住んでる奴どころか、犬っ子一匹いない。こんな都なんざ俺は生まれてこのかた見たことないぜ」

「・・・そう言われてみれば・・・なあ」

兵士は気味悪そうに辺りを見回す。

「・・・まあ、領主様達が戻ってくれば、こんな所ともおさらばだからな・・・」

彼等はそう言って大路道の向こうに見える城に目をやった。

そこにはガーディン自治王以下七名の諸侯とそれを守るオドアの兵士三十名が居る筈である。

とにかく、それが無事に帰ってくるまでは彼等はここで待ち続けるのだった。

巨大な回廊の石畳の奥へと足音が吸い込まれていく。

何年振りだろう、とサクラは思う。以前この王城の回廊を歩いたのは父が病で死んだ時であった。

父と引き離されて歩いた回廊は大きく暗く、その心細さにハープを抱え泣き出してしまった覚えがある。幼い自分に回廊は余りにも冷たく、非情であった。

そして今、彼女はアルカディアの現王エリオルと会談する為に、案内人に先導されながら多くの随員を従えている。

――――・・・大した成長だな・・・。

けれどもやはり回廊は冷ややかで無情であるようにサクラには見える。尤(もっと)も、あの時は淡い髪と琥珀の瞳をした少年が手を差し延べてくれたのだが。

今はもうそうして頼る者などいない。自分の足で立ち、歩まなくてはならないのだ。

同盟軍の代表達は回廊を進み、大きな扉の前に立つ。扉が開き、巨大な謁見(えっけん)の間が彼等の前に広がった。

連立する柱と美しい装飾が施(ほどこ)された壁に囲まれた大ホールは、王の威厳と権力を集結させたものの様に彼らの目には映る。

そのホールの中央に位置する王座にアルカディアの現王はいた。

「良く来たな、同盟の諸君」

高官達に囲まれた王が低く、威厳に満ちた声で言う。

「エリオル王・・・?」

サクラは両目を見開いて王座に座る者を見た。

確かにそこに居るのはアルカディア王エリオルである。

以前、父の葬儀(そうぎ)の時に会った彼とは同一人物だと彼女の記憶は報(しら)せる。が、どうしてもサクラには信じられなかった。

何故ならばこの目の前に居る男は、幼い記憶の中の姿そのものだからだ。将軍であった頃の顔と肉体を持つ男の上に多くの歳月が降り積もっていなかったのだ。

アルカディア現王は全く歳(とし)を取っていなかったのだ。

自分を見上げるサクラの表情を見て取ったのだろう、エリオルは薄く笑った。

「・・・どうしたのかね?キノモト殿、私が余りにも変わっていないのが驚きかね?」

「・・・・・・」

サクラはそれを沈黙で通す。今はそんな事を詮索(せんさく)する時ではなかった。

広間に進み出た彼等にエリオルの声が再びかかる。

「皆の護衛、御苦労であった・・・本来の任に就くがいい、ラファーガよ」

「はっ・・・・・・」

諸侯の中から不審(ふしん)なざわめきが上がった。エリオルの言葉に頷いたラファーガが兵に合図を送ったのだ。不快な金属音が起こり、兵士達は隠し持っていた銃を彼等に向ける。

「どういう事だ?オドアの自治王殿」

諸侯の一人の叫びにラファーガは嘲笑(ちょうしょう)で答えた。

「見ての通りだ。お前等の自由は我等(われら)によって拘束(こうそく)された。二度とアルカディア王エリオル様に逆わらない様にな」

「裏切り者っ!」

「何とでも言うがいい、気付かぬ者が悪いのだ」

「ラファーガ!」

怒りを両目に閃せ、柚姫は剣の柄に手をかける。そんな彼女に複数の剣が一斉に向けられた。

「止めろ!」

凛とした声がそれらの行動に終止符を打つ。そうさせた人物は彼等の輪から進み出てアルカディア王を鋭(するど)い目で見据(みす)えた。

「・・・この様な暴挙(ぼうきょ)に出てまでして何を望むか。王よ、貴方の敵は私であって他の者ではないようだ。ならば私一人で充分だろう」

「サクラ殿・・・!」

「ほう・・・流石(さすが)は英雄王の嫡子(ちゃくし)だ、良く分かっているな。だが私はその後ろの者達も充分に必要な者なのだ」

エリオルはサクラ以外の捕囚(ほしゅう)を指差す。サクラは王の言わんとする意味を悟った。

「・・・人質として使うつもりだな」

「そう言う事だ」

「連れて行って鄭重(ていちょう)に持て成せ」

エリオルが命じると数十人の兵士達の銃が上がる。

「キノモト様!」

強制的に退出された初老の男が彼女の名を呼ぶ。

サクラは老いた中臣に淡い笑顔を向けた。

「・・・後は頼んだぞ、長庵」

広間の巨大な扉が閉まり、彼等の姿はサクラの視界から消えた。永遠に、かも知れなかったが何故か心の中は平静であった。 危機が大きい程、冷静でいられるのは父親譲りなのかも知れない。

「さて、どうする?ガーディンの自治王サクラ=キノモトよ。ここにはお前の味方となる者は居ないぞ」

アルカディア王が言うまでもなく彼女の味方はこの場にはいなかった。

「・・・だが私には力がある。・・・この若さも力の一端(いったん)だ。私はこの力で永遠とも呼べる時を生き、アルカディアを支配していくだろう」

エリオルは笑う。有り得ない様な事を誇りながら、この男には微量(びりょう)の冗談さえも含まれていなかった。

一体何がこの男をそれ程までの言葉を言わせるのか。サクラには計り知れない。

「・・・私にも情けというものはある。もしもお前が外の兵を引き、私に従うと誓うならば、ガーディン軍の自治だけは認めてやっても良いぞ。勿論彼等も解放してやろう・・・私は流血(りゅうけつ)は好まぬ、お前が首を縦に振ればこれ以上の流血はない」

そう語る王の両眼に熱が帯びる。

「・・・私の力は強大だ。この王座に居て指一本動かすだけでお前も外の兵士達も皆殺しに出来る。私には剣などという野蛮(やばん)な武器ではない新しい力でアルカディアを支配するのだ。もう戦士の時代は終わったのだよ。サクラ=キノモト」

「笑止(しょうし)」

サクラは王の饒舌(じょうぜつ)を一蹴(いっしゅう)した。予想もしない答えに王は鼻白(はなじろ)む。

ガーディンの自治王である少女はキッと王座の人物を睨(にら)み上げ、ホール中に通る声で言った。

「王よ、それが貴方の言い分か?ならば私も諸都市の意向を伝えよう。我等は自由民であり決して専制に与しないとな!」

「何っ・・・・・・?」

「確かに貴方の力は強大なのかも知れない。だがそれは王としての力では無い、簒奪者(さんだつしゃ)の力だ。人々を騙(だま)し、欺(あざむ)いて生まれた力に永遠などあるものか・・・・・・!王よ、貴方はさっき私に味方は無いと言いましたね。けれども貴方がこの空虚(くうきょ)な牙城(がじょう)から一歩出れば、王よ…貴方に味方など無い!」

サクラの言葉は鋭く、辛烈であった。それはアルカディア王の心に短剣を突き立てる。

威厳のあった覇王(はおう)の表情が怒りに満ちた。

「貴様・・・」

「アルカディアの為とは言わない。私は私自身の為に戦ってきた。外に集う者達も自分の為に戦っている・・・貴方の力を以(もっ)てそれを抑(おさ)えられると言うのか?」

「黙れ!」

「例え貴方が私達を抑えたとしても、貴方の言う支配が完成したとしても、必ず誰かが立ち上がり貴方を倒す・・・私は死んでも希望は残る。だが王よ、貴方には一体何が残るのだ?」

「黙れぇっ!」

エリオルは王座(おうざ)から立ち上がった。階段を降りながら腰の剣を引き抜く。輝く白刃をサクラに向け、アルカディア王は宣言(せんげん)した。

「最早(もはや)話し合いの余地はない。この場で剣の露となれ・・・だがお前にも機会を与えてやろう。剣を抜け!」

黙ってサクラは剣を抜く。それを構えた瞬間、王同士の戦いが始まった。

ギィッ・・・・・・ン

エリオルの振り降ろす剣をサクラは刀身で受ける。力を十分に流した筈なのに彼女の腕に小さな痺(しび)れが残った。噂(うわさ)に聞く以上の力にサクラは剣を強く握り締める。

「くっ・・・・・・」

エリオルが繰り出す剣撃は速く、強烈(きょうれつ)なものだった。サクラは二度三度と剣を受ける度(たび)に腕の痺れが大きくなるのを知る。このままでは遅かれ早かれエリオルの宣告通りになってしまうだろう。

だがそのはるか手前で、彼女の腕よりも先に剣がその限界を越えてしまった。

ギィ――――ン

一際(ひときわ)大きな音と共に砕けた金属の破片が周囲に散る。折れた剣が床を叩いた。

「・・・・・・!」

「死ねっ・・・!」

エリオルは剣を上段に振り上げる。サクラは中程から折れた剣でそれを食い止めようとした。それは誰の目にも無謀(むぼう)に見えたに違いない。

だが、正(まさ)にエリオルが剣を振り降ろそうとした時、サクラの耳にその声が届いた。

「サクラ!」

聞き慣れた声にサクラは剣を捨て、飛び退(の)く。エリオルの剣が空を斬り、代わって別の剣が軌跡を描いた。サクラの持つ一振(ひとふ)りの剣が。

それは彼女を呼ぶ声と共に投げ出された剣であった。彼女はそれを摑(つか)み、突き出したのだ。

ドッ・・・

きらめく剣が突き立ち、アルカディア王は大きく目を見開く。

その数瞬後、彼の体は剣を生やしたまま床に崩れた。

一連の動きと同時に、周囲にいた高官(こうかん)の一人が服の間から銃を取り出す。エリオルを斃(たお)すサクラに標準を向けた男はその腕を捩(ね)じ上(あ)げられて叫んだ。

そんな事も気付かず、茫然と床に倒れる王を見下ろすサクラは自分を呼ぶ声を聞いた。

「サクラ」

いつ現れたのか、彼女に駆け寄る青年の姿を目にしたサクラは信じられないという表情を作る。

「・・・小狼?」

青い鎧(よろい)を身にした青年は肩で息をつきながらサクラを見た。

恐らくこの場に合う為にやって来たのだろう。そう思った瞬間、サクラは青年に縋り付いていた。

「・・・すみません・・・ガーディンから・・・全速力で馬を走らせたのです・・・が・・・」

申し訳なさそうな声が彼の鼓動と共に少女の耳に響く。サクラは小狼の胸に頭を埋め、呟く様に訴えた。

「・・・遅いじゃないか・・・このままだったら・・・どうしようかと思った・・・」

そう怒る彼女の声が震えているのに小狼は気付いていた。

昔、この王城で一人の少女を言葉で慰(なぐさ)めた少年は、今度は何も言わずにその細い体を強く抱き締めたのだった。

▲Page Top(T)

←Back(B)

© 2003-2006 sarasa