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A STORM OF THE PLANET

現アルカディア王エリオルからの親書(しんしょ)が届いたのは、オルシーターでの死闘(しとう)が終結し、勝利したガーディン軍がひと心地ついていた翌日の夕刻であった。

親書の内容はガーディン軍との和平を申し入れるもので、これは諸都市にとって願ってもない話だった。交渉次第(こうしょうしだい)ではかなり有利な自治を認めさせる事が出来るだろう。

この親書に死闘を行き抜いた諸侯達の表情も多少暖和(だんわ)した。

しかしやはり用心に越した事はないので、彼等は日時やそれまでの情報のやり取り、和平等の人選を協議し始めたのだった。

ガーディンの自治王たるサクラは勿論の事、その他に随員(ずいいん)や身辺を護る兵士も選ばなくてはならない。何と言ってもまだ戦争が終わった訳ではないのだから。

随員に白狼卿こと柚姫や長庵公など数名の者が決まり、その内の一人、オドアの自治王ラファーガの希望で彼の親衛隊が護衛軍として就く事になった。

会議中ティハーンの自治王代理の青年は天幕を支える柱の一つに寄り掛かり、両腕を組んだまま終始無言(しゅうしむごん)であった。それを目にした者に意見を求められた時、そのままの姿勢で素っ気無く言い放つ。

「別に異論はない。随員として選ばれたのなら有難く受け入れよう・・・だが護衛が一都市の兵だけであるのは戴けない」

それに誰よりも早く反応したのは、言うまでもなく兵を出そうといったラファーガであった。

「何故かね?ティハーンの自治王代理殿。私の申し出に何か御不満かね」

「・・・否、誰が何と言おうと関係はない。ザガードの例もあると言いたかったのだ」

「では私がザガードと同じく裏切るというのかっ?」

ラファーガは両目に怒りを堪(こら)えた。忠告(ちゅうこく)じみてるとはいえ、暗に裏切りを示唆(しさ)されたようなものだ。当然の如(ごと)く誇りを傷付けられた武将は自分よりもはるかに線の細い青年に詰め寄る。

「何の権限(けんげん)があって自治王を中傷するのだ、貴様は!気に入らんのならそうとはっきり言ったらどうなんだ?」

「・・・・・・そうした可能性がある・・・・・・ただそれだけだ」

オドアの自治王の目にもやらず、銀月は気だるそうに両目を伏せる。彼はついさっきまで戦闘で負傷した兵や被害などを視る為に奔走(ほんそう)していたので、疲れているだろうが、受け止めによっては相手に歯牙(しが)にもかけていないとも言えた。

「貴様っ・・・・・・」

「止めろ!」

周囲の制止も耳に入れず、激発したラファーガは拳(こぶし)を振り上げる。いくら素手とはいえ、豪将と呼ばれる男の拳を受ければ、背にしている柱もろとも銀月は吹き飛ばされてしまうだろう。

だが男の渾身(こんしん)を込めた拳は青年に届かなかった。

誰が止めた訳でもない。が、ラファーガの拳は青年の顔から十数センチの所で停止していた。それが明らかに不自然であるのは、男の筋肉の動きからも窺える。

銀月は伏せていた瞼(まぶた)を上げる。その表情が人間味に欠けていたように思えたのは、単なる偏見(へんけん)だけではなかったのかも知れない。

「・・・私が居ては会議の邪魔(じゃま)になりそうだ・・・退出(たいしゅつ)致そう」

「待ちなさい!」

礼儀正しく天幕から出て行く銀月の背に鋭い声が懸かる。

それは北方の美しい女王の口から放たれたものだった。彼女の瞳は異名(いみょう)に相応(ふさわ)しく連結した光に満ちていた。

「・・・本当にお前は修正不可能な性格の持ち主だな、一体どうしたらその様な言葉が出るのか知りたいものだ。平地に乱を起こして何が楽しい?・・・恥を知れ!」

周囲で聞く者やラファーガでさえ息をのむ苛烈(かれつ)な弾劾(だんがい)であった。

柚姫は正面から銀月を見据(みす)える。が、彼女が得たのは戸惑いと驚きだった。

無感動なまでに平然とした彼の瞳は感情のうねりなどなく、恐ろしい程澄んでいたのだ。

まるで全てを始めから知っている様な予言者の目だと柚姫は感じる。

「・・・・・・失礼」

天幕の一部が揺れ、ティハーンの自治王代理は彼等の前から姿を消す。それにより何人の者が安堵(あんど)の溜め息をついたかは定かではなかった。

天幕を出た銀月は小さく息をつく。

歩きかけた足が不意に立ち止まった。立ち竦(すく)んだ彼の瞳に長身の男が映る。

男は砂漠の民独特のマントを羽織(はお)り、頭にはターバンを被(かぶ)っていた。その顔は銀月は視認(しにん)出来ない。身構(みがま)える銀月に近付き、肩が擦(す)れ合う程の所で男は囁(ささや)く様に言った。

「・・・彼等と争いを起こすとは・・・腕が落ちたものだな・・・・・・えぇ?"G"」

「・・・・・・!」

「それともお前が事の仕掛(しか)け人か?・・・お前一人で星一つ征服(せいふく)するのは事もないからな」

銀月は沈黙したまま歩を進める。男はマントを翻(ひるがえ)し、その後をついて行く。人目の少ないテント郡の裏で初めて彼は振り返った。ここならば自分達の話が聞こえないと判断しての行動だった。

「我々は事を闇から闇へ葬(ほうむ)るのが"任務"だ・・・だがあくまで次は無いぞ」

銀月は言い捨て、踵を返す。青年は紅玉石を握り締め、薄く笑った。

「御協力、感謝するぜ・・・"G"」

「お前達が居るならば私の出る幕は無い・・・利用させてもらうだけだよ、"炎獣王"」

彼は振り返らずに歩み寄る。恐らくは銀月として最後の仕事をするのだろう。

「・・・全く、大した奴だ・・・・・・だが悲しい人種だとは思わんか?特殊任務官というのは・・・」

天幕の間に消えて行く青年を見送り、炎獣王は独白(どくはく)する。

それを誰よりも感じているのが彼自身である事を、この黄金の髪の青年は直感的(ちょっかんてき)に知っていたのだった。

夕闇が辺りを包み、風が静かに吹き渡る。

野営地の天幕の間で焚火が揺らめき、兵士達は銘々に戦いの疲れを癒し、寛(くつろ)いでいた。

サクラは一人で草の上に腰を下ろす。連日の戦いで着慣れた鎧が小さく鳴った。これを脱ぐのは一体いつなのだろう。

指が傍(かたわ)らの草に絡み、葉が一枚引き抜かれる。サクラはそれを唇に当てた。高く澄んだ音が指の間から零れ、風の静かなざわめきと調和して流れる。

高く低く、疲れ切った者達を労わる様に、癒す様に音色は紡がれる。

遠い日の彼方 落ちる星・・・

父だけが知っていた異国の詩・・・歌ったのは誰?

黒髪の青年、飛ぶ鳥の様に自由奔放で、自治王であるサクラに対しても決してそれを変えずに笑っていた。それでいて時折、瞳に悲しみを孕(はら)ませて遠くを見ていたのは何故だろう。

何者だろう?そして今何処に居る?

ふとサクラはガーディンに残してきたもう一人の朋友(ほうゆう)の顔を思い出し、草笛を吹くのを止めた。

「・・・大丈夫だよな・・・私より優秀だし」

どう見ても貴族の様に繊細(せんさい)な容姿に騙(だま)される者が多いが、彼女にとって最も信頼のおける青年の姿が脳裏に浮かぶ。今回の出兵で彼がガーディンの守りに残ると決まった時、多くの臣下が不安気な顔をしたものだ。

勿論彼が智においても剣においても誰にも負けないのだと知っている。サクラの心配はそれではなかった。出陣前、彼が言っていた言葉が心配だった。

「城の内に不穏な動きがあります・・・私はそれを調べますが、キノモト様もお気を付けて下さい」

大丈夫だよな・・・。もう一度心の中で繰り返し、サクラは草の葉を投げ捨てた。

陣中(じんちゅう)に輝く焚火(たきび)の群れを遠くに臨み、その者は大木の下に立っていた。

もし誰かが彼の姿を目にしたのならば、夜闇(よやみ)が結晶して現れた姿だったと信じて疑わなかったであろう。

その者は上から下まできっちりとした黒服に身を包んでいた。

スタンドカラーで首元を覆(おお)い、スラックスは踵までの靴と殆(ほとん)ど同化(どうか)している。唯一(ゆいいつ)色を持つのは、見たことも無い素材で出来た肩当てと手甲だった。

全ての無駄(むだ)を省いた戦闘服(せんとうふく)は、この星の人間にとって見慣れぬもの。

青年は陣の様子に変化がないのを見届け、息をついた。

「・・・どうやら彼等も気付いたようだな・・・」

そう呟(つぶや)き、彼は木に繋(つな)いであった一頭の馬の手綱(たづな)を取る。

軽く地を蹴り、その背に飛び乗った。

「部隊は整えたからな・・・後は彼等の才能次第」

面白い舞台を見せてもらおうか、と彼は言いふと笑う。

手綱を引き馬首を返すと、青年は闇の中に駆け去って行った。

・・・その夜はアルカディア大戦の期間中、最も静かな夜であったと言われている。それは俗に言う"嵐の前の静けさ"であったのだが、ガーディン軍は大きな事件に遭う事なく朝を迎えた。

ただ一つ、ティハーンの自治王代理に就いていた銀月がその任を降り、部下のスオウ=タカムラがその後を引き継いだと後(のち)に公式文書(こうしきぶんしょ)に記載(きさい)されている。

<第八章・終>

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