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A STORM OF THE PLANET

斬撃と共に鮮(あざ)やかな赤が視界を飾りたてる。

血で血を洗う殺し合いと怒号(どごう)、そして卑劣(ひれつ)な造反(ぞうはん)の中にガーディン軍は投げ出されていた。

討伐軍に対し、全軍投機して反撃を開始したガーディン軍の本陣の背後に控えていたザガート率いる軍七千が裏切りを起こしたのだ。この時、本陣(ほんじん)にいた兵の数は五千にも満たなかったと言われている。後世(こうせい)、ザガート公が卑怯者(ひきょうもの)と罵(ののし)られたのは当然であった。

討伐軍と剣を交えていた諸都市にもそれは伝わったが、こちらも文字通りの手の離せる状態ではなかったので、歯噛(はが)みしてそれを許しておく以外何も出来なかった。

混乱に陥(おちい)った本陣で、刃に血を染めた剣を片手に老骨(ろうこつ)の将軍は主君に叫ぶ。

「キノモト様、お逃げ下さい!ここはこの老人が引き留(と)めます故(ゆえ)・・・!」

本陣の兵力が薄くなった時に襲撃(しゅうげき)してきた事から目的は誰の目にも明らかだった。

裏切り者達に命を狙われたガーディンの自治王は汗で濡(ぬ)れた表情に不本意さを閃(ひらめ)かせる。

「今更、何処に何を言っても同じだぞ、翁(おきな)。それよりも早く陣を立て直さなければより多くの血が無駄になってしまう・・・!」

無為(むい)に兵を殺すことをサクラは縦としない。彼女は愛馬の腹を蹴(け)り、数人の敵の剣を躱(かわ)して凛と叫んだ。

「動揺するな!自分の持ち場を確認して陣容(じんよう)を固めよ、無駄(むだ)な混乱は敵を有利(ゆうり)にするだけだ!」

その声によって動揺しかかった兵士達の心を鼓舞(こぶ)した。

彼等は戦いながら慎重(しんちょう)に陣を固めていく。だがザガートの軍に対しまだ有利になり得なかった。

危険と死が混ざり合った戦場でサクラは更に兵士達に指揮する。それは裏を返せば自分の存在を敵に知らせる様なものだ。

だが彼女は本陣の瓦解(がかい)を防ぎ、全体の敗退(はいたい)を無くす為に声を張り上げる。

ここで負ける訳にはいかなかった。負ければ多くの者が死に、更に多くの悔恨(かいこん)の涙と血が専制(せんせい)を許したこの星の大地に数世代にも渡って流されるだろう。

――――負ける訳にはいかない。これが自由を勝ち取る為の戦いならば・・・!

それでもやらなくてはならない。未来に禍根(かこん)を残す様な真似をしてはいけないのだ。自分やその子孫達の自由を奪う現状を知りながら目をつぶり、黙っているなどとんでもない事だった。

そしてここで戦うと決めたならば全力を尽くさなくてはならない。現実から目を逸(そ)らした臆病者(おくびょうもの)の手の中に正義が転がって来る程甘くは無いのだから。

正義・・・?そんなに生易(なまやさ)しくない。正統性(せいとうせい)・・・?そんな安っぽい感傷(かんしょう)ではない。生き残って欲しいだけだ。自分と同じく自由を勝ち取る為に戦っている多くの人々が生き残って欲しいだけなのだ・・・。

それがこの星に光を投げ掛けるのならば。

それこそ安っぽい感傷なのだろうか・・・?

――――そんなものは生き残ったものが決めてくれる・・・今はそれよりも・・・。

それよりも悔いの残らないように行動し、今を動かしていかなくてはならなかった。

本陣の瓦解を狙っていたザガートの軍は手をこまねいている。

サクラは彼等の考えが甘くて良かったと思った。本気で攻勢(こうせい)に出ようとしても、その間に隙が生じる。それに乗じて本陣を立て直せば、他都市が討伐軍を抑えるまでは持ち堪(こた)えられるだろう。

命令を送ろうと側で彼女を護る騎士の一人に言葉をかけるサクラの視界の隅で何かが動いた。

「・・・・・・!」

不意に視界が揺れ、衝撃によろめく。白駿馬(はくしゅんば)から投げ出されそうになり、必死に鬣(たてがみ)を縋(すが)る彼女の腕を何者かが摑んだ。

嘶(いなな)く愛馬を宥(なだ)めるサクラは相手の広い背中を見上げる。砂漠の民が着る服とマントに身を包み、背に懸(か)かる長い鞘(さや)に収まるべきの剣は抜き離れていた。数瞬後に二つに絶たれた矢が砂漠の苛烈(かれつ)な太陽をサクラは感じた。褐色(かっしょく)の肌、鍛(きた)え抜かれた戦士の肉体、そして彼の頭に抱かれた褪(あ)せる事を知らない黄金の輝きが、この青年の生命の全てを代弁(だいべん)しているかのようであった。

サクラの命を救った黄金の髪の青年は態勢を立て直した彼女の腕を離し、振り向く。その肩で大きな円形の盾(たて)に似た肩当が光を滑らせた。

「・・・早く陣を立て直すがいい・・・」

アイスブルーの瞳を向け、彼は言い捨てると馬首を返した。

「待って・・・!お前は・・・」

「貴女ならば分かるだろう。今必要なのは"守り"だ、それ以上は求めるな・・・」

何も言わせぬ気配で青年は騎馬の腹を蹴る。血みどろの戦いが続く人波に消える後ろ姿を茫然と見送ったサクラは、はっとし気付き、共に驚いていた長庵に言った。

「翁、早く形勢の立て直しを・・・!」

それから数十分後、本陣は完全に陣容(じんよう)を固め、オルシーターの戦いが終結するまで持ち堪(こた)えたのであった。

一方の立ち直りは、もう一方の瓦解を招(まね)く。

オルシーターの戦いに於いて卑怯(ひきょう)の代名詞とされ、更に一番不幸だったのはザガート率いる軍隊だったと、後世多くの者達に言われている。

そのザガートの前に、最も大きな厄災(やくさい)が長剣(ちょうけん)を抜き払って訪れていた。

「ハァッ・・・!」

子供の背丈はありそうな長剣を片手で振るい、青年は戦場を駆け抜けて行く。その後には斃(たお)された兵士の死体が血で彩色され転がっていた。

この人の形をした死神に、ザガートの兵士達は逃げる者まで現れる。だが反撃も多く、更に激しい戦いが展開された。

長剣を振るい、黄金の髪の青年は自らの周囲の人血(じんけつ)で埋め尽くす。

「貴様等に用はない・・・退け!」

青年は叫び、馬を駆る。だが行けど前進を阻(はば)む兵士達の姿に、アイスブルーの瞳を苛烈に輝かせた。

「古き体制が破れ、新しき時代が来る事を望む者は我(わ)が前から消え失せろ!俺が用のある者はザガートただ一人、それを阻む者は一人残らず斬(き)る・・・!」

その言葉に打たれる様に兵士達は後退さる。彼等は上の命令に疑問を持っていたが、報復(ほうふく)を恐(おそ)れて従っていたのだ。

左右に分かれる人海(じんかい)の道を、青年は一直線に駆け抜けて行く。

彼は進みながら、明らかに今までの兵士達とは別種(べっしゅ)の者達が前方を塞(ふさ)ぐのを目にした。

「・・・フン、ザガートの親衛隊(しんえいたい)か・・・」

青年は口端を上げ、反逆者の者達が中核を嘲(あざけ)る。しかし親衛隊と言えども数百人を数える騎兵隊であり、それを切り抜けるのは困難に思われた。

「・・・敵の群れし荒野(こうや)には、屍(しかばね)で道を築き上げ、血にて花を飾ろうぞ・・・」

さも楽しげに口ずさむ詩を耳にした者があれば、彼の不遜(ふそん)さと大胆さに言葉もなかっただろう。

「さあて・・・面倒だからまとめて仕上げるか」

呟(つぶや)き、青年は長剣を背の鞘に戻す。肩の盾を外し、大きなフォームで振(ふ)り翳(かざ)した。

「心を込めた贈り物だ。有難く受け取れ!」

たった一人で進撃(しんげき)する生意気な若造は斃(たお)すべく待ち受けていた騎兵隊は仰天した。来ると思っていた青年が剣を収め、あろう事か巨大な盾を円盤投げの如く投げ放ったのだ。

質量も硬度もかなりある盾は地を一直線に進む旋風(せんぷう)となって人の壁に打ち当たる。その威力(いりょく)たるは論外で、逃げ遅れた者達を刈り取り、地に倒してもなお止まる所を知らなかった。

黄金の髪を揺らし、青年は文字通り"血と屍で舗装(ほそう)"された道を駆け抜けて行く。

多くの命が薙(な)ぎ倒し、盾は不意に角度を転じた。

なす術もない人馬をその緑を切り裂いて上空に舞い上がる。人々の間を擦(す)り抜け、黄金の影が飛び上がった。

ガシャァ――――・・・ンッ

重力により勢いの減少した(それでもかなりの)盾が金具(かなぐ)に引っ掛かり、大きな音を響かせる。空中で盾を見事に収納し、地上に降り立ったのは大きな獣(けもの)であった。

黄金の鬣(たてがみ)を威風堂々(いふうどうどう)と逆立て、百獣の王者に相応(ふさわ)しい獣は青年の横に四肢(しし)を立て、人馬を威嚇(いかく)するように吼(ほ)える。

オオ・・・ウオォ――――・・・

その声に馬は脅(おび)え、兵士達は総毛立つ。奴等の前に親衛隊はもはや鳥合の衆であった。まともにやり合う忠誠心を奮(ふる)い立てて先を阻んだ殊勝(しゅしょう)な側近を斬り払い、きらびやかな鎧(よろい)を付けた一人の男に剣を突き立てる。裏切り行為の首謀者(しゅぼうしゃ)ザガートであった。

「き・・・貴様何を・・・」

「おや?そんな事も分からんのか。覚えがないとは今更言わせないぜ・・・それとも己の罪状(ざいじょう)をしっかりと刻んでから地獄に行くか。その方が面白くていいが・・・」

喉元にぴったりと切っ先を寄せ、青年は軽口を叩く。好意とは数万光年も離れたそれは、命乞(いのちご)いを許さぬ気配にくるまれ、ザガートの心臓に冷たい針となって刺さった。

「お前が単なる手足である事ぐらい分かっている。だがそれでも邪魔なのでな・・・死んでもらうぜ」

青年は勢い良く左腕を上げる。その手には彼の後頭部を狙(ねら)って放たれた矢が握られていた。

「フン・・・俺に通用するとでも思っていたのか?後悔しないうちに手を引くんだな・・・」

発条(はつじょう)を利用して飛ばす弩(いしゆみ)の、鉄製の矢が青年の手の中でへし折れる。彼はつまらなさそうにそれを地上に投げ捨てた。

「ば・・・化け物!」

「化け物・・・?それは傑作(けっさく)だな。お前と同類と思われていないだけマシな存在だ・・・」

青年は笑い、剣を振り上げる。時を要さずザガートという名の裏切り者は永久に頭と胴を別々に切り離されたのだった。

策謀が血を流し、オルシーターの戦いは終わった・・・

<第七章・終>

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