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A STORM OF THE PLANET

ドオッ・・・

幾(いく)つもの銃声が起こり、刺客達は血を流して床に倒れる若造の姿を脳裏(のうり)に描(えが)く。だがその甘美(かんび)な幻想も半瞬だけの所有物であった。

彼等は青年の周囲で空気に青い波紋が立つのを見た。その殆(ほとん)どが何であるか知覚する前に永遠に眠らされたのだが。

銃が落ちる音と重いものが床を叩く音が連続して小狼の後で起こる。

運よく生き残った者も、何があったのか分からずに銃を手にしたまま茫然と青年と彼の切(き)っ先(さき)を突き付けられた衛兵長を見比べた。

「・・・き・・・貴様・・・」

恐怖と驚きに冷汗を流す衛兵長はその時になって自分がとんでもない相手と戦っていたのに気付く。

「・・・私が何故自治王代理でガーディンに残されたのか貴方には分かっていないようだ」

喉元(のどもと)にぴったりと剣を向け、文官風の青年は秀麗(しゅうれい)な笑みを浮かべた。

「"代理"とは治める能力だけでは務まらない。それならば武士の一人や二人置いていくだろう。キノモト様がそうせずに私を任(にん)じた理由はただ一つ、私に攻武両方の能力があると評価して下さったからなのだ」

自分はこの男を見くびっていたのだ。衛兵長は今更(いまさら)のように後悔した。彼は小狼を頭が少しいいだけの軟弱者(なんじゃくもの)と思っていた。それが何だ、この優しい表情の下にこれだけの戦士としての姿が隠されていたとは。

「・・・伊達(だて)に"海騎士"の血を残している訳ではない・・・」

小狼が口にした最後の一言に、刺客達は凍(こお)り付(つ)く。

それはアルカディアの者ならば幼子(おさなご)であっても知る者の称号であった。独立時代、英雄王クロウと共に帝国と戦った者の一人、海騎士・龍王。彼、というよりも彼等はその"力"を持った為に救国(きゅうこく)の戦士と崇(あが)められるようになったのである。

その"力"は彼らの武器を、許容範囲を(きょようはんい)を越えた破壊力(はかいりょく)さえ生むものとした。それは武器の持つ"力"ではなく戦士自身から放(はな)たれる"力"だと言われている。

戦士の"力"とは、生来(せいらい)のものもあれば鍛錬(たんれん)によって身につけるものもある。だが特に救国の戦士達の血と"力"を引いた者は"血を残す者"と呼ばれていた。

この男がその一人だと言うのだ。堪(た)え難(がた)い畏怖(いふ)に打たれた刺客達に"海騎士"の血を残す青年は訊(き)く。

「言って貰おうか・・・お前達に命令したのは誰だ?」

空気が張り詰め、衛兵長の音程の外れた叫びが上がった。

「撃て、殺せ・・・!」

狂騒的(きょうそうてき)な声に衝(つ)き動(うご)かされ、刺客達は銃を向ける。それが自分と(衛兵長は放っておいて)もう一人の男を射程内(しゃていない)に入れているのを知り、小狼は舌打ちした。

再び起こった斉射に無様(ぶざま)な絶叫(ぜっきょう)が上がる。血塗(まみ)れた衛兵長から剣を抜き、小狼は翼の生えた鳥の如(ごと)く弾丸の雨から飛び退くと床に倒れたままのケイの側に降り立つ。体を抱え上げ、剣を前方に突き立てた。

"力"が来飛する弾を止め、青い波紋(はもん)が残像(ざんぞう)として空気に揺らぐ。

「・・・あの男が死んでまでも守ることか・・・」

まさか他の者に殺されてやる者だとは計算外であったと小狼は思う。ああいった裏切り者の殆どは利己的(りこてき)であって、絶対的な力を見せ付ければ口を割る筈だったのだ。それとも他に何か要因(よういん)があるのだろうか・・・?

「それにしても独立戦争の忌(い)まわしき武器を使用するとは・・・」

手に入れた手段も調べねばなるまい。自治王代理である若い補佐官は頭の痛い課題を目の前に並べながら溜め息をつく。その前にこの状況を切り抜けなくてはならなかった。

上官(じょうかん)さえも殺した者達に最早(もはや)平和的終結の見込みはない。

――――・・・一気に片付けるか・・・

戦士としての勘(かん)が、あれは死兵だと自分に告げる。戦えば誰一人として死を免(まぬが)れないだろう。小狼が戦う事にとまどいがある理由はそれであった。生憎(あいにく)と彼は死人の口を割る方法など持ち合わせていない。

迷う小狼の腕を何者かが摑んだ。

「ケイ・・・?」

半身を返り血に染める黒髪の青年は肩が細かく震える。見下ろす小狼の耳に微(かす)かな笑い声が届いた。

「・・・・・・!」

「"逃がせ"だと・・・?出来ん話だな・・・」

小狼の手を引き離し、ケイはくすくすと笑う。その内で一体何が鬩(せめ)ぎあっているのか小狼には見当もつかなかった。

だがケイが床の剣を手にした時、この冷静沈着(れいせいちんちゃく)な自治王代理補佐の表情が動いた。

「・・・ケイ、まさか・・・"力"・・・?」

衝撃が床を走った。

無形の"力"が暗い通路に響き、石壁の表面に罅(ひび)が入る。

青いローブと茶色の髪を風圧で揺らす小狼は、これが彼の"力"の一部である事を知った。

ゆるゆると起き上がるケイの瞳は虚(うつ)ろで何も映していない。

だが彼の体から放たれる"力"は小狼さえも身動き出来ない強大(きょうだい)さがあった。剣が動き、ケイの胸の前で構えられる。

「我を・・・起こしたのだ・・・罪は血で償(つぐな)うのが道理・・・」

口端が上がり、死神の微笑を浮かべて青年は宣告(せんこく)した。

「・・・城の土となって失せろ」

「止めろ、ケイ!」

感情の欠片(かけら)もない声に小狼の制止の声が重なる。空気が揺らぎ、床や壁に大きな亀裂(きれつ)が幾つも生じた。石が剥(は)がれ、恐慌(きょうこう)の叫びを刺客達の上に降り注ぐ。

今にも崩(くず)れそうな程罅割(ひびわ)れ、軋(きし)む塔の地下で、なす術もなく茫然とケイを見上げる小狼の視界を何者かが横切る。それが薄汚(うすよご)れた導師のマントを頭から被った老人だと認めた瞬間、老人にあるまじき敏捷(びんしょう)さでケイの懐(ふところ)に飛び込んだ者の拳が彼の鳩尾(みぞおち)を打った。

「・・・・・・・!」

ぐらりと倒れる体を受け、老人は肩に担ぐ。崩れる石が床を打つ音に混じり、小狼は低くくぐもった声を聴いた。

「こちらへ・・・」

それはまるで地獄(じごく)への道を指し示す魔物の従者のように思えたが、それより他に方法のない小狼は老人に続く。ここまできたら行ける所まで進もうという気持ちが彼の中で起こったのだ。

案外、地獄への道が全てを解決する所に続いているかも知れないのだから。

それから数えて数分後、都市ガーディンの人々は城の方向から響く地鳴りに振り向く。一体何事かと首を傾げた彼等はさしたる時間を要さずに地鳴りの正体を目にし、絶句する事となった。

城が――――都市の中央に位置する剣固な城塞の西塔が、まるで積み木細工(ざいく)を壊すように下方(かほう)から崩(くず)れ落ち、原形も残さずに瓦礫(がれき)の山と化したのだ。

<第五章・終>

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