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A STORM OF THE PLANET

暗い塔の下、一つの扉の前にその者達は立っていた。

服装や姿は衛兵達のようであったが、皆奇妙(きみょう)な形をしたマスクで顔の左半分を覆(おお)っている。隊長らしき男が部下の一人に命じた。

「開けろ」

応じる代わりに部下は扉を開ける。扉の下から現れたのは堅固(けんこ)な金属のシャッターであった。男は扉の側の石を外し、中に手を入れる。何かが回転する音がしてシャッターが上方(じょうほう)へと持ち上がった。床と離れた隙間から白い気体が解放し獣(けもの)のようにはい出ていく。気体の正体が何なのか男達には分かっていた。シャッターが開かれ、彼等(かれら)は部屋の中へ足を踏み込んだ。霧のかかる暗い空間に彼らの目的のものが存在するのを確認し、安堵(あんど)の溜め息(ためいき)をついた。

「フン・・・やっとくたばったか・・・」

数メートル先の床の上にケイは倒れていた。灯で照らされても動く気配すらない。

「それにしても化け物じみた奴だったな」

通常ならば昏睡(こんすい)してしまう濃度(のうど)のガスの中で扉に体当たりしていたケイの姿を思い出し、一人が気味悪そうに言う。

「まさか動いたりしないだろうな」

「馬鹿な。通常の五倍の濃度にしたのだ。ガスが効かなくとも窒息(ちっそく)しているぜ」

一笑(いっしょう)に伏(ふ)し、他の男がケイの体を靴先で小突く。男はケイに対して全く警戒心などなかった。・・・倒れている青年がまさか自分の足首を信じられない強さで摑(つか)むとは思いもしなかったのだから。

男の笑いが一瞬のうちに凍り付いた。足を掬(すく)い上げられ、転倒した男の胸に、音も無く飛び起きたケイの肘(ひじ)が打ち込まれる。

鈍(にぶ)い、厭(いや)な音と共に肘は沈み込んだ。

ざわっ・・・男達の間で動揺がはしる。しかしすぐに抜刀し、身構えたところは戦いなれた者達であった。

「き、貴様・・・」

ひしゃげた男の胸当てから肘が抜かれると、止まっていた血が一気に吹き出る。半身に返り血を浴びながら、ケイは男の腰から剣を無造作に抜き払った。

「ぎゃあぁっ・・・」

鮮血が飛び散り、悲鳴と剣が床を叩く音が不協和音(ふきょうわおん)を奏(かな)でた。

襲い掛かった刺客の悲鳴と、肘付きの剣が。

叫ぶ男を黙らせるように頚動脈(けいどうみゃく)を切り裂いたケイは次の獲物を求め、床を蹴った。

「ば、化け物・・・!」

五人目の男が殺されると、他の刺客達は悲鳴を上げ、死神から逃れようと部屋を出る。それを目に止めず、ケイは血糊(ちのり)がべったりとついた剣を付き立て、肩で大きく息をした。扉が開いた事で入れ代わった新鮮な空気が彼の肺に流れ込む。

「・・・行か・・・なくて・・・は・・・」

乱れた黒髪の下でゴーグルをした片目が焦点(しょうてん)もなく空を見る。

彼は剣を支えにして一歩前へと踏み出た。

「・・・行かなくて・・・は・・・破れない・・・破って・・・は・・・約束・・・を・・・」

よろめく足で部屋を出、ケイは傍(かたわ)らの壁に何度となく大きく呼吸した。ぼんやりと霞(かす)んでいる意識を少しずつ取り戻し、青年は再び歩き始める。

不意に殺気(さっき)を感じ、ケイは顔を上げた。

火薬が弾ける音が起こり、空気を切り裂く。手に負えないと思った敵が遠距離から殺傷可能(さっしょうかのう)な銃を発砲(はっぽう)したのだ。何発かはケイの体を掠(かす)め、床や壁に弾ける。

「・・・・・・!」

ピシィ――――・・・ンッ・・・

一際(ひときわ)、澄んだ破裂音が響く。

ケイの頭を狙った弾が偶然にもゴーグルに当たったのだ。ゴーグルの装着部分の金属にスパークがはしり、レンズが一瞬にして亀裂(きれつ)を生む。

ぐらりとケイの体が大きく揺らいだ。驚愕(きょうがく)に目を大きく見開き、壊れたゴーグルを震える手が押さえる。

「・・・あ・・・ああっ・・・」

悲痛な叫びがケイの口から漏れた。

両手で頭を抱え、彼は膝(ひざ)をつく。それは狙撃(そげき)した方にとって予想もしなかった事態であった。だがこの機会を逃すべくもなく、何丁もの銃が青年に向けられる。

銀光が空気を薙(な)ぎ、数人の手から落ちた銃が床を打った。突然気配もなく現れた敵に他の者も慌(あわ)てて振り返る。

「だ、誰だ・・・!」

「・・・それはこちらが訊(き)くセリフだな・・・」

刃に付着(ふちゃく)した血を払い、その者は静かな声で応じた。蒼いローブを纏(まと)う青年の姿を認めたとき、刺客の中から声が上がる。

「お、お前は小狼・・・?」

名を呼ばれた若き自治王補佐は落ち着いた視線で彼らを一撫(ひとな)でした。

「主君なき城塞(じょうさい)で鼠(ねずみ)がやけに騒がしくなったので降りて来てみれば・・・まさか衛兵隊長までがその一匹(いっぴき)とは。道理(どうり)で城に居残る事を主張した筈だ・・・」

小狼は普通のものよりも細身の剣を握った手を横に垂(た)らし、歩み寄る。その一見(いっけん)、無防備(むぼうび)に見える姿に刺客達は一斉に銃口(じゅうこう)を向けた。

「・・・こうなったら都合がいい、貴様もいずれ倒すつもりだったからな。今ここで死ね!」

「やってみるがいい・・・但(ただ)し、その後の苦情(くじょう)は受け付けんが・・・」

あくまで冷ややかな声にいきり立つ者達は引き金に指をかけた。

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