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A STORM OF THE PLANET

危険な予感が鋭く感覚を刺す。誰かが自分に向かって叫んだ。

      ・・・ナイ・・・

危ナイ・・・!その声の発する意味に気付き振り向いた瞬間、エネルギーの爆発が極彩色となって襲い掛かってきた。それは全くの突然、どうする暇も無く大きな圧力が全身を打ち、暗黒へ叩き込まれる。落とされたのだと分かるのに、時間などは必要なかった。

・・・一体ここはどこなのか・・・?何もかも分からなかった。一緒にいたはずのあいつが居ない。いつも共に居た友人の姿を探し、立ち上がる。

全くの暗闇・・・ただやけに熱く、眩暈がする。その原因が空気を満たす気配と匂いに関係しているのに気付き慄然とした。

一面の血の匂い・憎悪・苦痛・・・むせ返るような血の海とドス黒い怨念がこの暗闇を造り上げているのだ。その気配の凄まじさによろめいた足の下で赤い飛沫が散った。その気配は闇の奥まで広がり、呪詛を紡ぎ出す。

憎イ・・・オ前が憎イ・・・。声は響き渡り、空間中を木霊する。

耳を塞いでも消えようもない声は彼の神経を斬り裂き、心臓を喰い破る。地を満たす血は更に赤く染まり、絶叫が起きた。ああ・・・。その声は己のものなのか、それとも昔に倒れた亡者の断末魔なのか・・・堪え様もない熱さの中で何者かが耳元で囁いた。――苦しいのならば・・・苦シイノナラバ シンデシマエ!

冷たく、心を凍らせる声が刃となり胸を貫く。溢れ出る鮮血が白刃を赤く染め、死神の手を伝い落ちる。剣を握った・・・己の腕を。上体が大きく揺らいだ。

――――・・・死神とは自分の事だ・・・剣を胸に突き立てたまま、彼は自嘲した。多くの者の死に際で微笑みを浮かべ死を賜わす者。その冷酷な刃は自分をも殺そうというのだ。これが笑わないでどうする?彼は天を仰ぎ、目を閉じた。――オ前と死ネルノナラバ本望ダ・・・。

呟き、血の海へと倒れて行く。

だが、その寸前、何者かがその腕を摑んだ。

『・・・死ぬな!』

叫びながら意識を呼び戻し、彼は薄目を開く。胸の剣はもうない。

『・・・ア・・・』

目を見開き、己を救ってくれた者を彼は見上げた。強く、優しい者の気配が腕を伝ってくる。その者は彼に慈愛の目を向け、口を開いた。

『約束を・・・』

約束ヲ・・・ 彼はその声を聞きながらゆっくりと崩れ込み、闇の中で本当の眠りに落ちていった。

薄暗がりの中、青年は目を見開いた。

視界には時を感じさせる古い天井があった。青年は辛うじて動く手で無意識に右目の周りをまさぐり、はっとして動きを止めた。

「・・・俺のゴーグル・・・」

道理で夢見が悪い筈だ。自分が横たわる寝台の側に目をやった青年は机の上に乗る捜し物を見付けた。

「はやく・・・付けないと・・・」

痛みに軋む体を無理矢理起こし、寝台の端まで自分の体を引きずって行く。が、急に激しい痛みが全体を駆け抜け、一瞬だけ意識が体を手放してしまった。

「・・・・・・・!」

机が倒れ、支えを失った彼も床に倒れる。机の上の壺や小物が砕け、不協和音が床に散乱した。

――――・・・ああ・・・あーあ・・・

何の事か分からずに床の上にいた青年がようやく事態を知り、心の中で頭を抱えた時、彼の聴覚に扉の開く音とアルトの声が飛び込んで来た。

「何しているんだ、その体で。傷口が開いてしまうぞ」

「・・・・・・」

蹲ったまま右目を押さえ、青年は何事か言う。彼を支え起こしたその者は首を傾げ、彼の顔を覗き込んだ。

「どうした?」

「・・・俺の・・・ゴーグル・・・」

「ゴーグル・・・・・・?ああ、君の側に落ちていたあれか?でもどうして・・・」

床に転がったものの一つに目をやり、問う。青年は少し言い難そうに応じた。

「・・・・・・いや・・・別にいいんだが・・・それがないと少し・・・」

答えになっていない答えに、その者は?となりつつも床のゴーグルを取り上げ、手渡す。

彼はそれを顔の右側に装着し、顔を上げた。

その時になって青年は初めて傍らにいる者を見た。

「・・・・・・」

青みがかった暗い色の髪、灰色の聡明な輝きを持つ瞳。男の服装をしているものの、肩下まで落ちる髪も、姿も少女のものであった。

彼女は青年に手を貸し、寝台に横たわらせる。彼は声も無く片眉を顰めた。

「ほら無理するからだぞ・・・全く、気付いてすぐに起き上がる重傷者がどこにいるんだ。仕方ないなぁ・・・傷の手当をし直さないと」

散らかった破片をさっさと端に寄せ、少女は転がる箱から包帯を取り出す。

「でも意識が戻ってよかった。死にそうな体で五日間も昏睡していたんだからな」

「・・・君が手当てをしてくれたのか?」

「ああ。こう見えても翁に一通りの事は教えられたんだ・・・今ここで縫合してもいいぞ」

「・・・遠慮しときます」

手際良く包帯を取替え、彼女はニコッと笑った。

「そういえば、私の名をまだ言っていなかったな・・・私はサクラ。サクラ=キノモト」

「キノモト・・・?キノモトって、それ・・・」

その響きの意味に彼は目を見張る。

「そう。アルカディア王の称号だ。私は英雄王クロウ=リードの娘・・・」

そう言い、浮かべたサクラの笑顔は若い君主のものではなく、一人の少女の悪戯っぽい笑みだった。

「さあ、お前の番だ。教えてくれるな?」

「俺の名はK」

「ケイ・・・?K、たったそれだけか?」

サクラはまじまじとケイを見る。ケイは黒い髪をかきあげた。

「それで通じたからな・・・」

指の間から零れた髪の向こうに、彼の左目を奪ったあの傷痕がある。ケイは濃いレンズを付けた右目をサクラに向けた。サクラは言葉に困りながら質問する。

「ところで君は何処から来た?この辺りでは見掛けないが・・・」

「俺は・・・海、海から来た・・・」

「海・・・?」

それに言葉を継ごうとサクラが口を開いた時、扉の向こうで彼女を呼ぶ声がした。応じるサクラの声は君主に相応しい口調に変わる。

「どうした?」

「ラザールからの使者です。至急お戻り下さい」

サクラとはあまり年の変わらぬ青年が扉を開けた。騎士より文官風の男だとケイは思った。淡い茶色の髪や線の細さがそう印象付けるのかもしれない。

―――・・・だが・・・・・・。

文官風の青年は、サクラの肩越しにケイに背を向けた。ケイのレンズの奥で目を細める。青年の琥珀の瞳には何者にも負けぬ"力"があった。その姿に隙を見せれば、斬られそうな、そんな瞳。ケイは何事も感じなかった様に窓の外に目を向ける。

サクラはそんなケイを省みた。

「すまないが用が出来た。傷が治るまで無理するな。回復したら街を案内するよ」

じゃあまた後で、とサクラは言い残し、扉の向こうで待つ青年の後を追って行った。後に残ったケイはその扉を見つめ、呟く。

「アルカディア・・・・・・か。・・・お前の夢がここにあるのだな・・・」

アルカディア――――

肥渓な大平原が広がる大陸と、三つの大海を持つ惑星アルカディアに形成された国家。英雄王アルバーンの死後、自由都市と呼ばれる自治都市がそれぞれに都市を治め、暫く続くが、クロウの死後、臣下であったエリオル将軍が王となる。

暗黒時代の始まりであった。

<第一章・終>

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