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proud of you

「最初に、撫子の夢を見たんだ…。あの最後の時の夢。泣きながら起きたら、そこはいつもの部屋で、ドアを開けて心配そうなお前が入って来るんだ」

一生懸命心配してくれるお前が消えて、今度は本当に目が覚める。吐き捨てるように桃矢は続けた。

「五年間、この繰り返しだ。ふっ切れるもふっ切れないもあるか」

俺の中じゃ、時計はあの時のまま止まっているのに。

泣き出す寸前の子供のような瞳。その高いプライドが、必死に感情を抑えようとしているのがわかる。

「俺はっ! ・・・俺は撫子の記憶を消しちまったっ・・・母親から自分の記憶を消しちまうんだぞ? 自分で自分を殺しちまうのも当然っ・・・」

こらえきれなくなった涙が、切れ長の眦(まなじり)から溢れる。桃矢は更に言葉を継(つ)いだ。

「忘れたり、なおざりになんかできる訳ないだろうっ! お前なんかに俺の気持ちが分かるかっ」

言ってしまってからしまった、という表情をする桃矢。だがその前に、雪兎の平手が彼を襲っていた。莫迦(ばか)、とかろうじて聞こえる程の低い雪兎の声。桃矢はぎりぎりと後悔が胸を縛るのを感じた。この男は自分と同じ場面にいたのだ。あれから後の自分を一番知っているのもこいつではなかったのか? ――――そして何よりもこの男は、自分が半身とまで認めた人間の筈。雪兎の冷静な声が耳を打つ。

「・・・他人(ひと)の気持ちなんかわからないよ」

たとえそれが兄弟でも親子でも。雪兎は続けた。自分以外の人間に、自分の気持ちがそっくり伝わる事なんてあり得ない。

「だから桃矢の気持ちも分からない」

だけど。尚(なお)も雪兎は続ける。感じることは出来るから。

そっくりは分からないけれど、感じることは出来る。桃矢は弾かれたように顔を上げた。

「それに、桃矢は僕の相棒だからね」

照れたように言い放つ雪兎が、彼の視界に映る。そうじゃなきゃ誰がこんなに心配してわざわざ五年もかけて人捜しなんかするか。呟きが聞こえる。

「雪兎・・・」

彼の名前をゆっくりと呼ぶ。こいつに出会う為に自分は此処に生まれてきたのかも知れない、と桃矢は思った。

<エピローグに続く>

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