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proud of you

出された緑茶をゆっくりと、雪兎はすすった。猫舌の自分用にかなりぬるめに淹(い)れてある。派手にぶちまいた米を掃(は)いて、表で雀(すずめ)にやっている桃矢へと視線を向けて、「いいのかな」と彼は思った。これで、もし僕が実はまだ軍にいて、上の命令で桃矢を連れ戻しに来たとかだったらどうするんだろう。なかなか心を開かないが、一度相手を認めたらとことん相手を信頼して、尽くしあげる桃矢の性格に雪兎はいらぬ心配をした。

「桃矢、お茶がさめちゃうよ」

とりあえず声をかけてみる。まあいいか、と雪兎は思った。現実は違うのだし、ぼんやり米をまいているように見えても彼は自分が考えたような事はとっくに考えていた筈だった。その上でこうして自分がのんびりお茶を飲んでいる、という事は・・・。

店に出ているケースから、いくらかの煎餅(せんべい)を菓子鉢に入れて桃矢が戻ってきた。

「店ので悪いけど」

「桃矢が作ったの?」

「当たり前」

煎餅屋の主人が家業出来なくてどーすんだ、と桃矢は笑った。

「こんな若造が職人さんなんて雇(やと)えないだろう」

笑う度に桃矢の中国服の上で、金と蒼の大振りの首飾りが揺れた。それがあの時、撫子が桃矢に残したたった一つのものだった事に気付いて、雪兎は胸が痛んだ。暫(しばら)くの間、会わなかった五年間のよもやま話などをしていたが、不意に桃矢が話を振った。

「それで雪兎、これからどうするつもりなんだ?」

実家に帰るのか? という言外(げんがい)の問いを雪兎は即座(そくざ)に否定した。

「父親との夢と期待に背いて軍隊なんかに入ったろくでなしの次男坊には、帰ったって見せるような顔、ないから」

家や病院は兄がきちんと継いでいるんだし、今更僕が帰ったってもゴタゴタと迷惑をかけるだろう、と雪兎は笑った。

「そういや桃矢こそ、あの子どうしたの?」

「さくら・・・? ああ、あれは今、知世と一緒に周(あまね)と雅(みやび)のところに転がりこんでる」

「アマネ・・・・? ああ、桃矢のはとこの」

「周は女の子だよ」

もう、十六・七になっているだろう桃矢のはとこの名を雪兎は挙げた。

「なーんだ。おにーちゃん、寂しいんじゃないのぉ?」

いささか意地の悪そうな口調で桃矢は突っ込んだ。

「・・・人の事聞く前に、桃矢こそどうなの」

うって変わった口調で雪兎は言った。もう、ふっ切れているのか。紺青の眼が、突き刺すようにして彼の答えを待っている。一番触れられたくなかった部分を鋭く突かれて、桃矢の瞳が一瞬殺気(さっき)じみた気配を見せた。手負いの獣が持つ、ぎりぎりの必死の眼。しまったと雪兎は思ったがもう遅い。桃矢の天色の眼がゆっくり、ゆっくりと雪兎の方へ向いた。夢を見てた、という桃矢の声は恐ろしい位静かだった。

<7に続く>

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