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proud of you

桃矢が軍隊に入った理由。それは金銭(かね)を稼(かせ)ぐ為であった。人々が宇宙に散らかって住むこの時代、見向きもされなくなった空へ行きたいという人の手段は二つ。この星にただ一校の航空学校へ入ってその技術(実際に飛ぶ技術、そのための機械類に関する技術共に)を学ぶか、各エリア(地球はエリアによる連邦制を敷いていた)ごとに存在する軍隊に身を投じるか、だったのである。十八歳の木之本桃矢少年は後者を選んだ。父は既(すで)に亡(な)かったので、少女のような母と、幼い…まだ学校にも上がっていない妹のさくらを支えるのは彼だった。援助をしてくれるという政治家の伯父―――母の兄だという人物を彼は好かなかった。その手を借りずに生きていく為には何よりもまず、経済的な基盤(きばん)を固める必要があった。が、空への想いも断ちがたい。―航空学校なら、金がかかるだけだが、ここなら給料が入ってくる―というのがその時の結びの言葉だった。

機密を持ち出した者への処分は決まっている。物件なら即座(そくざ)に滅却(めっきゃく)、記憶等の生物に関するものなら、その部分を消去(しょうきょ)する。ATLASへ持ち込まれる多くの例に漏れず、桃矢の母親の場合も記憶だった。ただ彼女の場合、それが多岐(たき)に渡っていた為、部分消去は不可能だった。この場合、連れ戻せば殺されてしまうのは目に見えている。桃矢にはそんな真似は出来なかった。彼女を守る為に軍隊に入ったのに出来る筈がない。残された手段はただ一つだけ。名前や生きていくのに必要最低限の記憶を残して、総(すべ)ての記憶を消去する。それは、木之本撫子という一人の人生を総て消し去ってしまう事と同じだった。そして桃矢はそれを実行した。記憶を消す寸前に母が自分に向けた、愛しているという言葉に血の涙を流しながら…。

心身ともに総てを閉ざした彼が退役届(たいやくとど)けを出すまでに、そう間は空かなかった。

<3に続く>

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