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To My Dearest

その翌日。

「こんばんは〜!」

「欧風菓子 チロル」の店内に、本須和の声が響いた。

「あ、本須和さん!」

と、レジにいた小狼が真っ先に気づく。

「ちぃのむかえついでに来てみたんだ。どう?おれが紹介したバイト先は?」

「結構働きやすい環境だと思います。それにしても、ファイさんと黒鋼さんだけでなく、おれと姫が働く場所まで紹介してもらって、本須和さんには本当にどれだけお礼を言ったらいいか…」

「気兼ねすんなよ。どうせあのままアパートに残ってても、暇≪ひま≫をもてあそぶだけだろ?」

「はい。それに、少しでもアパートの外にいた方が、早くこの世界になじみやすくなりますし、ひょっとしたら姫の羽根に関する情報も入るかもしれませんから」

小狼と本須和がこんな会話をレジのあたりでしていると、店の奥から植田店長が出てきた。

「あ、本須和君。こんばんは」

「あ、店長。どうですか?サクラさんと小狼君はこの店でうまくやってます?」

「もう大助かりですよ〜小狼君にはレジやってもらってるんですけど、飲み込みが早くてレジの操作方法すぐに覚えちゃいましたよ」

「へぇ〜小狼君は計算とか得意なの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど、もといた世界では、考古学者だった父さんと一緒にあちこちの国を旅してたんです。その際に、帳簿≪ちょうぼ≫とかをつける必要もありましたから」

その時、店の奥からパタパタという足音が聞こえてきたと思うと、おそろいの制服を着たちぃとサクラが出てきた。

「秀樹!」

「もぉ〜ちぃちゃんってば走るの速すぎるよ〜」

「聞いて聞いて! 今日、ちぃとサクラとでお菓子配った! お客さんいっぱい来た!」

ちぃは次から次へと今日あった出来事を秀樹に話し始めた。

「ちょ…ちょっと…ちぃ! もうちょっとゆっくり話してくんないかな?な?」

「ちぃちゃん、お菓子配るの結構うまいんですよ。わたしなんか、逆にちぃちゃんの足をひっぱってるようなものだから…」

「そんなことないですよ。サクラちゃんも十分役に立ってましたし。でも、サクラちゃんも小狼君も、本須和君のようないい人に出会えてよかったですね」

と、植田店長。

「秀樹、いいやつ! でも、いいやつ止まりで彼女いない!」

ちぃが本須和の弱点を暴露(ばくろ)した。

「な…どこでそんな言葉覚えたんだちぃ!!」

顔を真っ赤にする本須和。

そんな2人のやり取りを見ながら、サクラと小狼は笑い出した。

その頃、「居酒屋よろこんで」では、ファイと黒鋼がバイトの仕事に勤(いそ)しんでいた。

「ファイ! 黒鋼! もうあがっていいぞ!」

と、店長の声が響く。

その声に対し、ファイが「お疲れ様でした〜」と返事をしているのに対し、黒鋼はほとんど無言のままだった。

「黒ぷ〜も返事ぐらいしたら〜」

「なれなれしい呼び方してんじゃねぇ!」

「そういえば黒ろん、店長さんからの指示は、なんだかいやいや聞いてるって感じだね〜なんで〜?」

「フン! あの店長の指示は聞く気になれねえんだよ。俺は素直に聞くのはあいつの命令だけと決めてるんでな」

そう言う黒鋼の目は、心ここにあらず、といった感じだった。

「あ、そうそう。ちょっと聞きたい事あんだけど…」

と、店長が2人に近づいてきた。

「なんですか〜?」

「本須和って、そろそろ入試本番なんだろ?どこの大学受けるか2人は知ってるか?」

「ええ、知ってますよ〜 なんでも、CLAMP学園大学部ってとこらしいです〜」

「へぇ〜 あそこ結構名門だぞ?あいつ、合格する自信とか持ってるんかね?」

「あ、そうそう。本須和さんから言伝≪ことづて≫頼まれてたんです〜『もうすぐ入試本番で勉強に専念したいので、ここに来れなくなります。お忙しいのにそちらに行けなくてすみません』との事です〜」

「いやいや、勉強の方が大事だよ。それに、本須和の代わりに君ら二人が着てくれたから、こっちとしては大助かりだよ。こっちからも本須和に言伝しといてくれ。『応援してるから、受験がんばれよ!』ってな」

「よろこんで!」

ファイはポーズをとりながら元気よく返事をした。

それから数分後、サクラ・ちぃ・小狼・本須和の4人と、ファイ・黒鋼の2人は、アパートとの前で鉢合わせた。

「ヤッホ〜。サクラちゃんたちもバイト終わったの〜?」

真っ先に声をかけたのは、ファイだった。

「あれ?って事は、ファイさんたちもですか?」

小狼が返事をする。

「ま〜ね〜。あ、そ〜そ〜、本須和さん。店長さんから言伝頼まれたんですけど〜」

「えっ?店長から?じゃあ、ここで立ち話してるわけにもいかないし、おれの部屋でゆっくり聞こう。お茶ぐらい出すよ」

「そんじゃ〜、お言葉に甘えてそうさせていただきます〜」

「あら?皆さんそろってお帰りですか?」

立ち話の最中に、千歳が現れた。

「管理人さん、こんばんは」

ちぃが挨拶をする。

「あら。今日はちゃんと挨拶ができてるのね。やっぱり本須和さんの教え方がうまいのね」

「いや〜そんな事ないですよ〜」

本須和は照れながら頭をかいた。

「ところで、サクラさんは、お洋服とか足りているかしら?」

「あ、いえ。植田店長がくれた『チロル』の制服の他はこれっきりなんです」

そう言うサクラが今来ている服は、彼女の故郷・玖楼国で来ていた王女の服のままだった。

「あらあら。お洋服が一着だけじゃ、何かと不便でしょう?私のお古でよかったら、一着あげてもいいのがあるんだけど、どうかしら?」

「えっ?本当ですか!? ありがとうございます!!」

サクラはうれしさで声を上げた。

「ついでに、ちぃちゃんにもあげたい服があるんだけど、ちぃちゃんも来る?」

「うん! ちぃも行く!」

ちぃも元気な声で返事をした。

「いつもいつも服をもらってばかりですみません」

本須和が頭を下げる。

「あら。困った時はお互い様ですよ」

千歳はいつもと変わらぬ笑顔で答えた。

「それじゃあ、女の子たちの邪魔をしちゃいけないから、おれは本須和さんの部屋に行ってます」

と、小狼。

「俺もそうすっか…」

黒鋼も後に続く。

「ただいま〜!」

本須和はそう言いながら自室のドアを開けた。

(?だれか他に住んでいるのかな?)

小狼が不思議がる。

と、次の瞬間、「おっかえりなさ〜い!!」という元気な声とともに、本須和の顔面に何かが飛びついた。

その拍子(ひょうし)で、本須和は後方へ勢いよく倒れこんだ。

「おかえりなさ〜い!! おっかえりなさ〜い!! 今日はいいことあったかな〜」

本須和の顔面に飛び込んだのは、「人」と同じ姿をしてはいたが、サイズがとても小さく、アラビア風の服を着ていた。

「すももさんの以前のマスターは、なぜこんなプログラムをしたんでしょう…」

そう言いながら、部屋の奥から出てきたのは、同じサイズの「人」と同じ姿をしたものだった。こちらは、長い髪を2つに分け、その結び目に大きな鈴をつけ、和服を着ている。

だが、その2つの物体に、小狼と黒鋼は見覚えがあった。

「すももさん!? すももさんですよね!?」

真っ先に声を上げたのは、小狼だった。声には出してはいないが、黒鋼もさすがに驚きの表情は隠せないようだ。

「しかも琴子さんまで!? なんでここにいるんですか!?」

驚きのあまり、小狼の声は自然と大きくなる。

「あれれ〜?ワンココンビってこの2人と知り合い〜?」

と、ファイ。

「その『ワンココンビ』ってのはやめろ!」

黒鋼が声を荒げた。別の意味で。

「すももはあなたとは初めて会うです〜」

「すもも」と呼ばれた物体は、くるくる回りながら小狼の質問に答えた。

「私もですわ。でも、なぜ私とすももさんの名前をご存知なのですか?」

「琴子」と呼ばれた物体が言う。

「あ、そっか…すみません…前にいた世界に似たような人がいましたから…」

「いや、その前に『人』じゃなかっただろ、あいつらのでかさは」

と、黒鋼。

「ほら、時元の魔女が言ってたでしょ。『知ってる人、前の世界が出会ってる人が、別の世界では全く違った人生を送っている』って。もっとも、オレもまさかこの世界でチィのそっくりさんに会うとは思ってなかったけど…」

そう言うファイの視線は、遠くに向けられていた。

「あいててて…まあ、いつまでもこんな狭いところで固まってても仕方がないし、とりあえず中に入ってくれよ」

そう言いながら、本須和はゆっくりと上半身を起こした。

「えっ?この2人もパソコン!?」

小狼はまた大きな声を出した。

つい先ほどまで、彼ら3人は、本須和が入れたお茶を飲みながら、すももと琴子の説明を受けたのだ。

「あい! サイズではちぃさんに負けますけど、元マスターがCPUを標準より容量が大きいものにしてくれたので、すももはたいていの事ならなんでもできるです〜」

すももはハイテンションな声で答えた。

「しーぴーゆーって何ですか〜?」

ヘラヘラしながらファイがたずねる。

「CPU。正式名称・中央演算処理装置≪ちゅうおうえんざんしょりそうち≫。ソフトウェアに含まれる命令の解釈ならびに実行を行うコンピューターの一部分、またはその機能を内蔵した集積回路≪しゅうせきかいろ≫の名称です。言ってみれば、コンピューターの心臓部です。ちなみに、たった今すももさんがおっしゃったのは、後者の方ですわ」

琴子が事務的口調でファイの質問に答えた。

「え〜と??? 何を言ってるのかさっぱりわかんないんですけど?」

小狼が頭に?マークを浮かべながら、本須和の顔を見た。だが、本須和も、

「いや、オレにも全然わかんないや。ごめんな」

と苦笑いするばかり。でも、さすがにこのままではまずいと思ったのか、

「今度、パソコンに詳しいやつを紹介するよ」

と、言ってくれた。

その時、廊下の方から、

「秀樹! ちょっとこっち来てくれる?」

と言うちぃの声が聞こえてきた。

4人+すもも&琴子が廊下に出てみると、そこには、落ち着いた色のワンピースの上に、ガーディアンを羽織(はお)ったちぃがいた。

胸元のリボンがアクセントになっている。

「おー! めちゃくちゃ似合うぞ、ちぃ!!」

本須和が思わず拍手を始めた。

小狼とファイも、つられて拍手をする。

「わたしのも見てくれますー?」

と言いながら現れたのは、デザインは同じだが色違いのワンピースとガーディアンを着たサクラだった。

「めちゃくちゃ似合ってますよー!!」

小狼がさっきよりさらに激しい拍手をした。

「ありがと。小狼君にそう言ってもらえると、なんだかうれしい」

サクラは、笑顔を浮かべた。その笑顔は、どことなく幸福そうだ。

「サイズがちょうどあってて良かったわ」

こう言いながら、千歳がサクラの後ろから現れた。

「サクラちゃんの身長、あの子とほぼ同じぐらいだし」

「『あの子』って、誰ですか?」

サクラがきいた。

「本当ならこの服に袖(そで)を通すはずだった子だったの。この服はね、もともとは、一着はちぃちゃんのために、もう一着はあの子のためのものだったのよ」

そういう千歳の顔は、どこか寂しそうだった。

本須和も、しんみりとした気持ちで彼女の話を聞いていた。

〜第2章・完〜

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