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ツバサ〜緑髪の王と風の王妃〜

フェリオは苦笑し、とりあえずテトラがいるその場から数歩後ずさる。

「詳しい話は後で・・・」とフウに耳打ちした。

「フウさん!!」

少し遅れて小狼達が到着した。小狼達も急いでこの場に駆けつけたとはいえ、フウがさらわれた場所から、ココまでは結構な距離がある。その距離を馬で全力疾走したので、どうしても、シルフと並ぶ駿馬である愛馬のアーサーに乗っているフェリオ方が早く到着したのだ。

「・・・頬が赤い。これを。」

小狼は自分の持っていた水でハンカチを濡らすと、フウに手渡した。フウはそれを頬に当て冷やす・・・冷たいそれがフウの心を少しだけ落ち着かせた。

「・・・皆さん。彼女が・・・テトラが死人を操る幻惑師です。」

立ち上がり、血が出るほど強く手を握りフウ達をにらみ据える。

「どうしてあんたばかり守られてるの?・・・あんたなんか嫌い!!死んじゃええぇぇぇぇぇぇ!!」

テトラが一際大きいこえで叫ぶ。すると、テトラは手にあるものを取り出し、何かを呟き始めた。

「アレはサクラの羽根!!」

「アレが!?」

テトラの手に握られていたのはたしかにサクラの記憶の羽根だった。

「死人に魔物・・・みんなあいつらを殺しちゃえぇぇ!!」

テトラがそう言うと、今までどこに隠れていたのか、数え切れないほどの死人と魔物が5人を囲んだ。

「チッなんて数だ・・・」

黒鋼を思わず舌打ちをする。

「まぁやるしかないだろ?いくぞ!!」

先陣を切るようにフェリオが魔物と死人の群れに突っ込んでいき、次々と蹴散らしていった。

「翔華・黒龍閃!」

それに続くように黒鋼と小狼も敵に突っ込んでいき、ファイとフウは後衛から援護した。

「『碧の疾風』!!」

倒された分の敵が再び現れる。果ての荒野の全ての魔物が集まっているのではないかと思うほどだ。

『強すぎる力はやがて己を滅ぼす』

誰かの声が聞こえたような気がした。

「はぁはぁ・・・くぅ!!」

テトラは息絶え絶えになりながらも、魔物と死人を操り続けた。

羽根はテトラの魔力を遠慮なく吸い取っていく・・・

「嫌ぁぁぁ!!」

テトラは大きな悲鳴を上げると、地面に崩れ落ちた。

「うぁぁ!!い、嫌ぁぁ!!」

激しく胸を上下させ落ち着こうとするが、体から力は抜けていき体がバラバラになるような激痛が走る。

今までフウ達に襲いかかっていた死体達は、糸が切れたように次々と倒れ、砂となっていった。

魔物達も、今まではフウ達だけを襲っていたのに、目標を失ったように無差別に暴れ出した。

「何だ!!一体何が・・・」

突然の魔物達の混乱に、フェリオは声を上げる。

「『術者が力を失ったわ・・・』」

モコナの額の宝玉は光り、湖の上に人影を移した。

「侑子さん!!」

フウは自分をセフィーロに送ってくれた魔女の名を呼ぶ。

「『ゆっくりと挨拶をしている暇はないわ。彼女はもう限界よ、羽根を彼女から奪いなさい!これ以上魔力を消費すると、彼女の命が危ないわ!!』」

「!!」

フウ達はテトラへと目線を移す。テトラの体は痙攣(けいれん)するように震え、大量に流れ出した汗によって、彼女が身に纏っている衣服が体に張り付いている。

「テトラさん!!」

今まで自分に恐怖を与えていた少女を助けるため、フウは駆け寄ろうとする。

たとえ敵であっても命を助けたい。彼女を死なせてしまっては、テトラがデボネアを倒したフウ達を恨むように、テトラを大切に思う者達が悲しみ、フウ達を恨むものも出てくる。

それでは駄目だ。悲しみや憎しみをこれ以上多くの人に味わって欲しくなかった。

「『碧の疾風』」

目の前の魔物達を吹き飛ばし、テトラまでの道を作る。

「テトラさん!!」

テトラの体を抱き起こし、彼女の手から羽根を取る。

途端、テトラの体は落ち着きを取り戻し、魔力が流れ出るのも収まった。

テトラが力を失ったことで、目標をなくした魔物達。果ての荒野に帰っていくものもいれば、その場にいるフウ達に襲いかかるものもいた。

しかし、戦いは先ほどよりも随分と楽で、すぐにその場はおさまった。

「・・・テトラさん。」

フウは腕の中で気を失っている少女を気遣う。

「随分と衰弱していますね・・・このままだと危ない。」

「何とかなりませんか?」

フウは湖の上の侑子に尋ねる。

「『助かる方法はあるわ・・・でも、対価をもらうわよ。』」

「私に払えるものであれば。」

フウは迷いなく即答する。

「『いいわ。対価はセフィーロ王が戴冠式でかぶっていた王冠の真ん中についてあった宝石よ。』」

うっ!とフェリオが唸るのが聞こえた。

「あれか・・・俺は別に構わないが、導師達が許さないと思うぞ。古代マクシミリオン帝国でなんたらの儀式に使われていた、由緒正しき宝石だっていってたからな。」

なんたらの儀式。といい加減に覚えているあたりから、フェリオが宝石に固執していないことが伺える。

「『知っているわ、古代マクシミリオン帝国の聖龍召還の儀式よ。だからこそ欲しいの。』」

「何とかなりませんか?」

「んん〜」

フェリオは頭を深く抱え込む。自分一人の意見を言わせてもらうなら、宝石一個で人の命が助かるのなら安いものだ。と思っている。しかし、導師達のように宝石の価値を知っているものなら、そう簡単には手放したくない代物だろう。

「・・・わかった。なんとか導師達を説得してみる。無理だったら盗んででも渡すさ。」

自分がかぶった王冠の宝石を盗むというのはなんだか変なカンジだが、あの王冠はフェリオ自身の物ではなく、国の宝なのだ。

「『契約成立ね。それじゃあこれを飲ませなさい。』」

そう言うと、モコナの口から小さな瓶が飛び出てきた。

「これは?」

「『聖水よ。衰弱ぐらい一瞬で治してしまうわ。』」

侑子があまりにも自信たっぶりにいうので、フウはテトラの体を少し持ち上げ、彼女の口に聖水を流し込んだ。

聖水を飲んだテトラは、意識は未だ戻らぬものの、明らかに回復をたどっていた。

モコナが出した建物の中で休ませ、5人はテトラが目覚めるのを待った。

「小狼さんとしては早くサクラさんに羽根を届けたいでしょうに・・・私の我が儘で申し訳ございませんわ。」

本当なら、すぐにでもその場を離れセフィーロへ帰還したいところだが、気を失ったテトラを担いで抜けれるほど、果ての荒野は甘くはない。

「気にしないで下さい。」

はやる気持ちを抑え答える。フウのテトラに対する優しさを無碍にはしたくはなかった。

「テトラちゃんが起きたよ〜」

テトラの看病は交代でしており、今はファイの番だった。

「本当ですか・・・よかった。」

フウは安心したように胸をなで下ろした。侑子は大丈夫といったものの、丸一日目覚めなかったのだから。

「大丈夫ですか?」

ベッドの上で虚ろに目を開き天井を眺めているテトラを覗き込む。

「・・・。」

テトラは何度か瞬きをしフウの顔を見つめるが、何か納得がいかないかのような表情を浮かべ、ベッドの上に体を起こすし辺りをみまわす。

「テトラさん?」

フウが呼ぶと、テトラはゆっくりとフウの方をみた。

「・・・あなただあれ?」

「え?」

「ここ・・・どこ?」

そして再び部屋の中を見回す。

「何で私こんな所にいるの?」

不安そうにフウの顔を、部屋の中にいる全ての人間の顔を見る。しかし、やはり不安そうな顔をするだけで何も覚えていない・・・思い出せないようだ。

「ふぇぇんん。」

見知らぬ人達に囲まれて怖くなったのか、テトラは泣き出してしまった。

フウが世界の果てで対峙した少女とは別人のような態度だった。

「記憶喪失に退行・・・一体どうして?」

何とか泣きやんだテトラを再びベッドに寝かせ、フウ達は部屋から出た。

「もしかしたら、魔力が記憶を蝕んだのかもしれないな。羽根の魔力は、テトラが扱うには強大すぎた。それは、テトラが羽根を使っていたときの苦しみようを見れば分かるだろう。」

「そんなことがあるんですか?」

「分からない。これはあくまで俺の推測だ。」

過ぎた力・・・テトラは自分自身の魔力を考えずに、羽根の魔力を乱用しすぎたのだ。それによる精神への反動。

それがテトラが今のようになってしまった原因である可能性は高い。

「どちらにしろ、ここでは何も出来ませんわ・・・今の状態のテトラさんを連れて果ての荒野に行くのはあまり良いことではありませんが、早く国に帰らなくては。導師クレフならなんとかしてくれるかもしれませんわ。」

セフィーロいちの魔力と知識をもつクレフなら、テトラをどうにか出来るかもしれない。

「そうだな。テトラには厳しいかもしれないが、明日出発しよう。」

そこにいた全員は頷き、明日に備え休むために部屋に戻っていった。

「戻らないのか?」

小狼達は部屋に戻ったというのに、フウは椅子に座ったままだった。

フウは手に持っているグラスの水を飲み干すと、席を立った。

「・・・戻りますわ。」

ドアの方に歩いていこうとするが、気分が優れず、足が絡まって転びそうになった。

「大丈夫か?」

転ぶまえにフェリオはフウの体を支える。フウはあまり顔色が良くはなかった。

「気分が悪いのか?・・・それともどこか痛むか?」

否定するようにフウは力無く首を横に振る。正直、今の体の状態の原因はフウにも分からなかった。城を出たときから、少しばかりの体の変化には気が付いてはいたが、無理が祟ったのか、少しずつ調子が悪くなっていった。

「大丈夫ですわ。・・・ただ、少し吐き気がするだけで・・・何か悪い物でも食べたかしら?」

フェリオを安心させるように微笑む。もちろん、変な物は食べてはいない。

「寝ているときに気分が悪くなったら、遠慮せずに起こせよ?」

「ええ。」

フェリオはフウを支えるようにして歩き、部屋に戻って行った。

ベッドに寝かされたフウは、フェリオを見上げた。

「先ほど聞き逃してしまいましたが、あなた髪はどうなされたのですか?」

フェリオは短くなった髪を撫でるように手を首の後ろに回した。

「ああ・・・その。」

フェリオは言いにくそうに口ごもる。

「どうしたのです?」

「・・・次元の魔女に払った。」

「はぁ?」

フウには珍しく気の抜けた声が口から漏れた。

フェリオはベッドの近くに腰かけると、説明をはじめた。

「お前が魔物に連れ去られた後、俺たちはどうすることも出来なかった。だいたいの方角は分かっても、広い果ての荒野でフウを探すのは無理だった・・・だから、次元の魔女にお前を捜して貰うように頼んだんだ。髪はその対価だとさ・・・あんなもん何に使うのかはしらんがな。」

「でわ、私の・・」

私のせい。そう言おうとするフウの言葉を手で制す。

「俺が望んでやったことだ、お前のせいじゃない。あえて言うなら、お前のため、だ。それに、お前がこちらに来るときにも対価を払ったんだろう?それでおあいこだ。」

フウはだるい体を起こすと苦笑を浮かべ首を振った。

「私は侑子さんに対価らしいものは払っていませんわ。」

「??次元の魔女は対価なしに、人の願いは叶えないだろう?」

「彼女が私に求めた対価・・・それは『会えない悲しみ』です。」

「会えない悲しみ?」

意味が分からず、フェリオは聞き返した。

「私がセフィーロに来ることによって、家族や友人に会えなくなる。それはとても悲しいことだと侑子さんは仰いました。だからそれが私の対価だと。」

大切な人に会えない悲しみ。それがフウがセフィーロにに来るために支払った対価だった。

親しかった全ての人と分かれ、フウはこのセフィーロのフェリオの元に来た。

「私がセフィーロに来れば、友人達と別れなければならないのは当然のことですわ。でも、侑子さんはそれを対価にしてくださいました。彼女は私にこういったのです。」

『自分をここまで育ててくれた両親や、一緒に学問を学んだ友人。魔法騎士として、共に戦った親友を残して、貴方はセフィーロに行くのね?そのすべてを捨てるのは、貴方にとってとても辛い選択だったでしょうに・・・それほど辛い決断をした貴方から、他にどのような対価を取れと言うの?』

それは侑子がみせた優しさでもあったのだろう。

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