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ツバサ〜緑髪の王と風の王妃〜

翌朝。目が覚めたときには昨日の敵の姿はなかった。

フェリオと黒鋼が一度建物の外にでて確かめもしたが、辺りに人影はなく、人が隠れるような場所もなかった。

「どうやら帰っていってみたいだな。」

どこに?という質問を、フウは紅茶と一緒に喉に流し込んだ。

フェリオが答えを持っているはずがない。答えが返ってきたとしても「果ての荒野のさらに奥」などとあいまいな答えだろう。

「眠らずに帰っていった方向を確かめておけばよかったな。」

眠ってしまったことに今更ながら後悔する。

「砂嵐で視界は酷いものでしたわ。起きていても敵がどこに帰っていくかだなんて確かめられませんわ。」

「そうですね。」

結局のところ、昨日と同じように果ての荒野をあてもなく彷徨い、モコナが羽根の気配を感じ取るのを待つしかなかった。

朝食をすますと、5人は馬小屋から馬を出し、再び果ての荒野を進んだ。

「なんだか変じゃないか?」

1時間ほど進むうちに、フェリオは妙な違和感を感じた。

「何がですか?」

「魔物達の様子がおかしい・・・フウばかり狙っている気がする。」

昨日と同じように、魔物は数分おきにフェリオ達を襲った。しかし、昨日とは違い魔物達の標的はフウに集中しているように感じられた。

5人はつねにかたまって行動しており、巨大な魔物達の攻撃は大振りなので、いっけん無差別に攻撃を仕掛けているように見えるが、少しフウから距離をとると、攻撃がフウに集中しているのが分かった。

戦いの最中の会話が祟ってか、一瞬集中がとぎれた時、襲ってきた魔物達の中でも一際大きい魔物の手が、フウとフェリオ達の間に壁のように降ってきた。

「・・・っく!!」

フェリオはフウがいる方向に避けようとしたが、フェリオが乗っている馬は自分が避けやすい方へと動いてしまった。

「きゃああぁぁぁぁ!!」

フウの叫び声が聞こえたかと思うと、フェリオ達を囲む魔物の群れから、一匹の魔物が空中へと飛び上がった。

大きな黒い羽根を持つ人に似た形の魔物・・・その腕には意識を失っているであろうフウの姿があった。

「フウ!!」

フェリオの叫びもむなしく、フウを抱えた魔物は南の方角へと飛んでいってしまった。

すぐに追いかけようにも、フェリオ達を囲う魔物の壁がそれを許さなかった。

数十といた魔物達を倒すのには、さすがの4人も時間がかかり、戦いが終わったのはフウが連れ去られてから数十分が経っていた。

「・・・ん。」

顔に砂がつく不快感にフウは目を覚ます。

魔物に連れ去られる前にシルフから転落し頭を打ってしまったので、まだ頭がずきずきと痛んだ。

痛む頭を押さえながらフウは起きあがり辺りを見回す。

自分は果ての荒野に居たはずなのに、辺りには美しい湖とセフィーロでは見たこともないような美しい花。しかし、少し進めば砂嵐は発生していないが、辺り一面に果てのない砂漠が広がっていた。フウが今居るところは、人々の想像の中にある砂漠のオアシスといったところだ。

「・・・ここは?」

「果ての荒野の終着点だよ。」

独り言に返事が返ってきたことに驚き、フウは身構えるように振り向いた。

「・・・貴方は?それに果ての荒野の終着点とは一体?」

フウの目の前にいるのは、腰まで伸ばした紅の髪を高いところで一つに結び金色の瞳でフウをにらみ付けている少女だった。

「私はテトラ。ここは果ての荒野の終着点・・・世界の終着点だよ。」

少女は微笑む。少女の無邪気な笑顔に、フウはなぜだか背中に悪寒が走るのを感じた。

一見普通の少女だ。しかし、フウは本能的にこの少女がなんだか危険だと感じた。

フウは逃げるように一歩だけ後ずさった。

「知ってる?この世界は平らなんだ。突き進めばいつかは果てにたどり着く。まぁその果てを見つけた人はいないけどね・・・だって世界の果ては存在しない。」

「平らなのに果てが存在しない?それはおかしいですわ。」

少女の矛盾した回答にフウは疑問の声を漏らす。

「世界の果てはコノ世ではないどこかに存在するって言われてる。それはアノ世だとも言われてる・・・私たち人が生の果てに行き着く場所。生きた人間は決して行くことが出来ない場所。」

「では・・・私は死んでしまったのですか?」

フウは冷静に口にする。自分が死んだとは決して思っていないからだ。

「貴方は死んではいないよ。ここはコノ世に存在し、生きた人間が来れる唯一の世界の果て。」

「何故ここだけが生きた人間が来れるのですか?」

テトラは口の端をあげて笑う。そうすると、ふたたびフウの背に悪寒が走る。

「創造主がこの世界を創ったとき・・・初めに円を描いたんだよ。」

「円?」

テトラは近くに落ちている木の枝を拾うと、地面に一つの円を描いた。

「円を描いて、円の中にこの世界を・・・そして、円の外にアノ世を創った。でもね?ある問題があるんだ。」

「問題?」

フウは先ほどから質問ばかりしている。テトラの話が冗談なら適当に流すのだが、なぜだかテトラの話す世界創造の話は真実味を帯びていた。それは、あまりにもテトラが自信たっぷりに話すから・・・

「円を描くと必ず継ぎ目が生じる。円を描き始めた所と、書き終えたところ・・・ここだけはアノ世とコノ世を分ける事ができなかったんだよ。それがココ。」

ココっといってテトラは下を指さす。自分たちが今居る場所という意味で。

「ココが・・・世界の継ぎ目?」

「そうだよ。」

テトラが今までとは違う笑みを浮かべる。憎悪が無理混まれた恐ろしい笑みを。

フウは怖くなり、一歩二歩と後ろに下がる。あと一歩いったら振り返って走って逃げようと思ったとき、フウの体は何者かに戒められた。

「!!!」

フウは驚き顔だけを後ろに向けた。フウを掴んでいたのは人間・・・しかし、その瞳には生きた人間が放つ光が失われていた。

「死人!?」

フウは目線をテトラに戻す。

「死人を操っていたのは・・・貴方!?」

テトラはフウに近づき、そのあごに手を添える。

「そうだよ・・・もう一度言うね?私は幻惑師テトラ。」

あごに添えられた手を頬に移動させると、テトラは力一杯その頬をはたいた。

「魔法騎士嫌いのね!!」

「・・・つぅ。」

フウは両手を拘束されており、痛む頬を押さえることも出来ない。

「いい顔ね・・・涙に滲んだ瞳も、叩かれて紅く色づいた頬も、その苦痛と恐怖を絶えた表情も!!」

テトラは怒鳴り散らすように声を上げると、もう一方の頬もはたいた。

パーンと痛々しい音が鳴る。

フウはキッとテトラをにらみ付けた。

「どうしてこんな事をするのですか!?」

「言ったでしょ?私は魔法騎士が嫌いだって。」

「・・・どうして?」

睨むつけてくるフウの瞳を、テトラはにらみ返す。そうすると、フウを拘束していた死人の力が強まった。

「私つくづく疑問だわ・・・魔法騎士の一人である貴方が、どうして当然のように王妃の椅子に座っているのか。世界の支柱たるエメロードを殺した貴方が。」

フウはビクッと肩を振るわす。それは自分が一番言われたくはない言葉だった。

「・・・貴方は、私がエメロード姫を世界から奪い、その後世界を治める王の妻として存在していることが許せないのですか?」

フウはきっと肯定の言葉が返ってくると思った。しかし、テトラの口からはそうではない言葉が発せられた。

「違うわ。エメロードの話をしたのは貴方の無神経さにあきれるってことを言いたかっただけ。私が貴方を嫌いな理由ではないわ。」

「ではなぜ?」

フウの頬に瞳から流れた涙が伝う・・・恐怖と孤独から生まれた涙が。

テトラが怖い・・・一人ではココにいたくない。こんなにも一人が怖いのは初めてだった。

「私が貴方を嫌いな理由はね?・・・貴方がデボネア様を殺したからよ!!」

フウは涙で赤くなった瞳を大きく見開いた。

デボネア・・・久しく聞かぬ名だ。フウ達魔法騎士が2度目にセフィーロに招還された時、世界を恐怖に陥れた存在。憎悪と邪悪の固まりのような女性。

誰もが彼女を倒した魔法騎士に感謝した。

「私はあの御方の力に憧れてた!!誰もが恐れ屈するあの偉大な御方に!!それなのに貴様ら魔法騎士が奪った!」

理不尽だとフウは叫びたかった。アレを倒すなと言うのは無理な注文だろう。人々を苦しめていた存在を、許せるわけがなかった。

「私は・・・間違ってはいませんわ。ただ、セフィーロの皆さんを救いたかっただけで・・・」

「世界を一度壊しかけといて、次はその世界を救いたい?笑わせないで・・・貴方達はセフィーロの制度は間違ってると思ったんじゃないの?だったら、そんな腐った世界、デボネア様に捧げれば良かったのよ!貴方達魔法騎士は他に帰る場所があったんでしょ?ならここはどうでもいいじゃない!?」

「そんなことありませんわ!!私達が壊してしまったからこそ私達が世界を立て直す必要がありましたわ。セフィーロの人々も・・・世界が救われる事を願ったのです。だから、だから私達はデボネアを倒せた。アレは私達だけの願いではなく、セフィーロの人たちの願いですわ。」

人々が願ったからこそフウ達はデボネアを倒せた。デボネアを倒し、新しいセフィーロで生きることがセフィーロの人々の願いであった。

「・・・デボネアが創る世界は誰も望まなかった。」

「私は願ったわ、望んだわ!!デボネア様が治める世界を!そこで生きることを!」

「恐怖と絶望の世界に生きて貴方はどうするというのですか!!?」

「黙れぇぇぇ!!」

フウとの言い合いで、テトラの瞳も涙で赤くなっている。叫ぶ声も震えており、フウを三度(みたび)叩こうとあげられたてもどことなく弱々しかった。

フウは次にくる衝撃を覚悟し、瞳を堅くつぶったが、その時は訪れなかった。

おそるおそるフウは瞳を開き顔を上げる。フウを叩く叩く為にあげられた手は何者かに止められていた。

「・・・ォ?・・・フェリオ!!」

「それ以上フウを傷つけるのは許さない。そして、フウを返して貰うぞ!」

フェリオは握ったテトラの手を横にはらい、その勢いでテトラは横にころぶ。

フェリオはフウを捕らえていた死人を蹴り倒すと、フウを開放した。剣で死人を切らなかったのは、死人の血がフウに付くのを避けたかったからだ。

フウはフェリオの胸に顔を埋めるようにして抱きついた。安心し、今まで以上に涙があふれ出た。

「遅くなった・・・怖かっただろうな。すまない。」

小さく首を振り、フェリオを見上げる。そして、ある異変にきづく。

「フェリオ・・・貴方、髪はどうなさったの?」

肩より少し長い髪をいつもは後ろで結っていた。その髪が失われ、肩に届かないほどに短くなっていた。

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