Fanfic

ツバサ〜緑髪の王と風の王妃〜

〜セフィーロ城・フェリオとフウの部屋〜

『私の愛するザガートを殺したのはあなたたちね・・・・!許さない!』

『死ね!魔法騎士!』

かつて愛する人を失ったエメロードが、ザガートを奪ったフウ達魔法騎士に投げかけた言葉。その言葉がフウの頭の中で繰り返し響く・・・

「く・・・ふぅ・・うぅ。」

フウは涙をこらえるようにベッドのシーツを握りしめ、枕に顔を埋めた(うずめた)。

4年前の悲劇。魔法騎士として世界を救うため東京より招喚された3人の少女。

獅堂光・龍咲海・鳳凰寺風。魔神と契約を結びそれを纏って、ザガートを倒した。

それで世界は救われるのだと信じていた。しかし現実はエメロードから愛する人を奪っただけだった。悪とされていたザガートは実はエメロードを愛し、彼女を守るために魔法騎士を狙っていた。彼は知っていたから・・・・魔法騎士がセフィーロに招喚された理由が《柱であるエメロードを殺す》事だと・・・

フウはベッドから体を起こす、瞳からはこらえていた涙がしたたり落ちた。

ベッドから立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出し、近くにある椅子に腰かけると本の表紙を見つめた。

本にはセフィーロ文字でこう書かれていた。

【魔法騎士聖伝】

魔法騎士達の旅を美しく脚色して書かれている。魔法騎士に関連する本にはだいたい初めに伝承として受け継がれてきた言葉が載せられる。

【この『セフィーロ』の『柱』に異変が起こった時『異世界』から招喚された者が『伝説の魔法騎士』となって『魔神』の『力』を借りて戦う】

その言葉が載せられているページをめくりフウはその本に目を通した。

《魔法騎士達はその聖なる力で悪しき神官(ソル)ザガートを倒しエメロード姫を救った》

《救われたエメロード姫は後の世界を魔法騎士達に託し、神のもとへ召された(めされた)》

《魔法騎士達は聖女と呼ばれ、一人は今もなおセフィーロに留まり、人々を温かく見守る。かつてのエメロードのように》

フウは大きな音を立て閉じると無造作に床に投げ捨てた。

そして椅子の上で足を抱え、顔を埋め再び声をこらえ涙を流した。

「フウ、入るぞ。」

扉の外から声がフェリオの声が聞こえ、続いて扉が開かれる音が耳に入った。

「フェリオ・・・・」

赤くなった瞳を軽くこすり、涙を拭う。

「大丈夫か?小狼達も心配していたぞ。」

そう言うフェリオも心配そうにフウの肩に手を置いた。

「大丈夫ですわ。・・・少し過去事を思い出してしまっただけですから。」

無理に作った笑顔をフェリオに向ける。そんなフウの表情を見てとても辛そうにフェリオも軽く微笑んだ。

そして、床に本が落ちている事に気づき、その本を拾い上げた。

「フウ・・・この本に書かれていることは気にするな。俺たちはザガートを悪とは思っていないし、お前達魔法騎士も悪じゃない。それに、姉上は最期の最期に幸せになれたはずだ、お前達のおかげで。」

幸せだった・・・・だからこそエメロードは最期に魔法騎士達に「ごめんなさい」そして「ありがとう」の言葉をおくったのだ。

「わかって・・・いるんです。でも・・・でも。」

「フウ・・・俺は魔法騎士が招喚された本当の理由を知っていた。姉上がどうなるかが、真実を知ったお前達がどれだけ傷つくかも・・・お前の事を思うなら止めておけば良かった、しかし俺は姉上の望みを叶えてあげたかった。許してくれ。」

フウは顔を伏せ、首を横に振った。「貴方は悪くない」と言うように。

「・・・貴方やエメロード姫が私たちを責めていないのは分かっていますわ。でも私は自分が許せない・・・もしかしたら他の道もあったのかもしれないのに・・・貴方も姉を失わずにすんだ道が・・・」

フェリオの胸に顔を埋め、今度は堪えることなく涙を流し、声を上げた。

「もういいんだ・・・ありがとうフウ。」

そのままフウが落ち着くまでフェリオは彼女を抱きしめた。

しばらくするとフウは泣き疲れそのまま眠ってしまった。フェリオはフウをベッドに寝かすと、テラスに出て漆黒の闇の中に浮かぶ月を見上げた。

いつかフウが背負った苦しみ、悲しみから解放され本当の笑顔を自分に向けてくれるようにと願をかけて。

「おはようございます、フウさん。昨日は大丈夫でしたか?」

翌朝、部屋の前には小狼とサクラがいた。フェリオはまだ寝ていたが、お腹が空いたので先に朝食をすませようと部屋をでたらそこに小狼達がいたのだ。

「おはようございますわ。昨日は急に席をはずしてすみませんでした。もう大丈夫ですわ。」

いつもどうりの笑顔を小狼達に向けた。それを見て2人も安心したように笑顔を返した。

「俺たち「柱制度」の事を聞きました。柱の意志だけで世界を支えていたって。」

「エメロード姫はとても立派な方でした。・・・・少し話をしませんか?」

フウはそう言って、今まで向かっていた食事の部屋ではなく、城の中にある小さな神殿に向かった。

「他の方もご一緒に」と言うので、途中ファイと黒鋼の部屋によって5人で神殿に向かった。

神殿に美しいステンドガラスから色とりどりの光が差し込んでいる。

創造主の石像あり、その隣には獅子と龍と四翼の鳥の石像があった。

「あれが創造主モコナの石像。その隣にあるのが、私たち魔法騎士が契約を結んだ魔神達の石像です。右からレイアース、セレス、ウィンダム。私はウィンダムと契約を結びました。」

魔神達の名前を聞いて驚く。自分たちが阪神共和国で共に戦った巧断と同じ名前だった。石像では少しわかりにくいが姿も似ている・・・人だけでなく、人以外の存在も異世界にいるとは・・・

「どうかなさいました?」

「・・・いえ。」

言おうかと思ったが、フウの話を聞くためにこの神殿にきたのだから、話さないでおいた。

「そう、ですか・・・皆さんはクレフさん達に「柱制度」の話をお聞きになったとか・・・・では、何故「柱制度」が終わりを迎えたかお聞きになりましたか?」

「いいえ。」と小狼達は首を横に振った。

「でわ、お話し致します・・・魔法騎士の一人である私が。」

フウは心を裂く思いで語り出した。

「私たち魔法騎士は柱であったエメロード姫に招喚されました・・・」

フウはそう語り出した。

魔法騎士達は導師クレフに魔法の力を与えられた。そして、魔法騎士達が招喚された理由・・・エメロード姫を救う事を伝えられた。

創師(ファル)プレセアによって伝説の鉱物「エスクード」で武器を創ってもらったこと。その途中にフェリオと出逢ったこと。魔神を手に入れるまでに沢山のザガートの手下と戦ったこと、魔神の試練・・・フウはその全てを余すことなく小狼に伝えた。

そしてフウは「柱」エメロードの最期を語った。

「私たちは神官ザガートを倒せばエメロード姫は・・・世界は救われると信じていました。そして自分の世界に戻れると・・・しかし現実は違いました。ザガートを倒した私たちはザガートの城でエメロード姫に会いました、そのとき彼女は泣いていた・・・ザガートの死を悲しんでいたのです。」

「!!ザガートはエメロードを誘拐した悪い奴では無いのですか!?」

今までの話を聞いただけなら、小狼達がそう思うのは当然だ。

しかしフウは首を横に振り、小狼の質問を否定した。

「違います・・・ザガートはエメロード姫を守っていたんです・・・私たち魔法騎士から。」

「どういう・・・事ですか?」

フウの言い方はまるで悪いのは、悪と呼ばれる存在は自分たちであるようだった。

「エメロード姫の本当の願いを彼は知っていたから。」

「本当の・・・願い?」

フウはコクリと頷き顔を上げて小狼達の顔をしっかりと見つめた。

「エメロード姫のいう救い・・・・それは死です。彼女はザガートを愛していたんです。世界の平和のみを願わねばならない「柱」が、1人の人間を好きになってしまった・・・・彼のみが幸せであればよいと願うようになったのです。それでもなお世界のことのみを願わねばならなかった、そうでないとセフィーロが滅んでしまうから・・・」

エメロードの苦痛が自分のことのように胸を痛める。

彼女の悲しみが、苦しみが今でも伝わってくる・・・・フウは胸を押さえながらに続きを語る。

「・・・だから彼女は自らの死を願った。世界が壊れる前にと・・・ザガードの事を忘れ国だけを思うことは無理だったのです。それほどまでに彼を愛していたのでしょう。・・・私と他の魔法騎士の2人は彼女の願いを受け入れました。・・・彼女は最期に「ごめんなさい」と「ありがとう」と私たちに言いました。・・・謝るのは私達の方なのに。彼女は救われたんでしょうか?」

かつてのことは今思い出しても涙がこぼれ落ちる。小狼達の前で泣くことを恥とも思わず、フウは大粒の涙を流した。

『エメロード姫は救われたのか?』この言葉はフウが自分自身にいつも問うこと。死が救いなどあまりにも悲しすぎるから。

「・・・・フウさん。」

目の前で泣くフウに影響されてか、小狼達まで悲しい気持ちになる。フウが語る真実はそれほどまでに深い悲しみが満ちていた。

「私は・・・救われたと思います。」

サクラは自分のハンカチをフウに手渡し、涙を拭うことを促した。そのサクラの瞳にもかすかに涙がたまっていた。

「死後の世界・・・天国があるのかは私には分からないけど、でも、エメロード姫は死の後にザガートさんと結ばれることを願ったんでしょう?気休めの言葉にしかならないかもしれないけど・・・信じるものは救われる。エメロード姫もザガートさんも本当に互いだけを想い合える事を信じていたんなら、きっと2人のその願いは叶ったと私は思います。」

「サクラさん・・・」

「だから、エメロード姫はフウさん達の幸せを願っても・・・こんなふうに悲しんだり苦しんだりすることは願わないと思うな・・・」

いつの間にかフウの涙は止まり、目の前のサクラを見つめる。自分よりも短い時間を生きているであろう少女に、昨日会ったばかりの少女に、自分が抱いていた疑問の答えを与えて貰った。

自分の事を本当に思ってくれているフェリオやクレフ達の答えでさえ信じられなかった。信じようとしなかった・・・それは、彼らが魔法騎士のやったことを知っているから・・・彼らから大切な者を奪ってしまったから。自分の中にある罪悪感を彼らへの疑いに変えていた自分がいたことにフウは気づく。

フウは人間というものをよく理解していたから。人間は自分の有利を好み求める。気づいていなくても、考えていなくても、魔法騎士は魔法騎士の、フェリオ達はフェリオ達の味方をしてしまう。

だから、誰の味方をする必要のない第三者が必要だったのだ。

セフィーロにいる限りそれは得られないものだった。異界を旅するサクラ達がいなければ、フウは永遠に一人で悩み、苦しんだことだろう。

そこから解放してくれたのはフウが求めていた第三者・・・サクラ達だった。

「ありがとう・・・ございます。私なんだかとても心が軽い。自分にとても素直になれそうですわ。一つ、一人では飛べないハードルを越えた気がします、私フェリオ達に謝らなくてはいけませんわね。」

「謝る?どうしてですか?」

「信じていると言いながら、私は彼らを信じてはいなかった。ハードルを越えた今、私は本当に彼らを信じたいんです。だから疑っていたことに謝らなくては。」

そういって微笑むフウの顔は、先ほどまでとは比べものにならないくらいに輝いており、とても優しかった。これが本当のフウなんだろう。

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