Fanfic

Endless Destruction

桔梗

誠実 愛情 温和 従順

私は何処へも行かない

ずっと一緒にいる

何があっても離れない

あなたが望むまで

「いつ見てもでっかいなぁ。」

豪邸を前にぼけーっと本須和秀樹は立っていた。

「ち?」

「いつか俺も住んでみたいなぁ・・こんな家に・・脱!貧乏予備校生!!」

『ピンポーン』

ちぃはインターホンを鳴らした。

「あっこら、ちぃ!勝手に押すなよ!」

「ち?」

ちぃはきょとんと首を傾げた。

「秀樹・・押したらいけなかったの?ちぃ悪い子?」

「いや・・押したらいけないことはないけど・・えっと・・」

「じゃあ秀樹悪い子!」

「はぁ?」

「だって秀樹、悪くないのにちぃ怒った!」

「あのなぁ・・・」

秀樹とちぃはいつものような会話をしていた。

「あのさ・・いちゃいちゃするのはかまわないんだけど、人の家の前ではやめてくれる?本須和さん。」

「お。稔君・・って、いちゃいちゃしてない!!」

「してるよ。手繋いでる所から既に。」

「え・・」

「ち?」

「まぁいいいからさ、用があってきたんだろ中入りなよ。」

「おっ。悪ぃ・・」

すると玄関が開いた。

秀樹は稔のパソコンによりある部屋に案内された。

「おっ!?」

「よっす。本須和。」

ドアを開けるとそこには秀樹の友達の新保が居た。

「新保!何でお前ここに・・!」

「なんだよ、いちゃ悪ぃかよ。」

「いや・・そういうわけじゃ・・」

「じゃあ何だよ。」

「ま、何でもいいから。それより本題。今日はどうしたの?本須和さん。」

稔が二人の言い合いにあきれたように口を挟んだ。

「あ、うん。えっと・・」

秀樹は顎でちぃの事だと合図した。

「そ。柚姫、ちぃさんを隣に連れて行ってあげて。」

「はい。稔様。ちぃさん、こちらへ。」

そこまで稔の後ろに立っていた柚姫が動いた。

「秀樹・・」

「大丈夫だから、ちぃ。」

「あ。すももも一緒に行きな。」

「あい!」

新保の小さなパソコンも柚姫とちぃについていった。

ぱたんとドアが閉まると稔が口を開いた。

「んで、ちぃさん一体どうしたの?」

「えっと、最近変なんだ。」

部屋の中には3人だけだと分かると秀樹も話し始めた。

「どういう風になんだ。本須和。」

「えっと、朝起きてみるとちぃがいなくなってたり・・一緒にどっかいったりした時もいきなりいなくなって、気づいたら違うところにいるとか。それで聞いてみても覚えてないみたいなんだ。」

「ふぅん。最近ちぃさんになんかどっか打つとか衝撃あった?」

「多分無い・・と思う。」

「お前が変な事したんじゃねぇの?」

新保がにやりとした。

「してねぇよ!」

秀樹は真っ赤になって全面否定した。

「冗談だって。冗談。」

「冗談言ってる場合じゃないよ、新保さん。」

「まぁそうだな。・・俺のすももも最近変と言えば変なんだ。」

「新保も!?」

「俺はもともとそういう了見で来てたんだよ。ここに。」

「うん。なんかフリーズの回数が多くなって、ちぃさんと同じく物事を忘れやすくなってるらしい。」

「それは寿命なんじゃ・・植田さんのみたいに。」

「違うって!って植田さんって誰だよ。」

「あ〜・・。あの・・えっと。一昔前にパソコンと結婚したのちパソコンが寿命になってしかも交通事故になったとかなんとか・・」

稔が答えた。

「いや。何で知ってんだよ。お前そのとき小学生だろ・・」

「結構話題になってたからね。」

話は訳の分からない方向に進んでしまい、3人はパソコンの調子が悪いことをすっかり忘れてしまった。

そのころ隣の部屋では。

「ちぃさん・・どうしました?」

柚姫がそわそわしているちぃに言った。

「えっと、秀樹・・」

「本須和さんなら今、稔様と新保さんとお話されてる最中ですよ。」

柚姫はにこりと笑った。

「ちぃ、秀樹のとこ行って来る。」

「駄目ですよ。稔様に言われていますので。」

柚姫は出ていこうとするちぃを止めた。

「すももは踊っとく〜!」

すももはくるくると回転し始めた。

「やだ・・ちぃ、秀樹と離れたくない・・」

するとちぃから何かが起動するような音がし始めた。

柚姫とすももの動きが止まった。

「え!柚姫!?」

稔は警告音に気づいた。

稔は急いで隣の部屋に行った。

その後新保と秀樹も部屋に駆けつけた。

すると、そこには倒れている柚姫とすももがいた。

「柚姫!!」

「すもも!!」

稔と新保は自分のパソコンに駆け寄った。

「おい・・新保・・」

放心状態のまま秀樹は新保に話しかけた。

「何だよ!くそっ!すもも!」

「ち・・は?」

「は?」

「ちぃは?」

稔と新保は同時に本須和を見た。

ちぃの姿は何処にもなかった。

「え・・これ、まさか・・ちぃの身に・・!」

「落ち着いて!本須和さん!」

稔が叫んだ。

「あ・・そうだな・・うん・・」

それでも秀樹は動揺を隠しきれなかった。

「えっと、本須和さんと新保さんは外にちぃさんを探しに行ってください。パソコンは直しておきますから。」

「お・・おう!」

「あ、本須和さん達についていってあげて。連絡用に。」

「分かりました。」

稔は控えていたパソコンのうちの1人に言った。

同刻

「うっ!」

「・・ん・・ジーマ!?」

ジーマの上で気持ちよさそうに寝ていたディタがジーマのうめき声で飛び起きた。

「どうしたの!?」

「いや・・何でも・・・」

「無いわけないだろ!」

ディタは無理矢理自分のコードをジーマに繋いだ。

「あの子!?」

「・・っ!」

「ジーマ!・・やっぱりプログラムが!!あの子やっぱり・・」

「違う!」

「じゃあ何!?」

ディタはムッとした。

「違う!誰かが・・あのお嬢さんのプログラムをいじってたんだ!」

「え・・!?」

ディタは一瞬凍り付いた。

「誰が!どうやって!」

「知るわけないだろ。今探ろうとしたらこっちに侵入してきたんだ!」

「誰にしろ・・ジーマに侵入する奴は許さない!!」

ディタは保安システムを立ち上げた。

「やめろ!ディタ!」

「っ・・!」

ディタが苦しそうな声を出した。

「何これ・・尋常じゃない・・」

「もうやめろ!」

「やだ!ジーマが誰かに壊されるのは絶対嫌だ!」

一瞬バリッと音がしたのを聞いてジーマはディタのコードを引っこ抜いた。

「痛!データ消えるぞ!」

「それより・・大丈夫か?」

「うん・・」

ジーマはほっとし、ディタを抱きしめた。

「あ・・追い払いはしたからな!」

ディタが真っ赤になって言った。

「ん・・俺はディタの方が心配だったがな。」

「う・・でもあれ・・侵入したの誰だったんだろ・・」

「さぁ・・普通の人やパソコンでは無い事は確かだな・・」

「そだな・・」

「それよりさぁ。ディタ。さっきヤキモチやいてくれただろ。」

ジーマがニヤリとした。

「なっ!ちが!」

ディタはさらに赤くなった。

あのお嬢さんに何事もなければいいが・・

ジーマは密かに願った。

同刻

「誰?」

狭い路地の中でちぃはうずくまっていた。

「ちぃの中にいるの誰?」

「私よ。」

黒い格好をしたちぃと同じ姿の女の子が出てきた。

「違う。前にあった子じゃない。あなた誰?」

やっぱりばれたか・・

黒ちぃはニヤリと笑った。

「ねぇ秀樹どこ?ちぃ、秀樹探してるのに・・ちぃ、気づいたらここにいた。」

「本須和さんならあっちでみたわよ。」

「わかった。ありがとう。」

ちぃは黒ちぃが指したあさっての方向に向かっていった。

瞬間、ちぃが向かった反対方向の道を秀樹が横切った。

やはりパソコンは扱いやすい・・

黒ちぃはまたニヤリとした。

「秀樹・・どこ?」

ちぃはもう秀樹の家からもの凄く遠いところへ来ていた。

すると後ろから声がした。

「ちぃ!!」

秀樹だった。

「秀樹!」

ちぃは秀樹に駆け寄った。

「・・秀樹じゃない・・」

ちぃは秀樹から一歩下がった。

「・・・秀樹何処?」

瞬間、またちぃの中から何かが起動する音がした。

そして秀樹の格好をした何かからも同じような音がした。

そしてそこから半径5キロメートル内の全てのパソコンが止まった。

ちぃと秀樹の格好をした何か以外・・

秀樹の格好をした何かは黒ちぃの姿になった。

何かの手から剣が出てきた。

「私もパソコン。でも最新技術によって体内の物体の分子などを移動させて違う物体をつくれる機能があるの。」

そして黒ちぃは剣をちぃに突きつけた。

「だからいろんな姿になれるのよ。ちぃ。」

2人の間に亀裂のような風が吹き抜けていった。

そして黒ちぃは手からはえたような剣を思いっきり振り下ろした。

ちぃはふわりと後ろに飛んだ。

その間にも2人のプログラムの侵攻が進んでいた。

すでに10キロメートル内の全てのシステムが停止していた。

「ジーマ!やっぱり・・」

「っ・・これはさすがにやばいな・・」

「あの子は何処にいるの!?止めなきゃ!」

「待て!今あの子らの所へ行ったって止められない!」

「何で!このシステムならできる!」

ディタが叫んだ。

「あのお嬢さん1人ならな・・でも今は2人同時に起動してるんだ・・」

「2人!?」

「あの人の作ったパソコンはもう1体あるだろう・・」

「でも!それは・・1つに・・」

「誰かが干渉してあのお嬢さんと2人に分けたんだ・・」

「な!誰が!前の奴!?」

「おそらくな・・・」

「く・・・」

ディタは気づかなかった。

ジーマはもう2人分のプログラムのせいで今にも倒れそうだったことを。

しかし今ジーマが倒れてしまうとディタが怒ってちぃ達に手出しをしてしまう。

そうすれば、いかにディタでも無事なわけがないことをジーマはわかっていたのだ。

黒ちぃが一方的にちぃに向かっていくのに比べてちぃは避けてばかりだった。

すると、黒ちぃの腕が弓矢に変わった。

そしてちぃに向かって弓を引いた。

矢はほとんど見えない糸か何かで黒ちぃと繋がれていた。

そして黒ちぃはちぃに向かって矢を射た。

ちぃは矢を紙一重で避けた。

ちぃは風に乗っているようにふわふわと次々来る矢を避けた。

そしてその間にもプログラムは侵攻していた。

もう誰に止められないと誰もが思った瞬間だった。

「ちぃ!」

ちぃの後ろには秀樹の姿があった。

新保は稔の止まったパソコンについていて、秀樹一人だった。

「秀樹・・本物の秀樹・・」

ちぃは、ぱっと明るくなり秀樹に抱きついた。

「ちぃ!どうした!?」

秀樹はちぃを悲しく見つめる瞳に気づいた。

「私も・・そうなりたかった・・」

「・・フレイヤ!?」

そして、黒ちぃは秀樹に向かって矢を射た。

その矢をちぃが受けた。

矢はちぃの腕に刺さった。

「ちぃ!」

「秀樹を・・傷つけないで・・」

「フレイヤ!何でこんな事!?」

「ちぃと・・全てのパソコンを壊すため・・・」

「なっ・・・!?」

秀樹は声にならないほど驚いた。

あの時、とても優しそうだったフレイヤが何故・・と思っていると黒ちぃがちぃに歩み寄った。

秀樹はちぃの前に立ち、黒ちぃを制止したが黒ちぃは構わずちぃに近づき話しかけた。

「ちぃ、私はパパを愛している。でも一方で恨んでもいるの。」

「何で!?」

秀樹が叫んだ。

「私たちにアタシダケノヒトというシステムを入れたこと・・」

黒ちぃはうつむいた。

「そんな物がなかったら、ちぃだってそんな怪我することもないんだよ。辛くないんだよ。」

「違う・・ちぃは・・」

「身を守るなら警護システムをいれればいい・・甘い言葉が欲しいなら、そうプログラムすればいい・・私たちにはもともと心なんか無いのだから・・」

黒ちぃは胸をぎゅっとおさえた。

泣いているようにも秀樹には見えた。

しかし黒ちぃもパソコンなのだ。

泣きたくても泣けない・・・

そう思うと秀樹の胸が痛んだ。

「心がないのに・・プログラムされたことしかできないのに・・それなのにパパが入れたシステムのせいで私は苦しみ・・そして壊れたの・・」

もう秀樹には何も言い返せなかった。

ちぃもうつむいていた。

「もうこんな思いをして欲しくないの・・誰にも・・」

そして黒ちぃの手はまた剣に変わりちぃに突きつけた。

「だから、ちぃ。あなたを壊す・・・」

剣が振り下ろされた。

秀樹が止めようと飛び込んだが間に合わないのは一目瞭然だった。

「待って!フレイヤ!」

千歳だった。

黒ちぃの手がピタリと止まった。

「ママ・・」

千歳が黒ちぃに駆け寄っていった。

「あなた、パパを恨んでるの?パパはもう嫌いなの?」

千歳は涙ぐんで黒ちぃに抱きついた。

「嫌いじゃないわ。パパは今でもアタシダケノヒト。」

黒ちぃは優しく千歳に笑いかけた。

「じゃあ・・」

「ママも大好き。でも・・」

黒ちぃは空を見上げた。

「私はもう私じゃないの・・」

「え・・」

「私の中にはもうパパへの恨みが最優先なの。ママ。」

黒ちぃは優しく千歳の手をほどいた。

「だから・・ママ。ママを憎んでるわけじゃないの。」

黒ちぃからまた剣が出てきた。

「でもね。もうこんな思い誰にもして欲しくない・・だから壊すの。もともと私たちが居なくても人間達は生きていけたのだから・・」

「やっぱりフレイヤは優しい子ね。」

千歳は悲しそうに笑った。

「でも・・あなた達のパパは・・確かにあなた達に心をあげることは出来なかったわ!でも!あなた達により人間らしく生きて欲しかったのよ!」

黒ちぃはうつむいた。

「あなたは確かにとてもとても辛い思いをしたわ!けど!私も、エルダも!あなたのパパ・・アタシダケノヒトも辛い思いをしたわ!」

「もういいよ・・ママ・・」

「あなただけじゃないの!みんな辛い思いをするかもしれないのに・・したのに!まだあなたのパパがアタシダケノヒトのシステムを残したのは何故だか分かる!?」

「もう聞きたくない!」

「みんなが幸せになれるかもしれないからよ!」

千歳は涙をぽろぽろ流しながら叫んだ。

「みんなが辛い思いをするかもしれないけど、幸せになれるかもしれないから・・だから・・」

「じゃあ!じゃあ幸せになれなかった思いはどうするの!?ママ!」

千歳ははっと黒ちぃを見た。

「私のような辛い思いをした方はどうするの!?ちぃがもし・・幸せのなれなかったら・・どうするの!?」

黒ちぃはもう我を忘れて叫んだ。

その時、黒ちぃの脳裏にある言葉がよぎった。

−やはり千歳は邪魔だな−

黒ちぃはピクッと体を震わせた。

−殺れ!−

「や・・だ・・!」

黒ちぃは抗議の声を出しつつ千歳に剣を振り下ろした。

「フレイヤ・・!」

千歳から真っ赤な血飛沫が出た。

「千歳さん!!」

その時まで2人の会話をただ聞くことしかできなかった秀樹が千歳に駆け寄った。

黒ちぃの中で何かが音を立てて割れた。

「・・っ!」

そして黒ちぃはその場を立ち去った。

「待って・・フレイヤ・・」

千歳は消え入りそうな声で黒ちぃを呼んだがもうその声は秀樹にしか聞こえないくらい弱っていた。

その時、黒い影が秀樹達の前に飛び降りた。

ディタとジーマだった。

「・・こりゃやばいな・・」

「うん。」

「君たちは・・!・・それより救急車!」

秀樹は混乱していた。

「駄目だ。今、このへん全てのシステムが完全に断ち切れて、街は混乱のさなかにいるんだ。早く助けが来る可能性は見込まれない。」

「それよか、大病院は機械中心だからさらにあてに出来ないよ。」

ディタが言った。

「そうだな・・」

そして千歳はディタとジーマによって小さな病院へと運ばれて一命をとりとめた。

その間、ちぃはずっとうつむいたまま、何もしゃべらなかった。

千歳の病室の窓からは綺麗な桔梗の花が見えていた。

1体のパソコンの暴走によって、この国は混乱の渦に巻き込まれた。

この国も破滅への道を歩んでいたのだ。

〜第2章・完〜

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