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Desire

絶句しているさくらを見て、桃矢は一端(いったん)言葉を切る。

「大丈夫か? さくら」

やはりまだ早すぎたのだろうか・・・と思った。

さくらはしばらく放心状態(ほうしんじょうたい)のままだった。

それからしばらくすると少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「・・・ごめんなさい。私・・・」

桃矢はさくらの頭を軽く撫(な)でながら言う。

「気にするな・・・。誰だってこんな話聞けば取り乱すもんだ・・・。お前は何も悪くない・・・」

そう言う桃矢の眼差(まなざ)しがいつもと違っていた事にさくらは気付いただろうか。

「・・・それからどうなったの?」

さくらが何か意を決したように訊(き)く。

「・・・ああ。自分は無罪だと言い続けて・・・、古くからの知り合いに罪を被ってもらって、その間に桂樹は失踪(しっそう)したんだ」

「失踪?」

さくらは驚く。それもその筈だ。普通、政治家自(みずか)ら失踪するなどありえないからだ。

失踪した理由は分からない。それは目的を果たしたからなのか、それとも他に何か理由があったからなのか・・・。

「俺は・・・そんな自分が赦(ゆる)せなくて軍隊を脱(ぬ)けたんだ・・・。一からやり直そうと日本を出た・・・。お前を置いて・・・」

ふと悲しげな表情になる。

彼は一呼吸おいてから話を続ける。

「何もかも忘れたかった・・・。けど、忘れられなかった・・・。あれは悪夢(あくむ)だとそう言って欲しかった俺の〝甘え〟なのかも知れないが・・・。それから雪兎が俺を追って軍を脱けたんだ」

そんな複雑な事情などさくらが知っている筈はない。

だが、さくらはそんな事情を知らずに過ごしていた自分を責めようとした。

自分だけが甘く優しい場所にいた。傷付けられそうになれば守ってくれる人達がいた。けれど桃矢にはそんな場所がなかった・・・。

「・・・責めるな。お前はそれでいいんだ。もうこれ以上俺の目の前から何かを失うのはゴメンだからな・・・。弱い立場の人間が守られるのは当然の事だ・・・」

さくらは先程から気になっていたある疑問を桃矢に投げ掛けた。

「その〝古くからの知り合い〟って誰・・・?」

「ああ、〝霧嶋大樹(きりしま・だいき)〟っていう政治家だよ」

(霧嶋大樹・・・?)

さくらはその名を知らない。

「桂樹が犯した罪はそれだけじゃねえ・・・」

桃矢の言葉が途切れ途切れになった。

さくらは何か嫌な予感がしていた。

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