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Desire

桃矢は、言えないと思った。

あんな残酷な事を言わなければならないのか・・・。

もし、それを実行しなかったら・・・?

考えるだけで混乱する。

傍にいる雪兎が声をかける。

「・・・本当に大丈夫?」

「ああ・・・。もう時間を稼ぐのは終わりだ」

「・・・それじゃあ・・・」

「まだふっ切れた訳じゃない・・・。でも、もういい加減終わりにしないとな」

「とーや・・・」

雪兎は不安の混じった声で桃矢に何か言いかけようとした。

すると、部屋のドアを誰かがノックしていた。

「はい」

桃矢が応じる。

「・・・ちょっといいかしら?」

「園美さん・・・」

雪兎は信じられないという眼差(まなざ)しで園美を見た。

「・・・どうぞ」

そう言って桃矢はドアを閉めた。

「ごめんなさいね。突然来て・・・」

「いいえ・・。大体の事は察しがついていますから・・・」

「そう・・・」

園美はどこを見ているのか解らない。ただ一つ言えるのは彼女の心は「心ここにあらず」の状態である。

「・・・別に桃矢君達を責めたい訳じゃないわ・・・」

「え?!」

突然の、しかも全く予期していない展開に桃矢達は驚く。

「何故・・ですか? 俺はっ・・・、母さんの記憶から・・・」

総てを消したのだ。それも生きていく上で必要な事以外の総てを。

そう言葉を継ごうとした時の事だった。

「勿論、最初は解らなかったわ。〝何故? 何故そんな残酷な事が出来るの?〟って・・・」

短い沈黙が流れる。

「でも・・・、撫子が桃矢君やさくらちゃんを愛していた事まで桃矢君は撫子の記憶から消したんでしょう? その方がずっと辛いわ・・・。それに撫子が忘れても私は撫子の事を憶えているから・・・。あの子が忘れてしまっても・・・」

「だから・・・、俺は園美さん達に憎まれて当然なのに・・・」

「違うわ」

園美はキッパリと言い放つ。

「あの子が・・・撫子が愛して育てたんですもの・・・。それなら私も同じように愛して育てたいと思ったからよ・・・」

雪兎が突然口を開く。

「・・・どうしてそんな風に考えられるんですか?」

それは桃矢も同じ疑問を抱いていた。

「あの子が残した忘れ形見をどうして憎む事が出来るの? 私にとっては桃矢君もさくらちゃんも我が子同然よ」

園美には、きっと蔑(さげす)まれたりするんだろうと思っていたのに・・・。

桃矢は園美の深く大きな愛を感じながら大粒の涙を零(こぼ)した。

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